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執筆者の写真Jo Kubota

[奨励賞]上野 (菊池) みなみ/国立感染症研究所

Minami Kikuchi Ueno, Ph.D.
[分野:ジョージア]
(乾燥血液スポットによるB型肝炎ウイルス検査)
BMC Research Notes, 01-September-2022

概要
乾燥血液スポット(dried blood spot: DBS)は、指先を針で刺して得られた少量の血液を濾紙に滲み込ませて乾燥させる簡便、安価かつ低侵襲性で、特に後発開発途上国等の低資源環境において有用な検体採取法であり、これまで糖尿病や新生児代謝性異常等で診断に関する研究報告や臨床での使用が行われている。B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus: HBV)感染は、急性から慢性の症状を呈し、高率に肝細胞癌を合併する予後不良な感染症であるが、2015年時点で全世界に2億5千7万人もの感染者が存在し、西太平洋地域やアフリカ地域等の後発開発途上国における有病率が高い(約6.1–6.2%)ことが知られている。しかし、DBSを用いたHBV検査については評価報告が少なく、確立したプロトコルは存在しない。そこで本研究では、DBSによるHBV検査プロトコルを確立し、54検体のDBSと対応する患者血清を用いて血清学的検査および分子生物学的検査を行い、両者(DBSと血清)の検査結果を比較することで検査精度の検討を行った。その結果、DBSにおけるHBs抗原、抗HBc抗体、HBe抗原、HBV DNAの検出感度は、それぞれHBs抗原:96%(24/25)、抗HBc抗体:100%(9/9)、HBe抗原:100%(7/7)、HBV DNA:88%(22/25)といずれも高値であった。HBV DNA検出における血漿とDBSのタイタの差の平均は2.7 log10IU/mLで、検出限界は2.0 log10IU/mLであった。DBSより検出したHBV DNAのうち15検体はシークエンス可能であり、全てがgenotype Aに属し、DBSと血清間で一致していた。特異度はHBs抗原、抗HBc抗体、HBV DNAでは100%であったが、HBe抗原は血清で陰性であった全ての検体がDBSでは擬陽性を示したため0%であった。したがって、DBSを用いたHBV検査では、HBs抗原、抗HBc抗体、HBV DNAの検出は可能であるが、HBe抗原の検出に関しては更なる検討の必要性が示唆された。

受賞者のコメント
奨励賞を頂き有難うございます。大学院進学と同時に異国の地にて人生で初めて取り組んだ研究課題であったため、大変嬉しく思います。当時の大学院の指導教官であった沢辺元司教授およびCDCウイルス性肝炎部Dr. Saleem Kamiliをはじめとする諸先生方に心より感謝申し上げます。

審査員のコメント
斉川 英里 先生:
実際の人の血液を使っていない事によるバイアスが気になる。

斧 正一郎 先生:
本論文では、B型肝炎の検査法として、簡便な方法として乾燥血液スポットの有用性を検定した研究である。Research Notes という短報論文の形態でありながら、検査プロトコルの確立、54検体を2種の方法(ELISA 及びPCR とシークエンシング)で抗原タンパク質とウイルスDNAの検出を行い、データ量が多い論文である。その結果、この方法がいくつかの検査で有用であること、また一部の検査では限界があることを報告し、今後、この方法の改良や、実地での応用が期待される。

高山 秀一 先生:
Method for resource poor setting diagnosis of hepatitis B.Well-written. Careful work. Have 54 Dried blood spot samples, but all were engineered samples. Promising early stage work.

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
東京医科歯科大学入学当初は病院または企業勤務を考えていたのですが、後発開発途上国の医療・教育環境支援を行っていた沢辺教授にご指導いただき、現地の困難な医療状況を実際に目にしたことで進路が大きく変わりました。臨床検査技師資格および医療現場の知見をもとに、様々な環境で精確・簡便・迅速に感染症の検査を行える技術の開発や、感染症のコントロールに関して研究してみたいと感じたことがきっかけです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
感染症に関する研究は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行以前は現在に比べ世間からの注目度は低いものでしたが、後発開発途上国のみに限らず先進国においても解決すべき課題が多く残る重要な分野であると考えています。前述の沢辺教授がかつて米CDCにご留学されていたため留学先のご縁を得ることができ、そこから専門分野への関心が更に深まり、研究が展開していきました。

3)この研究の将来性
医療スタッフではなく自分自身でも行えるほど簡便で、鋭い痛みを伴わない安価な検査は、どのような環境でも人々が感染症の検査を受けられる世界への第一歩となります。病院で受ける検査と、これまでに知られている簡便な検査の結果にどれほど差があるかをまず明らかにし、工夫を凝らして更に簡便で高精度な検査技術の開発を行う研究は、一人でも多くの人々に病原体感染への気づきと治療への結びつきをもたらし、ひいては感染症流行のコントロールにつながると考えています。
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