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執筆者の写真cheironinitiative

[奨励賞]寺田 百合子/ワシントン大学 Washington University in St. Louis

Yuriko Terada, M.D., Ph.D.
[分野:ミズーリ・インディアナ]
喫煙ドナーを使用した肺移植は急性拒絶と関連するか?
American Journal of Transplantation, 01-August-2023

概要
肺移植は末期呼吸不全に対する唯一の救命手段であり、移植件数は年々上昇しているが、依然ドナー不足が深刻な問題である。喫煙ドナーからの肺移植は、短期予後を悪化させるとの報告があるが長期予後に関しては不明であり、喫煙ドナーを利用するかどうかに関しては移植施設の判断による。
移植肺における急性拒絶反応は、肺移植後の主要な合併症の一つである。肺移植後の移植肺内にはBronchus-associated lymphoid tissue (BALT)と呼ばれる3次新生リンパ組織が増生し、急性拒絶に関与すると報告されている。喫煙はBALTを誘導することが知られているが、喫煙ドナーが肺移植後の急性拒絶反応の増加と関連しているかは明らかになっていない。
そこで我々は、喫煙曝露マウスを用い、喫煙が移植肺に急性拒絶反応を引き起こすかについて研究を行った。喫煙曝露マウス肺内には、BALTが誘導され、BALTにはFoxp3+T細胞(制御性T細胞)が存在することを確認した。次に、喫煙曝露マウスまたはコントロールマウス(Balb/c)肺を、B6マウスに移植した(術後、免疫抑制剤を使用)。移植後14、30日目にそれぞれ移植した肺を観察したところ、移植肺急性拒絶反応分類グレードは、両群に有意差を認めなかった。移植後14日目では喫煙曝露群はコントロール群と比較してBALTがより多く観察された。免疫染色においてBALT内のドナーとレシピエントの細胞数を比較すると、喫煙曝露群はドナー由来細胞数が有意に多かった。移植後30日目ではBALTの数は両群で同等であり、BALT内のドナーとレシピエントの細胞数比も両群で同等だった。また、フローサイトメトリーにおいて、移植肺内のFoxp3+T細胞%は、両群に有意差を認めなかった。
さらに、当施設のヒト肺移植データを用いて喫煙ドナーがレシピエントの術後成績に影響を与えるか検討を行った。全体で11.2%の喫煙ドナーを認めたが、急性拒絶反応に関して両群で差は無かった。
喫煙により誘導されたドナー肺内のBALTは、肺移植後の急性拒絶反応を誘導しないことを明らかにした。

受賞者のコメント
この度は、奨励賞を受賞することができ光栄です。多くの関係者の方々に感謝を申し上げます。

審査員のコメント
今崎 剛 先生:
喫煙により誘導されたドナーのBALTは、移植時のレシピエントの急性拒絶反応には影響を与えない事を示した重要な仕事。マウス実験の N 数がもう少し多いとより強いデータになったように感じた。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
呼吸器外科医として肺移植の臨床を行なっている際、肺移植の研究に興味を持ちました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
肺移植は他の移植と比べて、予後が不良です。その要因が拒絶反応ですが、研究で拒絶反応に関わる免疫メカニズムに関して明らかにしたいと考えました。
3)この研究の将来性
肺移植の成績を向上できる可能性があると考えます。

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