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[論文賞]佐藤友里恵/新潟大学大学院

Yurie Sato D.D.S, Ph.D.
[分野:ミズーリ・インディアナ]
(SARM1とミトコンドリア間の相互作用の発見)
Journal of Clinical Investigation

概要
シャルコー・マリー・トゥース病2A型(CMT2A)は、ミトコンドリアの融合因子mitofusin2(MFN2)の変異によって引き起こされる進行性神経変性疾患である。MFN2の変異はミトコンドリア機能を障害するが、ミトコンドリア機能不全が軸索変性の病理にどのように関与するかは分かっていない。軸索変性誘導因子であるSARM1は、細胞障害を契機に機能不全に陥ったミトコンドリアによって活性化される。活性型SARM1は軸索構造の維持に必須である補酵素NADを分解し、軸索を崩壊へ導く。筆者は、CMT2Aの病態進行に活性型SARM1が関与しているのではないかと考え、本研究を行なった。
これまでCMT2Aの病態は、疾患モデルマウスを用いて解析されてきた。しかし、マウスモデルではヒト患者と同じMfn2の変異だけでは軸索変性が起こらないため、変異体を過剰発現することで疾患発症を誘発していた。そのため異なるトランスジェニック系間では表現型に不均一性が生じるという問題点があった。今回、我々はヒトCMT2A患者と同じMfn2点変異(Mfn2H361Y+/-)を有するCMT2Aラットモデルを用い、病態解析およびCMT2AにおけるSARM1の役割を検討した。Sarm1ノックアウト(Sarm1-/-)およびMfn2H361Y+/- Sarm1-/-二重変異ラットを作製し、Sarm1を欠損させると、Mfn2H361Y+/-の進行性の軸索変性、神経筋接合部の異常、筋萎縮が改善した。さらに、これらの二重変異ラットでは変異MFN2タンパク質が存在するにもかかわらず、軸索末端のミトコンドリアの膨化、クリステ密度の低下を含む多くのミトコンドリア異常が抑制された。これらの結果は、機能不全に陥ったミトコンドリアがSARM1を活性化し、活性化されたSARM1がミトコンドリアに作用しミトコンドリアの病態を悪化させる、SARM1-ミトコンドリア間フィードバックループの存在を示唆している。SARM1阻害はCMT2Aおよびミトコンドリア病態が顕著な他の神経変性疾患の治療候補となる可能性がある。

受賞者のコメント
このような栄誉ある賞に選出いただき、大変光栄です。とっても嬉しいです!!選考委員の先生方や関係者の皆様に、深く感謝申し上げます。

審査員のコメント
堀江 勘太 先生:
本論文は、未だ有効な治療法が存在しないシャルコーマリートゥース病に対して、疾患修飾薬開発の可能性を示唆する重要な論文です。筆者らが示した動物モデルを用いたSARM1阻害によるミトコンドリア機能不全の解消仮説は、ミトコンドリア機能不全を特徴として有する多くの神経変性疾患に対する創薬開発に適用できる可能性があり、今後の広がりが期待されます。

佐藤 千尋 先生:
筆者は進行性神経変性疾患シャルコー・マリー・トゥース病2A型(CMT2A)を引き起こすMFN2変異を有するラットモデルを用いて、軸索変性誘導因子のSARM1を欠損させるとミトコンドリア異常が抑制されることを示した。この結果は、臨床試験に入っているものもあるSARM1阻害剤を用いて、CMT2Aおよびミトコンドリア病態が顕著な他の神経変性疾患の治療候補となる可能性がある。留学後、最初の筆頭著者としての論文、メディアにも取り上げられ、短い期間に複数の引用があり(11)、研究分野への貢献度も高く筆者のキャリアアップにも繋がる論文だと考えられる。

加藤 明彦 先生:
This study reports the successful creation of the Charcot-Marie-Tooth type 2A disease (CMT2A) rodent (rat) model and the rescue of its pathology by Sarm1 loss-of-function in various histological aspects. CMT2A is a common hereditary peripheral neuropathy caused by mutations in Mitofusin 2(MFN2), which plays a critical role in mitochondrial functions. There is no disease-modifying treatment now. Sarm1 activation is critical for programmed axon death. Sarm1 is a NAD(P)ase cleaving NAD+, leading to a metabolic collapse with loss of ATP. The authors initially generated the knock-in rat carrying the dominant human CMT2A mutation (Mfn2^H361Y/+) in one allele. The rat line recapitulated CMT2A neuromuscular phenotypes, including progressive neurodegeneration and muscle wasting with decreased NAD+ levels in peripheral nerves. The success of this rodent model per se is one of the fundamental discoveries in the field because the mice with a similar mutation did not display axonal degeneration, the hallmark pathology of human CMT2A. In addition, the authors hypothesized genetic interactions between Mfn2 and Sarm1.
Interestingly, Sarm1 knockout nearly ultimately rescued the histopathological characteristics in Mfn2^H361Y/+ mutants, i.e., protection from axonal degeneration, muscle atrophy, and neuromuscular junctions (NMJs) degeneration. Surprisingly, Sarm1 knockout also restored mitochondrial morphological abnormalities/motility deficits in Mfn2 mutation. Although the reviewer does not find behavioral data or mechanistic insights on how Sarm1 was rescued from axonal degeneration and mitochondrial defects, their discoveries would substantially impact designing new therapeutic strategies for CMT2A patients.

今崎 剛 先生:
SARM1遺伝子の欠失が、MFN2変異を持つラットモデルにおける神経病理学的表現型をレスキューすることから、この経路がCMT2A神経変性疾患治療の有望なターゲット出あることを示した非常に面白い仕事。今後はこの経路の分子機構の解明を通じて、新規治療法の確立を期待する。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
大学院生で初めて取り組んだ実験の結果を見た時、生命活動の神秘に心が震えたからです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
歯科麻酔医時代に神経障害性疼痛の治療に携わったことから、末梢神経の変性・再生研究を始めました。

3)この研究の将来性
CMT病2A型は現在根本的な治療方法が見つかっていません。SARM1がこの病気の治療ターゲットとなる可能性があり、新しい治療方法の開発につながるかもしれません。

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