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執筆者の写真Aki IIO-OGAWA

[奨励賞]山本 亮/カリフォルニア大学ロサンゼルス校

Ryo Yamamoto
[分野:南カリフォルニア]
細胞内における第三世代RNAシークエンサーを用いた二本鎖RNAの同定
Bioinformatics, 23-October-2023

概要
細胞内の二本鎖RNA(double-stranded RNA, dsRNA)は、dsRNAセンサーによる認識により免疫反応を引き起こすことが知られている。これは細胞外から侵入したウイルスの二本鎖RNAを認識し排除するためのメカニズムだが、細胞内で転写されたmRNAも二本鎖RNAを生成することがあり間違って免疫反応を起こすことがある。こういった細胞内で転写された二本鎖RNAによる免疫反応は近年がんやアルツハイマー型認知症といった疾患と関連することが発見され、重要な研究対象となっている。本論文は最新の第三世代RNAシークエンサーの技術を活用することで細胞内dsRNAを発見する機械学習のモデルを開発した。このモデルは様々なサンプルで高い正確性を示し、伝統的なツールよりもより多くの二本鎖RNAを発見することを可能にした。さらに、このモデルを使うことでアルツハイマー型認知症における前頭前皮質においてdsRNAの発現量が多いことを発見した。今後このモデルは、がんや免疫不全に関連する疾患における二本鎖RNAの役割を解明するために重要となることが期待される。

受賞者のコメント
この度は奨励賞をいただくことができ光栄です。これからもいい研究ができるよう打ち込んでいきたいと思います。

審査員のコメント
Yasuyshi Ueki 先生:
外来生の2本鎖RNAが強力なimmunogenicityを持つことはよく知られているが内在性の2本鎖RNAが同様の反応を起こすという最新の知見には勉強不足を痛感し驚いた。これら内在性の免疫活性化dsRNAを組織、疾患得意的に予想しその存在を確認にまで繋げることには大きな意味がある。この論文ではマシーンラーニングを元にRNAシークエンスデータから今までのプログラムよりも効率よくdsRNAを予測するプログラムを開発した。さらにアルツハイマー脳のデータを用いてその発現量が増えていることを、またアルツハイマー脳得意的なdsRNAの存在を確認した。こうした効率良い予測toolの開発は今後のdsRNAバイオロジーの大きな進展に貢献し、疾患におけるその役割の解明という新たな研究分野に発展する考えられる。

金子 直樹 先生:
Cytoplasmic dsRNAは免疫に関わることが示唆されているが、そのdsRNAの領域を予測する方法は A-to-I EditingなどのEditing-Enriched Regions (EERs) に頼っており限界がある。申請者らは逆転写中のintramolecular template switchingに起因するregion skippingに注目し、1つのlong read RNA-seqデータセットに含まれる情報といくつかのmachine learningの手法を用いて、editing非依存的でもdsRNA領域を予測できるdsRID法を開発した。さまざまなdatasetを用いその方法の精度を検証し、従来のEditing依存的な検出法では不可能であった新しいdsRNA領域を多く検出できることを示した。さらにAlzheimer病とコントロールのサンプル間で異なるdsRNAのプロファイルを特徴づけた。この新たなモデルはRNA editingに依存していた従来の手法で予測できなかった重要なdsRNAを同定することにつながる可能性がある。この研究自体はin silicoであるため、実際に新たに予測されたdsRNAの実際の存在や影響は今後慎重に検討されるべきではあるが、さまざまな身体における異常にdsRNAが関わっている可能性があることを考慮すると、この新たな方法は非常に大きなインパクトをもたらす可能性がある。

北郷 明成 先生:
二本鎖RNAの生成と免疫応答の誤活性化は、細胞内の正確なRNA編集メカニズムの維持と、免疫系の適切な調節とのバランスを必要とし、遺伝子編集技術やRNAベースの治療法の開発においても、このバランスの維持が重要な課題となっている。本研究は、ロングリードRNAシーケンスデータを用いて二本鎖RNA領域を予測するdsRIDと呼ばれる機械学習ベースの手法を用いている。アルツハイマー病のような疾患特異的なデータセットに本手法を適用することで、dsRNA領域とヒト疾患との関連を探る上で有用であることが実証された。今後、他の疾患においてもその適応性が期待でき、医学生物学的および社会的に非常に価値のある研究である。また本研究は応募者が大学院中に行われた研究で、そのパフォーマンスやインパクトは賞賛に値する。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
学部生の時に所属していた研究室で、研究の奥深さや楽しさを知りもう少し続けてみようと思ったのがきっかけです。
2)現在の専門分野に進んだ理由
もともと生物学系の専攻をしたいと思って大学に進学したのですが、学部の一年生の時に取ったComputer Scienceの授業がきっかけで情報系の専攻に変わりました。その後二つの分野の知識が必要な生物情報学の存在を知り研究を始めました。
3)この研究の将来性
今回の論文は二重螺旋RNAというアルツハイマー型認知症といった疾患と関連のあるRNAを同定する技術を開発したものでした。将来的にはこの技術を使って疾患の原因となるRNAを標的として研究することなどが考えられます。
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