top of page
執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞] 北本宗子 /The University of Michigan Medical School

更新日:2021年4月6日

Hiroko Nagao-Kitamoto, Ph.D.

腸内常在細菌叢が担う偽膜性大腸炎の抑制メカニズムの解明とその治療応用

Interleukin-22-mediated host glycosylation prevents Clostridioides difficile infection by modulating the metabolic activity of the gut microbiota

Nature Medicine

2020年2月


Clostridioides difficile (以下、Cd)感染症は欧米を中心に、増加の一途を辿る致死性の腸管感染症である。健常なヒトの腸内常在細菌叢の腸管環境下では、Cdはうまく増殖できず排除されることが知られている。しかし、抗菌薬の使用や腸管炎症により「正常な腸内細菌叢が撹乱される」ことで、腸管内で毒素産生を伴うCdの異常増殖が誘導され、偽膜性大腸炎として知られる重篤な腸管炎症を引き起こすことが知られている。しかし、健常な腸内細菌がどのようにしてCd感染を防いでいるのか?についての詳細は未だ不明であり、有効で安全な治療法を開発する上で解決すべき重要な課題となっていた。我々は本研究で、既存の免疫学と最先端のノトバイオートマウス作製技術(ヒトの腸内細菌叢を無菌マウスに再現したマウス作製技術)、さらにマイクロバイオーム(腸内細菌叢)、メタボローム(細菌性代謝物)、及びグライコーム(腸管内糖鎖解析)等の網羅的解析を組み合わせることで、Cd感染症の詳細なメカニズムの解明とその新規治療法の確立を試みた。

 その結果、1)腸内常在細菌の定着によって腸管でIL-22が誘導され、N型糖鎖を腸管粘膜上に増加させること、2)腸管内で増えたN型糖鎖を栄養源とする、Cdの腸管内増殖を抑制する細菌(Cdが増殖に必要な栄養源であるコハク酸を消費する栄養競合細菌: Phascolarctobacterium、以下、Pb)を発見した。3)さらに、これら知見の臨床応用への可能性を評価するため、臨床的にCd感染症のハイリスク群を模したマウスモデル(常在細菌叢の撹乱を再現したマウス)を用いて、競合細菌Pbの効果を調べたところ、Pbの投与により顕著にCdの腸管増殖及び病態形成を有意に抑制できることが確かめられた。そして上記マウス実験で得られた結果と一致して、4)Cd感染症の高リスク群である炎症性腸疾患者では、IL-22シグナル経路の不活性化やN型糖鎖修飾の糖転移酵素の発現が減少していることも見いだした。

 本研究では、これまで不明であった腸内常在細菌叢が持つCd感染抵抗性の詳細なメカニズムの解明及び、感染抵抗性を担う競合細菌Pbの同定に成功した。今後、本研究成果を基盤とした新たなCd感染症の予防及び治療法の開発が期待される。


審査員のコメント:

炎症性腸炎の患者でClostridioides difficile 細菌が好まない環境をつくることで、Clostridioides difficile 細菌感染を防ぐ臨床応用が、遠くない将来期待できる点で、基礎研究の枠にとどまらないインパクトの高い研究成果といえる。(岩瀬先生)


PdがCdの増殖に必要なコハク酸を競合するからである。栄養競合が重篤な病変の発症機構である、ということで臨床治療法の開発に大きな光明を与える発見であるといえよう。

(三品先生)


本研究論文はCdの増殖を競合的に抑制する働きをする細菌種を同定し、また、後者の増殖を健常な腸内常在細菌の存在がどのように促進するかを明らかにしました。新しい原理に基づく治療法の開発につながる可能性があります。(小野先生) 受賞コメント: この度は、UJA優秀論文賞という名誉な賞を頂戴し、光栄に思います。渡米を期に粘膜免疫に着目した研究に取り組み、この研究を始めた当初はPIの鎌田先生や共同研究者、スタッフの方々に色々とサポートを受けながら、慣れない実験をこなしていく日々でした。この素晴らしい人々との出会いやミシガン大学の優れた研究コアなくして本研究の遂行は成し得なかったと思います。今回の過程で培った経験を今後の研究生活にも活かし、少しでも臨床の現場に還元できるような研究に取り組んでいけるよう、より一層精進して参ります。

最後に、本賞を企画、取りまとめ頂いた先生方をはじめ、論文の審査に貴重な時間を費やして下さった先生方に感謝申し上げます。 エピソード: 周囲のサポートのおかげで研究自体は比較的スムーズに進みましたが、研究後半に差し掛かった初回投稿のタイミングと(予定よりだいぶ早まった)出産のタイミングが重なってしまったのが大変でした。産休明け、すぐにリバイス実験に取り掛かりましたが、育児と研究の両立に苦戦することも度々あり、当初予定していた期間よりも論文完成に長い時間を費やしました。しかし、様々な方々の協力をいただくことで、納得がいく論文に仕上げることが出来たことは、今後の私の研究者人生において大きな糧になることと思います。女性研究者には、ライフイベントに伴うキャリアの不安も出てきますが、周囲の方との人間関係を築きあげていきながら研究地盤を固めていくことが、ライフイベントに沿った研究生活を続けて行く上で重要なことだと感じました。

閲覧数:751回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page