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[奨励賞]坂之上 一朗/クリーブランドクリニック

Ichiro Sakanoue, M.D., Ph.D.
[分野:Tomorrow 1]
間欠的体外肺灌流による肺保存時間延長の試み
Transplantation, 01-September-2023

概要
ドナーから摘出したヒト肺の冷保存時間の上限は6-8時間程度とされており、肺移植を妨げる一つの要因となっている。体外肺灌流(Ex vivo lung perfusion)は、常温下に換気と灌流を維持することで移植前に体外での臓器機能評価と肺保存時間の延長が可能となる技術であり、主に欧米を中心に臨床応用されてきた。我々は、更なる保存時間の延長を目指すべく、EVLPを間欠的に行う灌流方法であるIntermittent EVLPを着想し、大動物実験による検証を行った。Intermittent EVLPの効果について、従来の冷保存および単回のEVLPと比較した。
本論文では、Intermittent EVLPが果たして有効な臓器保存となりうるのかを、生理学的なパラメータ、肺水腫のモニタリング、ATPなどのバイオマーカー、炎症性サイトカイン、病理所見および電子顕微鏡所見から評価を行った。この結果、単回のEVLPと比較すると、Intermittent EVLPでは酸素化能すなわち肺機能が良好であり、肺水腫の程度は限定的で、肺組織内のATP量が有意に多かった。さらに病理所見においても肺水腫の程度は軽く、電子顕微鏡検査においてミトコンドリアの形態が保たれていた。これらの知見はIntermittent EVLPが肺保存時間延長に繋がる有望な戦略となることを示唆するものであった。一方、Intermittent EVLPにおける灌流液中の炎症性サイトカインが高くなっていたことから、今後サイトカイン吸着などを組み合わせることでより良い臓器保存を達成できる可能性を示唆するものであった。

受賞者のコメント
この度は、UJA奨励賞という栄誉ある賞を授与頂き、誠にありがとうございます。研究を主にみてくださったCleveland Clinicの岡本俊宏先生には公私にわたって本当にお世話になりました。また、ラボのボスであるDr. Kenneth McCurryのサポートなしではこの研究が形になることはありませんでした。厚く御礼申し上げます。
また、留学を許可頂いた京都大学呼吸器外科の伊達洋至先生にサポート頂けたことが全ての始まりでした。様々な方のご助力のおかげで本研究を論文として世に出すことが出来たことを、改めて大変ありがたく思っております。留学中にパンデミック宣言がなされた際は、道半ばで研究がどうなるのか全く想像が出来ませんでしたが、粘り強く取り組んだ甲斐がありました。この受賞を励みにし、引き続き京都大学で周りの方々に恩返しをするつもりで取り組んでまいります。

審査員のコメント
前田 豊 先生:
肺移植の成功率を上げるために間欠的灌流法を豚で検討した重要な論文と思います。今後のサイトカイン吸着実験、また臨床応用が楽しみです。移植肺での遺伝子の動きをsingle cellレベルで検討したらさらに新たな知見が得られるかもしれません。

丹野 修宏 先生:
既報からEVLPを間欠的に行う着想は素晴らしく、臨床応用されれば医療、経済、多くの分野にインパクトを生み出すと考えます。また論文内でのパラメーター評価も理解しやすい構成でした。サイトカイン吸着などの提言もございましたため、今後の臨床応用が期待される研究結果と考えます。

児島 克明 先生:
この研究は、豚モデルを使用して肺移植のための臓器保存時間を延長するための間欠的な体外肺灌流(EVLP)の効果を調べている。間欠的EVLPと従来の冷保存を比較し、酸素化、アデノシン三リン酸レベル、炎症性サイトカインなどの要因を評価している。少数サンプルと間欠的EVLP群での炎症性サイトカインの上昇という点はあるが、この研究は間欠的EVLPを用いることで肺移植における肺保存時間の延長の可能性を示唆する貴重な報告である。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
純粋に自分の興味の向く方向に進んでいったら研究者になっていたという感じです。
2)現在の専門分野に進んだ理由
呼吸不全で命を落とす可能性のある人に肺移植というダイナミックな治療手段を提供できる手術・医療に興味を持ったため。
3)この研究の将来性
肺移植を待つ多くの難治性肺疾患の患者さんに、より数多くの肺を提供できることに繋がる可能性があります。
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