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[特別賞]山本亮/UCLA

Ryo Yamamoto,

[分野:南カリフォルニア]
(細胞組織特異的な老化と遺伝子型のヒト遺伝子発現系における影響)
Nature Communications, October 2022

概要
 老化はヒトの様々な疾患のリスク要因であり、老化の基礎的なシステムの解明はさまざまな疾患の解明に寄与するため重要である。従来より老化による細胞への影響は不均一性の増加という形で観測されてきたが、現代のゲノミクス技術の発展により、様々な細胞組織において遺伝子発現系の老化への影響を定量的に解析することが可能となった。本論文は遺伝と老化の影響が遺伝子発現系に与える影響を948人のドナーから得た27つの細胞組織において解析した。初めに遺伝子発現系において遺伝子型が与える影響は多数の細胞組織において老化に連れて減少することを示した。具体的にeQTL(expression quntitative trait loci)の影響は老化により減少する。さらに遺伝子型と年齢を遺伝子発現系の推測モデルに組み込むことにより遺伝子発現系における遺伝性と老化の影響を同時に解析することに成功した。これにより、ほとんどの細胞組織において遺伝性の影響は類似性を示したが、老化による影響は細胞組織特異的であることが判明した。また選択圧と老化の影響に関するメダワー仮説を5つの細胞組織を除いてほとんどの細胞組織が支持することを示し、メダワー仮説を支持する新たな証拠となった。さらにこの5つのメダワー仮説を支持しない細胞組織はがんに診断される可能性の最も高い5つの細胞組織であることを発見し、がんのリスクと組織特異的な選択圧の関連を示した。本研究は老化の遺伝子発現系における影響を包括的かつ組織特異的な方法論で解析した。さらに、遺伝子型、遺伝性と老化の関係を具体的に解析し現代ゲノミクスで流行しているGWASやTWASといった方法論にとって老化の影響を考慮することの重要性も示している。今後は単一細胞データにおけるより詳細な発現系における老化の影響が期待される。

受賞者のコメント
この度はUJA論文賞を受賞することができて本当に光栄に思います。運営のみなさん、審査員のみなさんやスポンサーのみなさんに感謝するとともにこれからもいい研究に打ち込みたいと思います。

審査員のコメント
植木靖好 先生:
これまで不明であった、遺伝子発現に対する老化の影響を27種類のヒト組織で解析した素晴らしい成果である。ヒト組織を使った点で結果の臨床的、科学的重要性を強固にしている。さらに老化の遺伝子発現に対する影響が大きな組織と小さな組織があることも示された。影響の小さな前立腺、横行結腸、乳腺、血球細胞、肺組織が癌化と関連していることも示唆された。バイオインフォーマティクスを用いて老化が癌化に及ぼす影響を遺伝子発現の面から解析した点で新規性があり、今後さらなる別組織やシングル細胞での同様の解析を行うことで一層の発展が期待できる。

金子直樹 先生:
申請者らはGTEx V8から得た948人における27種類の組織についてのbulk-tissue transcriptomic dataを用い、 遺伝と加齢の遺伝子発現における影響を評価した。多くの組織では遺伝子発現の変化を生むGenetic variantの部位(eQTL)の影響が加齢によって減少することを示した。さらに遺伝子発現に対して年齢と組織の両方の影響を推測できるモデルを用い、Genetic variantによる遺伝子発現の差は組織間で差が少ない一方、年齢による遺伝子発現の差は組織によってかなり差があることを発見した。特に肺、血液、横行結腸、乳腺、前立腺という癌の多い組織では、加齢による遺伝子発現パターンに対する影響が強かった。これらの結果は、年齢と組織が遺伝子発現に強い影響を与えることを示しており、将来の様々な分野の研究に非常に大きな影響を与える可能性がある。

北郷明成 先生:
本研究は、人間の加齢に伴う疾患と遺伝的変異を関連付ける研究に大きな影響を与える非常に重要な研究である。著者らは948人のヒトから得た27の異なる組織における遺伝学と加齢の相対的な役割を評価する統計学的モデルを用いて、加齢の影響が組織間で20倍以上異なることを発見した。今後、加齢に伴う疾患に対する病因探求や創薬研究において、特定遺伝子の変異だけをターゲットにするのではなく老化因子も考慮すべきことを示し、Health Science分野全体に一石を投じた研究である。また、申請者は、本研究を大学生時代に行い、現在はBioinformaticsの博士課程に進んでおり、研究者として将来性が高く、キャリアアップの観点から本研究のインパクトは非常に高い。


エピソード
この論文は自分が学部二年生だったときに始めたプロジェクトで当時は就任して間もなかった助教授とポスドク研究員の三人で始まりました。しかし半年ほど経ったあとポスドクの方が音信不通となってしまい助教授は学部二年生だった僕にプロジェクトを任せることになりました。その後先生の熱心なメンタリングにより僕が四年生の時に論文をSubmitすることができました。その後も二回のRejectionを経て最終的には僕が博士課程一年生のころにNature Communicationsに掲載することが決まりました。Sudmant先生には学部の頃から大変お世話になりたくさんのサポートをいただき感謝してもしきれない思いです。

1)研究者を目指したきっかけ
学部生の時に所属していた研究室で、研究の奥深さや楽しさを知りもう少し続けてみようと思ったのがきっかけです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
もともと生物学系の専攻をしたいと思って大学に進学したのですが、学部の一年生の時に取ったComputer Scienceの授業がきっかけで情報系の専攻に変わりました。その後二つの分野の知識が必要な生物情報学の存在を知り研究を始めました。

3)この研究の将来性
この研究では細胞組織ごとに違った老化の影響が遺伝子によって存在することがわかりました。今後はこの基礎研究をもとに、細胞組織に特化した老化の関連の疾患の研究が進んだり製薬の手助けになる可能性があります。
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