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執筆者の写真cheironinitiative

[奨励賞]天真 寛文/インディアナ大学

Hirofumi Tenshin, Ph.D., D.D.S.
[分野:ミズーリ・インディアナ]
(骨パジェット病における骨細胞の役割の解明)
JJCI Insight, 01-July-2023

概要
骨パジェット病(PD)は過剰に活性化された骨吸収と骨形成を特徴とし、骨質低下や骨痛等を引き起こす。我々はこれまでに、約7割のPD患者の破骨細胞に麻疹ウイルス由来のmeasles virus nucleocapsid protein(MVNP) が発現していることを見出した。MVNPを破骨細胞で過剰発現させたマウス (MVNPマウス)では、患者に類似した骨破壊、骨増生(Pagetic lesion, PDL)を認めた。また、MVNP発現を認めるPD患者およびMVNPマウス由来の破骨細胞はIGF1を強く発現しており、IGF1を破骨細胞で欠失させる(MVNP/Igf1-cKOマウス)とPDLの形成が抑制されたことから、IGF1が病態形成に重要な役割を担っていることが示唆された。
骨細胞は各種サイトカインを分泌することで骨吸収と骨形成を制御することが知られているが、PDにおける役割や機能は不明であった。そこで本論文では、破骨細胞由来IGF1が骨細胞へ与える影響を調べ、骨細胞がPDL 形成に関与しているかを明らかにすることを目的として以下の検討を行った。
PD患者およびMVNPマウスの骨内に存在する骨細胞を観察したところ、骨細胞の樹状突起の短小、破骨細胞誘導因子であるRANKLの発現上昇、骨芽細胞抑制因子であるsclerostinの発現低下が見られた。また、MVNPマウスから単離した骨細胞はRunx2を強く発現しており、後期骨芽細胞様の未分化な性質を示した。しかし、MVNP/Igf1-cKOマウスの骨細胞ではそれらの変化は認められなかった。さらに、破骨細胞でIGF1を過剰発現させたマウス(T-Igf1)はMVNPマウスと同様のPDLを示し、かつ骨細胞も同様に、樹状突起の短小、RANKLの発現上昇、sclerostinの発現低下を示した。 近年、骨細胞の細胞老化(senescence)がRANKL発現を誘導することが報告された。MVNPおよびT-Igf1マウスの骨細胞ではWTと比較して、senescence markerとRANKLの発現が有意に増加していた。
これらの結果より、破骨細胞由来IGF1は骨細胞に作用してRANKLやsclerostinの発現を変化させることが明らかとなった。また、これら骨細胞の性質変化はPDの病態形成に重要な役割を果たしていることが示唆された。

受賞者のコメント
この度は奨励賞を頂くことができ、大変嬉しく思います。懇切丁寧にご指導くださった栗原徳善先生にはこの場をお借りして改めて感謝申し上げます。また、お忙しい中UJA論文賞の運営をしてくださった諸先生方にも感謝申し上げます。

審査員のコメント

加藤 明彦 先生:
Paget disease (PD) is a chronic disorder in which bones grow larger and become weaker than normal due to the hyperactivities in both osteoclasts and osteoblasts. The author group is the pioneer who discovered that significant fractions of PD patients express measles virus nucleocapsid protein (MVNP). Consistently, OCL-targeted MVNP expression develops PD-like pathology in mice. They also previously discovered that IGF1/Igf1 level was elevated in the OCLs from PD patients or MVNP transgenic mice. Interestingly, Igf1 in MVNP expressing OCLs is NECESSARY to induce PD in MVNP transgenic mice based on the Igf1 conditional knockout mouse studies. In this report, they initially examined the functions of osteocytes (OCys), which are the most abundant and long-lived cells in bone, in the persistence of bone legions in PD. They found histological abnormalities and increase in the RANKL level in OCys in MVNP mice in an Igf1 dependent manner. RANKL plays a key role in OCL formation. Next, they discovered the critical roles of Igf1 signaling cascade in RANKL production, OCL formation and bone resorption, utilizing the antibodies and siRNA suppressing the function of Igf1 or Igf1R. Finally, they demonstrated OCL-targeted Igf1 expression is SUFFICIENT to develop PD in mice. They generated a new mouse strain expressing Igf1 in OCLs without MVNP, and observed PD development in it. This study further deepened mechanistic understanding of PD.

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
歯科医師として臨床を行なっていく中で、基礎研究をベースとして現在の治療法が成り立っていることに気付き、自分でもクリニカルクエスチョンを解決してみたいと考えたことがきっかけです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
私は矯正歯科医として大学病院で働きつつ、骨の研究を行なっています。歯を支えている骨が病気になったり老化したりするメカニズムに興味があり、骨関連の研究を行うようになりました。

3)この研究の将来性
パジェット病は破骨細胞の異常を中心として骨の吸収と新生が過剰に起こる病気ですが、骨細胞が病態形成にどの様に関与しているかは不明でした。今回の発見が病態形成メカニズム解明の一助になればと期待しています。
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