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kei121318

[奨励賞]塚田 怜央/ペンシルベニア州立大学

Leo Tsukada, Ph.D.
[分野:物理学]
重力波検出ソフトウェアGstLALにおける検出効率の向上
Physical Review D, 01-August-2023

概要
2015年にアメリカの重力波検出器Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory (LIGO)がブラックホール連星系(BBH)からの重力波を観測し、BBHの存在が初めて検証されたことは未だ記憶に新しい。さらには2017年8月、LIGOとヨーロッパの重力波検出器Virgoの研究チームが中性子星連星系(BNS)からの重力波(GW170817)を観測し、短いガンマ線バースト(SGRB)の対応天体を共同観測(通称、マルチメッセンジャー観測)することにも成功した。これにより、SGRBの起源や中性子星の状態方程式の解明、重力理論の検証などあらゆる分野において変革をもたらした。そして2023年5月にはLIGO-Virgo-KAGRA(LVK)による第4期観測運転(O4)が開始された。それに伴い、コンパクト連星合体からの重力波に対する検出感度を高めることが極めて重要である。本研究では、重力波を低遅延(20秒以下)で検出する解析ソフトウェアに着目し、O4に向けたアルゴリズムの改良を行なった。具体的には、GstLALと呼ばれるLVKコラボレーションを代表するソフトウェアの一つを用いて、各イベントの信号らしさを特徴づける統計量(信号対雑音比及びカイ二乗パラメータ)のモデルを第一原理から導出した。結果的に、重力波信号をより正確に記述するモデルを構築することができ、検出感度を従来から約20%ほど向上することに成功した。これは近年なされた本ソフトウェア開発の中で最大の向上幅であり、非常に意義深い。このモデルの改良の他にも、O4から観測に参加する日本の重力波検出器KAGRAの統合など新たな仕様に関してもまとめられている。これらの改良がLVKコラボレーションのO4解析に実装され、本概要執筆時点で、LVKコラボレーション内でGstLALは70ほどの重力波信号全てを検出した唯一のソフトウェアである。さらにはGstLALが解析に参加しなかった場合、約1/3もの信号が検出されなかったことになる。この事実から、本研究のもたらした重力波天文学への貢献は非常に大きく、今後の観測運用における新たなマルチメッセンジャー観測への機運は高まったと言える。

受賞者のコメント
天文物理学のかなりテクニカルな論文だったので、その意義に理解を示してもらえるか不安だったのですが、奨励賞をいただけて光栄です。

審査員のコメント
竹井聡 先生:
I think this work makes a notable contribution to the field of gravitational wave detection by raising the sensitivity of a wave-detection software by an amount unprecedented in the recent years. This is expected to be a timely contribution in the context of the LIGO-Virgo-Kagra observation that started in May of 2023. Very nice work!

河野淳一郎 先生:
2015年のアメリカの重力波検出器(LIGO)を用いた重力波初観測の成功以来、重力波天文学は宇宙の起源の解明と最終統一理論の構築に向けて革命的な進歩を遂げている。本論文は重力波を低遅延で検出できる解析ソフトウェアの大きな改良に関するレポートである。具体的には、2023年5月に始まったLIGO (US) - Virgo (Europe) - KAGRA (Japan) の共同作業、LVKコラボレーション、で使われているソフトウェアにおいて、信号を特徴づける統計量のモデルを第一原理から導出することに成功した。その結果、重力波信号の検出感度を従来から約20%ほど向上することに成功した。これは本ソフトウェア開発の分野でも最大の向上値であり素晴らしい快挙である。従って本研究のもたらしたLVKコラボレーションへの貢献は大きく、今後の重力波天文学のさらなる発展へつながるであろうと期待される。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
当時工学部から民間就職するよりも、人生をかけて宇宙物理を研究する方が楽しそうだったから。
2)現在の専門分野に進んだ理由
宇宙が生まれた瞬間のことが知りたくて重力波天文学を選択しました。
3)この研究の将来性
天文物理が実学に結びつくには時間がかかりますが、重力波検出のための高度な測定技術はレーザーの工学分野、量子光学および制御工学に役立ちます。

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