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執筆者の写真Aki IIO-OGAWA

[奨励賞]千田 航平/ロズウェルパーク癌センター

Kohei Chida, M.D.
[分野:Team Wada]
肝細胞癌におけるE2Fターゲットスコアの臨床的意義
Surgery, 11-August-2023

概要
癌の悪性度には細胞増殖能が大きく寄与する。よって細胞周期の進行に重要な役割を果たすE2Fの活性は、肝細胞癌の悪性度と予後を反映することが予想された。E2Fの活性度の定量法としてE2Fの発現などがあるが、単一の遺伝子やタンパクの発現では複雑なE2Fの活性を十分に把握しえないのではないかと考えられた。我々は患者個々の癌における22000の遺伝子発現プロファイルをバイオインフォマティクスの手法を用いてコンピュータ解析するトランスレーショナルリサーチを行っている。そこで本研究では200個のE2F標的遺伝子の発現プロファイルをスコア化(E2Fターゲットスコア)し、E2Fの活性を定量、肝細胞癌におけるE2Fターゲットスコアの臨床的意義について検討した。
The Cancer Genome Atlas(TCGA)を含む合計4つの肝細胞癌患者のコホートから合計655名の肝癌サンプルのデータを解析したところ、E2Fスコアの高い肝細胞癌は細胞増殖に関連する遺伝子セットを多く含み、さらには組織グレード、腫瘍径、ステージ、増殖スコア、そして細胞増殖の代表的指標であるKi67発現が高かった。また、E2Fスコアは肝細胞癌の腫瘍内不均一性および相同組換えの機能不全と関連しており、さらに肝細胞癌の発生および進行と著しく相関していた。E2Fスコアと突然変異率やネオアンチゲンとの関連は見られなかったものの、E2Fスコアの高い肝細胞癌は1型および2型ヘルパーT細胞、2型マクロファージの高い浸潤と関連していた。また、E2Fスコアが高い肝細胞癌は生存率の悪化と関連しており、肝細胞癌患者の全生存および疾患特異的生存期間に対する独立した予後予測因子であった。
結論として、細胞分裂周期において決定的なE2Fパスウェイの200個のターゲット遺伝子プロファイルを集めたE2Fスコアは肝細胞癌患者の生存に関係し、予後予測バイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。

受賞者のコメント
この度は貴重な賞を頂くことができ大変嬉しく思います。現在は自分でもメカニズムの解明に取り組めるよう、分子生物学的手法、並びに動物実験の手技を日々鍛錬中の初心者ではありますが、これまでの腫瘍外科医としての臨床経験も活かして研究に取り組み、新たな癌治療法の開発に結び付けたいと思います。

審査員のコメント
太田 壮美 先生:
E2F転写因子の活動性を反映するE2F target scoreがHCC患者の予後を示唆するバイオマーカーとしての有用性を検討している研究である。高スコアは細胞増殖の活性化、腫瘍微小循環におけるstromal cellの減少、肝臓の異形成及び肝硬変化の段階的なHCC発癌の進行と強い相関を示していた。E2F target scoreはHCC患者において、予後の予測を可能とするバイオマーカーとして有用である可能性が示唆している。HCCの早期発見、将来的には予防などにも役立つ可能性のある素晴らしい研究課題であり、さらなる追加検討が期待される。

北原 大翔 先生:
著者はE2Fの定量値が肝細胞癌の生存率と関連することから、肝細胞癌の予測因子として有効である可能性があることを証明しています。実臨床においても非常に有用になりうる研究結果だと思います。

上村 麻衣子 先生:
応募者らは、肝細胞癌患者における、細胞周期に関連するD2F標的遺伝子の重要性を示しました。本研究ではデータベースから患者群を分析し、E2F標的スコア高値群で、細胞の増殖、腫瘍に攻撃性、及び患者生存率の低下等と関連していることを見出しました。
本研究は、肝癌の進行と治療の予後を理解する上で重要な指標を提供しており、研究分野への貢献度が非常に高いと考えます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
元々は自分の手で劇的に患者さんがよくすることができる外科医に憧れて医師を目指しました。しかし日本で外科のトレーニングを行っている間に、手術のみでは完治できない患者さんがいることを目の当たりにし、外科医としての無力さを感じることが増えました。現在は少しでも医療を前進させる研究にも携わっていきたいと思うようになりました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
消化器外科/腫瘍外科は患者さんの全身を見ることができる科だと思います。そして患者さんの数も多く、ニーズが高いです(高齢化のため今後ますます増えると思います)。また、消化器外科といってもその中には多彩な臓器が存在し、それぞれの臓器において感染症・炎症・腫瘍・外傷などはじめとする多くの病態が存在することから、どの症例も毎回新鮮でとても面白い領域です。
3)この研究の将来性
細胞が分裂するときにとても大切な「E2Fパスウェイ」というものがあります。このパスウェイに関わる200個の遺伝子がどう働いているかを示す「E2Fスコア」というものが、肝臓がんの患者さんがどれくらい生きられるか(生命予後)に関係していることがわかりました。よってこのスコアを使用することで、肝臓がんの患者さんの未来の健康を予想する手がかりになるかもしれません。
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