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執筆者の写真Tatsu Kono

[特別賞] 伊藤 新/シンシナティ大学 University of Cincinnati

更新日:2020年4月24日

Arata Itoh M.D.,Ph.D.

可溶性CD137はT細胞にアネルギーを誘導し急性発症1型糖尿病を改善させる

Frontiers in Immunology

November, 2019

Soluble CD137 Ameliorates Acute Type 1 Diabetes by Inducing T Cell Anergy

  1型糖尿病は、インスリンを産生する膵β細胞が主に自己免疫的機序によって特異的に破壊され、インスリン欠乏に陥り著明な高血糖や糖尿病ケトアシドーシスをきたす後天的疾患である。未だ詳細な免疫学的な発症機序は明らかとなっておらず根治療法はなく、1型糖尿病患者はインスリン注射による補充療法を行い、糖代謝(血糖値)を維持管理する対症療法を終生行う必要がある。申請者は日本で1型糖尿病診療に従事する糖尿病専門医である一方、自らも1型糖尿病患者であり、これまで30年間近くインスリン療法と共に人生を歩んできた。終生に渡る血糖管理の遂行は時に大きな困難を伴う。本疾患の病態の解明および根本治療の開発を望み、申請者はシンシナティ大学に留学し1型糖尿病の免疫学的研究に従事する機会に恵まれた。 

 自己免疫性糖尿病を自然発症するモデル動物であるNon-Obese-Diabetic(NOD)マウスでの検討や、ヒトの検体を用いたこれまでの検討から、細胞性免疫がβ細胞破壊の中心的役割を果たすことが明らかとなっている。特に、自己反応性エフェクターT細胞と調節性T細胞両者の数的そして機能的異常により発症することが提唱されている。

 本論文では、T細胞の共刺激因子として知られるCD137(TNFRSF9)の分泌型(Soluble CD137, 以下sCD137)がT細胞アネルギーを誘導し、自己免疫性糖尿病を自然発症したNon Obese Diabetic (NOD)マウスの糖尿病病態進展を抑制することを報告した。すなわち、自己免疫性糖尿病を発症したNODマウスへのリコンビナントマウスsCD137投与は膵島へのT細胞浸潤を抑制しインスリン陽性膵島β細胞を保持し、著明な高血糖状態への進展を著明に遅延させることを見出した。sCD137が自己反応性エフェクターT細胞を制御する機序として、sCD137が活性化したT細胞上に発現したCD137 ligandを介し、mTORC1経路を抑制しCD4陽性T細胞にアネルギーを直接誘導すること、また同様の経路によりCD8陽性エフェクターメモリーT細胞のサイトカイン産生をも有意に抑制することを見出し報告した。そして、ヒト1型糖尿病患者では健常者と比較して血中sCD137濃度が低いこと、調節性T細胞からsCD137が産生分泌されること、in vitroの系でヒトsCD137がヒトT細胞の細胞増殖を直接抑制する効果があることをも示し、NODマウスで確認された知見がヒトにも応用可能であることを見出した。

 本論文により、自己免疫性糖尿病に対するリコンビナントsCD137による治療が自己免疫の制御をもたらし、1型糖尿病の根本治療となり得る理論的根拠を示した。

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