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執筆者の写真Tatsu Kono

[論文賞] 山本 聡/ノースウェスタン大学 

更新日:2020年4月11日

Soh Yamamoto Ph.D.

オートファジーはインスリン産生と感受性を制御する

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29898399

Cell Reports

Autophagy Differentially Regulates Insulin Production and Insulin Sensitivity

2018 June


オートファジーは2016年ノーベル生理医学賞を受賞した大隅博士らのグループが中心になって研究を進めてきた、生体の"不要物"を選択的に認識・分解し恒常性を保ちながら、栄養枯渇時には、ランダムに小器官を分解しエネルギー産生を行う生体内分解機構の一つである。

一方で、2型糖尿病は過飲食による肥満によって引き起こされる生活習慣病で、膵臓からのインスリン分泌不全や筋組織のインスリン抵抗性を示す進行性の疾患であり、2014年の統計では全世界で約2億人が発症しており、その数は右肩上がりで増え続けている。現在の治療法は2型糖尿病の進行度に合わせた生活習慣の見直しや薬物・インスリン投与であるが病因に即した根本的治療は未だ開発途上である。最近の報告ではオートファジーの積極的な誘導が2型糖尿病を改善することが示されているが、そのメカニズムの詳細は不明であった。

そこで申請者は、留学先のラボが独自に作成した恒常的オートファジー活性化マウス(F121Aマウス)を用いて、肥満性2型糖尿病マウスモデルにおけるインスリン分泌能、インスリン感受性を解析し、オートファジー機構の活性化による2型糖尿病制御機構を調査した。

まず申請者は、F121Aマウスの膵臓、肝臓、骨格筋組織においてオートファジーが活性化していることを確認し、(1)膵臓では申請者が命名したVesicophagy (vesicleとautophagyの造語) によって膵島細胞中のインスリン顆粒が分解され、インスリン分泌不全を伴うこと (2)脂肪・筋組織では小胞体ストレスが低減し、インスリン抵抗性が改善することを明らかにした。 本研究結果より、オートファジーの亢進は臓器によってインスリンの分解あるいは抵抗性の改善といった相反する二つの機能を有していることが明らかとなり、オートファジー機構を利用した2型糖尿病の治療の開発に向けて、オートファジーを活性化する組織を厳密に制御する必要性があることを示した。


審査員コメント

この論文はオートファジー機構の増進がインスリン生成・受容に及ぼす影響を報告するものである。申請者らはオートファジーを恒常的に活性化させた動物モデル(p.F121Aミスセンス変異をBecn1遺伝子に導入したネズミ)を主に用い、血中のインスリン・グルコース濃度を測定するだけでなく、インスリン生成・受容能力を分子・細胞・組織レベルで詳細に調べた。その結果、オートファジーの活性化はインスリン分泌に対してはネガティブ(インスリン顆粒の分解)な影響を及ぼす一方でインスリン受容細胞に対してはポジティブ(インスリン抵抗性の改善)な影響を及ぼすことを突き止めた。この発見はオートファジー機構の活性化によって2型糖尿病の改善を目指す研究に重要な知見を与えるものである。また本研究で使用されたBecn1マウスは糖尿病以外の疾患に対しても病態改善のためにオートファジー活性化が有効かどうか調べることを可能にする汎用性の高い動物モデルである。発表から一年半程で既に14回も引用されているという事実がこの論文のインパクトの大きさを客観的に示している。(本間和明)

オートファジーという重要な細胞生物学的現象のメカニズムの解明することで、糖尿病の新たな治療法開発につながることを示した論文で基礎研究が臨床医学にbreakthroughをもたらす良い例である。オートファジーを促進することが、筋肉、脂肪組織では小胞体ストレスを抑えてインスリン抵抗性を改善するを発見した。興味深いのは、膵臓では、逆にインスリンの量が減り、その原因がインスリン分泌顆粒のオートファジー(Vesicophagy)という新たなメカニズムを発見した点である。この現象が、他の分泌細胞、例えばホルモン産生細胞や神経細胞でも起こっていないか、将来的にも面白い。(吉井聡)


受賞者コメント

この度は論文賞という光栄な賞を頂きまして、大変嬉しく思っています。まさか自分が受賞するとは思ってなかったので、今回の受賞で留学中の奮闘(主にボスとの戦い)が報われた気がします。本論文ではオートファジーによるインスリン顆粒の新規分解経路を見出し、その経路をvesicleとautophagyの造語でvesicophagyと命名しました。現在は帰国し、札幌医科大学 微生物学講座にてオートファジーを軸にウイルス研究を進めております。今回の受賞を大きなエネルギー変えて、キラッと光る研究を続けていきたいと思います。

最後になりますが、審査員を始めUJA、共同筆頭著者の倉元さん、留学中のボス He博士に感謝申し上げます。

論文裏話・エピソード 

リバイスの締め切りは、延長できるって知ってました?日本ではあまり知られていないことだと思います(多分)。少なくとも私は、留学するまで全く知りませんでした。本論文では、reviewerから求められた実験量が多く、かつ短期間での成果が求められました。当然死に物狂いで実験をこなすわけですが、すべての実験がいい結果だとは限りませんし、タイムアップとなるわけです。さてどうしようか?と話しあっていた時、ボスからリバイスを延長する?と言われ、咄嗟に「えぇ!! できんの?」と言ったのを覚えています。ボス曰く、延長する理由と進捗状況を明確に示せれば大抵はできるみたいで、実際2回延長するハメ?になりました。これはeditorや何より競合相手がいないなどの状況を判断する必要はありますが、条件が揃えば納得のいくまで実験をすることができます。しかしながら、精神的にも体力的にも一度のリバイスで済ませた方がいいのは言うまでもありませんが、期限に余裕のある場合にはリバイスを延長するのも一つの手かもしれませんね。

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