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執筆者の写真Aki IIO-OGAWA

[奨励賞]今 智矢/トロント大学

Tomoya Kon, M.D., Ph.D.
[分野:Tomorrow 2]
レビー小体形成過程におけるα-シヌクレインmRNA
Acta Neuropathologica Communications

概要
レビー小体病(パーキンソン病およびレビー小体型認知症)はレビー小体の出現を特徴とする疾患である。レビー小体は正常α-シヌクレインを鋳型として異常α-シヌクレインが蓄積することにより形成される。α-シヌクレイン遺伝子(SNCA)と臨床像にはgene-dosage effectがあることが知られているが、レビー小体形成過程におけるSNCA mRNAの発現制御については不明であった。
本研究では、新規in-situ hybridization技術であるRNAscopeとα-シヌクレイン免疫蛍光を組み合わせ、正常ニューロン、点状α-シヌクレイン陽性像(レビー小体の前駆体と考えられている構造物)、不整形α-シヌクレイン凝集体、典型的レビー小体におけるSNCA mRNA密度を全細胞体、核、および細胞質に分けて解析した。さらにグリア細胞のSNCA mRNAの発現も評価した。対照(n = 2)およびレビー小体病剖検脳(n = 5)の中脳黒質、扁桃体を用いた。結果、SNCA mRNA発現量は、正常ニューロン、点状α-シヌクレイン陽性像では保たれていたが、不整形α-シヌクレイン凝集体、典型的レビー小体では有意に低下していた。この低下は、核ではなく細胞質で観察された。アストロサイトではα-シヌクレイン凝集体の有無にかかわらず、SNCA mRNAはわずかしか検出されなかった。
さらに、細胞タイプごとのSNCA mRNA発現を明らかにするために、single-nucleus RNA sequencingを行った(n = 3)。その結果、興奮性および抑制性ニューロン、オリゴデンドロサイト前駆細胞、オリゴデンドロサイト、ホメオスタティックミクログリアがSNCA mRNAを発現していた一方で、アストロサイトでは発現がほとんど見られなかった。
今回の研究結果から、正常ニューロン、点状α-シヌクレイン陽性像において保存されたSNCA mRNAは、異常α-シヌクレイン産生のための鋳型・シードとして機能する可能性が示唆され、レビー小体においては細胞機能不全によるα-シヌクレイン産生枯渇が生じていることが明らかになった。本研究は、新しい手法を組み合わせてレビー小体形成過程におけるSNCA mRNAの発現制御を解明し、SNCA mRNAを標的とした治療法を開発するための分子学的基盤を提供する点が重要である。

受賞者のコメント
この度は名誉ある奨励賞を受賞することができて大変うれしいです。大変苦労した論文が評価していただいたことが感慨深いです。留学中に得た技術・知識・人脈を生かしてこれからも神経難病に苦しむ患者さんが希望を持てるような研究を続けていきたいと思っています。

審査員のコメント
岩澤 絵梨 先生:
Lewy body diseaseがProteinopathyであるのかProteinopeniaであるのかという臨床的に、また治療開発において非常に重要な問いかけに対し、実験を行っておられます。ニューロン、さらに他のグリア細胞におけるSNCA transcriptの発現を正確に描写しており、今後のシヌクレイノパチー研究への重要な布石となると考えられます。希少なヒト、患者サンプルを丁寧に解析しており、非常に説得力がある論文です。

宮腰 誠 先生:
ヒトのデータを使いレヴィ―小体型認知症の解明に寄与する基礎研究。高齢化は現在世界の先進国において共通の問題であり、認知症の機序の解明は高齢者のQOL向上のために必要不可欠である。本研究はそれに寄与するものとして評価する。

後藤 純 先生:
パーキンソン病のヒト検体脳を用いて、レビー小体形成のメカニズムを詳細に解析された画期的な論文であると評価いたしました。シヌクレイン遺伝子(SNCA)のmRNAがシヌクレインが凝集した神経細胞、及びアストロサイトにおいて、他の脳細胞よりも低く発現が認められた、という知見は、正常シヌクレインmRNAが異常シヌクレイン産生を抑えている可能性を示唆し、新しい治療標的の発見となったことを高く評価いたしました。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
答えを求めて一生懸命研究すると、エキサイティングなことの連続で一生涯飽きることがありません。
2)現在の専門分野に進んだ理由
脳の病気に関わる臨床と研究は、大変重要でニーズがありやりがいがありますし、興味深い発見の連続で面白いからです。
3)この研究の将来性
本研究は、新しい手法を組み合わせてパーキンソン病の発症および病気の進行に関連するメカニズムの制御機構の一端を解明し、新たな治療法を開発するための分子学的基盤を提供した。
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