Koichiro Wasano M.D.
ペンドリン(SLC26A4)とそのバリアントの陰イオン輸送機能の包括的かつ系統的な定量解析
Human mutation
10/2019
Systematic quantification of the anion transport function of pendrin (SLC26A4) and its disease-associated variants
次世代シーケンサーの普及をはじめとする近年のゲノム解析技術の向上に伴い、難聴の病因の解明において多くの遺伝子バリアントが検出され報告されているが、病因性を確定することのできない病因性未確定バリアントが多く蓄積し大きな問題となっている。検出されたバリアントに対する病因性の検証に際し、これまで行われてきた方法はthroughputが低く、多数のバリアントを検証するには不十分と言わざるを得ない。
本研究においては難聴の原因としてこれまで571種と多数のバリアントが報告されているペンドリンを対象として、in vitroにおいてバリアントの病因性を効率よく包括的かつ系統的に評価する系を構築することを目的とし、ミスセンスバリアント51種を対象として検討を行った。陰イオン交換輸送体であるペンドリンはSLC26A4遺伝子にコードされ、その病的バリアントは変動性・進行性難聴にめまいを伴うこともある常染色体劣性遺伝性難聴(DFNB4)や、甲状腺腫を伴うペンドレッド症候群の原因となる。
まずSleeping Beautyベクターを用いて野生型ペンドリンもしくはペンドリンバリアントをHEK293T細胞に導入し、ドキシサイクリンの投与量により発現調整を行うことのできる安定細胞株を樹立した。その細胞株にpH指示蛍光試薬もしくは陰イオン濃度感受性蛍光タンパク質を導入。96-well plate内でペンドリンによる陰イオン輸送に伴って変化する蛍光変化をプレートリーダーを用いて経時的に測定し、細胞内pHやヨードイオン濃度変化速度を算出することで陰イオン交換輸送能力を定量した。プレートリーダーを用いることで複数のバリアントを同時に測定することが可能であった。
また、タンパク質生成において重要な過程であるスプライシングの異常が、エクソン上のミスセンスバリアントによっても引き起こされる可能性がある。この可能性を検証するため、ペンドリンの各エクソンに前後150塩基のイントロンをつけた配列を挿入したpET01ベクターを作成しHEK293T細胞に導入した。スプライシング異常の有無は転写されたmRNAの逆転写およびPCRによって検証した。
本研究では陰イオン交換輸送能力の定量結果およびスプライシング異常の検討結果に、さらに共焦点レーザー顕微鏡による細胞内局在解析の結果を合わせることで、転写翻訳の異常によりタンパク質が生成されないもの、生成されたタンパク質が細胞膜へ移行しないもの、細胞膜へ移行しても十分に機能しないもの、というように同一の遺伝子であっても各バリアントがおよぼす影響は様々であることを明らかにした。様々な方向から包括的、系統的にバリアントの病因性の検討を行うにあたり、効率的な評価法を開発、運用することで多くのバリアントを対象とすることが可能であった。
審査員コメント:
難聴の原因遺伝子のDNA variantの機能測定の新しく、また簡便な検査方法を開発した新規性、臨床へ即時応用できることが評価される。2年以内に論文にまとめた点も考慮した。
(吉井聡先生)
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