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[特別賞] 小笠原 徳子/札幌医科大学

更新日:2020年4月10日

Noriko Ogasawara M.D.,Ph.D.

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎における2型自然リンパ球の制御機構の解明https://www.nature.com/articles/s41385-019-0215-8?proof=trueJul

Mucosal Immunology

2020年1月号

Role of RANK-L as a potential inducer of ILC2-mediated type 2 inflammation in chronic rhinosinusitis with nasal polyps.

 自然免疫に関わる新しいリンパ球群である自然リンパ球 (innate lymphoid cell: ILC)は獲得免疫で重要な役割を果たすTリンパ球と異なり、特異的抗原受容体を持たず上皮細胞などから産生されるサイトカインに直接応答を示すため様々な疾患のトリガーとして注目されている。

自然リンパ球の中で2型自然リンパ球 (Type 2 Innate lymphoid cell: ILC2) はアレルギー疾患である慢性副鼻腔炎の鼻茸において増加、活性化していることが報告されている。申請者はNorthwestern Universityにおいて慢性副鼻腔炎におけるILC2の制御機構をテーマに手術検体を用いたトランスレーショナル研究を行った。申請論文の関連研究として、患者鼻茸由来ILC2がIL-10、TGF-β受容体をもち、IL-10やTGF-βがステロイド投与と同等のILC2活性化抑制を引き起こすことを留学一年目に筆頭著者として明らかにした(JACI, 2018)。この研究では主にILC2の活性化抑制経路を解析したが、鼻茸由来ILC2の活性化要因は未だ不明であったために、それらを明らかにすることを目的とし更なる研究を行った。既知のILC2の活性化要因は上皮産生サイトカインであるIL-25, IL-33, Thymic stromal lymphopoietin (TSLP)であるが鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎において、IL-25やIL-33は必ずしも上昇を示さないこと (Allergy, 2018)、TSLPは普遍的に上昇している一方でILC2はTSLP単独では活性化されないことから、慢性副鼻腔炎においてILC2の新規活性化要因が存在するのではないかと仮説を立てた。

申請者は上皮産生サイトカインとTNF superfamily (TNFSF) が末梢血ILC2の活性化において相乗効果を示すという報告をもとにILC2に受容体があり、かつ鼻茸で上昇を示すTNFSFを網羅的に探索した。その結果、鼻茸ではTNFSFの一つであるreceptor activator of NF-kB (RANK-L)の上昇がみられ、ILC2にはその受容体であるRANKが高発現していることを見出した。次に鼻茸由来ILC2においてRANK-L投与はTSLPと相乗的にILC2を活性化させることを示し、さらに慢性副鼻腔炎における主要なRANK-L発現細胞はTH2細胞や樹状細胞であることを発見した。最終的には鼻茸由来ILC2とRANK-L発現細胞の共培養がILC2を活性化させ、この活性化はRANK-L monoclonal 抗体であるdenosumabによって有意に抑制されることを示し、鼻茸由来ILC2の活性化がRANK-L-RANK 経路を介することを示した (Mucosal Immunology, 2019: 申請論文)。

申請者はさらにILC2にTNFa受容体が発現しており、TNF-aの投与は単独あるいはTSLPや IL-33と相乗的に末梢血由来のILC2を活性化させることを明らかにし、JACI誌に筆頭著者として本申請論文とほぼ同時期に報告を行った (JACI, 2019)。一連の研究は、ILC2の制御による分子標的治療の可能性を示し、アレルギー疾患研究に大きなインパクトを与える研究である。


審査員コメント:

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)において2型サイトカインを産生する2型自然リンパ球(ILC2)が存在し活性化していることが知られており、これが慢性的な炎症の大きな原因である可能性がある。申請者らはCRSwNPにおいてRANK-Lが鼻茸で上昇していることと、その受容体であるRANKがILC2に発現していることを突き止めた。更に2型サイトカインの産生がRANKアゴニストによって上昇すること、そしてRANK-L抗体によって減少することなども実証した。これらの知見は患者由来の試料を使った実験により得られたものでありCRSwNPの分子病理機構を解明し改善法を確立するための大きな助けとなることが期待される。(本間和明 先生)

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