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[特別賞] 村上 和敏 /岡山大学/倉敷中央病院/シンシナティ小児病院 

更新日:2020年4月22日

Kazutoshi Murakami M.D.,Ph.D.

糖尿病や脂肪肝など肥満関連病態に対する新たな治療ターゲットの発見

Nature Communications

2018年9月

Hepatic Ago2-mediated RNA silencing controls energy metabolism linked to AMPK activation and obesity-associated pathophysiology.

 


論文内容

 肥満者数は世界的に爆発的な増加傾向を示しており、2型糖尿病やnon-alcoholic steato-hepatitis (NASH)など、肥満に起因または関連する健康障害も同様に増加の一途を示しており社会問題となっている。われわれは、これらの病態の分子機構を解明し、新たな治療ターゲットを探索する目的で以下の検討を行った。

 すなわち、肝臓は生体における最大のエネルギー消費臓器の一つで、肝細胞における主なエネルギー消費メカニズムはmRNA translationである。RNA silencingはmRNA translationを制御するが、エネルギー代謝制御におけるRNA silencingの意義は不明である。そこでわれわれは、RNA silencing に関わるRNA-induced silencing complex (RISC) の主要構成タンパク質であるArgonaute 2 (Ago2) に着目し、肝特異的Ago2欠損マウスを確立することで、エネルギー代謝制御におけるRNA silencingの意義を検討した。

 私たちは、Ago2がエネルギー代謝疾患の発症に関わるmiR-802, miR-103/107, miR-148a/152などのmiRNAsの成熟過程を制御し、また、それらの標的遺伝子であり、糖・脂質代謝を制御するHnf1β, Cav1, Ampka1などの発現を抑制する分子基盤を明らかにした。さらに、肝特異的Ago2欠損マウスの肝臓では、mRNA translationの亢進に伴い、エネルギー消費量が増加し、その結果、細胞内ATP量の減少、およびAMPKの活性化が起き、肥満関連病態が改善することを見出した。

 これらの結果より、肝細胞におけるAgo2を介したRNA silencing機構が、エネルギー代謝制御に重要な役割を果たすことを証明した。この新たな分子機構は、糖尿病や脂肪肝など肥満関連病態に対する新たな治療ターゲットになり得ると考えられた。


申請者は、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学講座 和田淳教授の指導の下、白色脂肪組織におけるAdipocyte adhesion molecule (ACAM) の機能解析を行うことで、メタボリックシンドロームの発症進展機序の解明を行い、研究成果を2016年5月、Diabetes誌に報告した。

 この経験を基盤として、2型糖尿病や脂肪肝炎 (NASH) に対する肝臓を中心とした発症進展機序の解明、さらには新規治療ターゲットを探索する目的で、Cincinnati Children's Hospital Medical Center, Division of Endocrinology中村能久先生の研究室において下記研究活動を行った。本研究成果は2018年9月、Nature Communications誌に掲載され、申請者はfirst authorを務めた。


受賞コメント

 この度は、賞を授与いただき大変光栄に感じております。Primary mouse hepatocytes isolation技術を改良し、質の良いマウス肝細胞を大量に回収できるようになった点が、実験精度とスピードの飛躍的な向上につながり、2年半の留学期間での論文発表に寄与できたと考えています。この技術は別途Journal of Visualized Experiments (JoVE)に報告しています。CCHMCの中村ラボメンバー、岡山大学医学部の和田ラボメンバー、UC-tomorrowの皆さまに感謝します。

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