生後の成長過程において、心臓ではミトコンドリアによるエネルギー産生機構や筋収縮機構が劇的に発達し、この成長変化は心筋細胞の「成熟」と呼ばれています。これらの成熟過程を制御するメカニズムは以前は不明でしたが、2020年に核内受容体であるエストロゲン関連受容体(Estrogen-related receptor, ERR)が多くの心筋成熟プロセスを制御することが報告されました(Sakamoto et al. Circ Res 2020)。この研究では、そのメカニズムをヒトiPS細胞由来の心筋細胞を用いて詳細に調べました。
さらに、ERRが結合するゲノム領域を解析すると、その周辺にGATA-binding protein 4(GATA4)の結合領域が存在することが明らかになりました。ERRとGATA4、2つの転写調節因子が結合するゲノム領域は、筋繊維を構成する遺伝子の発現調節領域が主であり、エネルギー代謝関連遺伝子は含まれていませんでした。要するに、ERRとGATA4は筋繊維の発現を協調して調節する一方で、エネルギー代謝関連遺伝子の発現にはその協調が不要であることが示されました。これは、GATA4の有無によって、ERRの発現調節メカニズムが異なることを示唆しています。
1)にも書いた通り、肥満に興味があったので、大学院では、まず脂肪細胞を研究しました。その過程で、脂肪細胞のエネルギー代謝を進める転写調節因子に興味を持ち、その後、その因子の研究を盛んに行っている、Dan Kelly labで、運良くポジションを得ることができました。Danのラボでは心臓を研究する気は当初全く無かったのですが、研究を進めるうちに今の分野に行き着きました。
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