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[奨励賞]三木 春香/La Jolla Institute for Immunology

Haruka Miki, M.D., Ph.D.
[分野:免疫アレルギー]
(喘息の気道リモデリングと気道過敏性を制御する炎症性サイトカインの発見)
J Allergy Clin Immunol, 01-April-2023

概要
喘息患者の気道は、アレルゲンだけでなく非特異的な刺激(感染、煙、化学物質など)に対しても過剰に反応し収縮発作をおこすことが知られており、これを気道過敏性と呼ぶ。既存の治療では気道炎症が改善しても気道過敏性は残存することが多く、難治性喘息における重要な治療標的である。気道平滑筋は気道周囲を取り巻くように存在し、気道の収縮をつかさどる細胞層であり、気道平滑筋の肥大(リモデリング)や収縮能亢進は気道過敏性の主たる原因となるが、喘息における気道平滑筋の制御機構は未だ不明な点が多かった。
私たちは、喘息患者の気管支肺胞液や喀痰中に発現し、その発現量が喘息の重症度と相関することが報告されている炎症性サイトカインTNFSF14 (LIGHT) に着目し、LIGHTの受容体であるLTβRがヒト気道平滑筋細胞に高発現していることから、LIGHTが受容体を介して気道平滑筋細胞にシグナルを伝達し直接的に気道平滑筋の活性を制御するのではないかと考えた。そこで本研究では、 LIGHT による気道平滑筋細胞制御機構の解明と、重症喘息における気道過敏性への関与について、平滑筋特異的LTβR 欠損マウスとヒト由来気道平滑筋細胞を用いて解析した。平滑筋特異的LTβR欠損マウスでは、ハウスダストによる慢性重症喘息モデルにおいて気道周囲の平滑筋増生(気道リモデリング)、気道抵抗が改善した。ヒト気道平滑筋細胞を用いたメカニズム解析では、LIGHTによる気道平滑筋細胞の肥大、過形成、収縮力促進が示唆された。LIGHT はGTPaseであるRac1、セリン・スレオニンキナーゼ PAK1 の活性化を介して、細胞内骨格成分であるアクチンの重合と、持続的なミオシン軽鎖キナーゼのリン酸化を促進し、気道平滑筋の収縮を誘導した。このシグナルはLTβRを介した遅発性・持続性のnon-canonical NF-κBシグナル伝達に依存することが明らかになり、LIGHTは気道平滑筋の持続的な収縮能亢進により遷延するする気道過敏性の誘導に関与していると考えられた。
以上より、LIGHTはLTβRを介してASMの肥大と収縮力を制御し、重症喘息における気道リモデリング、気道過敏性亢進に寄与していることが示唆され、難治性喘息の新規治療ターゲットとなる可能性が期待される。

受賞者のコメント
この度は奨励賞を頂きありがとうございました。選考委員の皆様ならびに留学先のLa Jolla Institute for immunologyのDr.Croftにこの場を借りて感謝申し上げます。現在は日本で引き続き炎症性サイトカインによる難治性喘息の気道過敏性・リモデリングおよび血管炎の制御機構を標的とした治療開発の研究を行っております。この受賞を励みに研究を続けていきたいと思います。

審査員のコメント
倉島 洋介 先生:
重症喘息における気道リモデリング、気道過敏性亢進を起こす受容体カスケードについての研究成果である。気道平滑筋におけるLTβRに焦点を当て、分子細胞レベル並びにコンディショナルマウスを用いた緻密な実験構成がなされている。難治性喘息の新規治療ターゲットとして、今後更なる研究の進展が期待できる。

森田 英明 先生:
これまで明らかにされていない気管支喘息の病態における気道平滑筋の機能制御機構を、動物モデルと患者検体を用いた明らかにした研究です。近年の気管支喘息の研究は、組織の慢性炎症に制御の制御に関するものが多いが、本研究は気管支喘息の症状の主体をなす気道過敏性に着目し、そのメカニズムを解明した研究であり、他の多くの研究とは一線を画している。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
自身が喘息やアトピー性皮膚炎で苦労した経験から、アレルギーの研究に従事したいという希望があり、医学部に入学しました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
アレルギーを免疫学的観点から理解し、治療応用に結び付けたいと考え膠原病リウマチアレルギー内科医としてアレルギーの研究に従事しています。

3)この研究の将来性
気道過敏性やリモデリング(気道平滑筋の増生や線維化)は、喘息治療において炎症改善後も残存することが多く治療に難渋します。その過敏性の持続や気道リモデリング形成のメカニズムの一旦に炎症性サイトカインLIGHTが関与することを明らかにしました。今後難治性喘息の新規治療標的になる可能性があり、引き続き研究を進めています。

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