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執筆者の写真Aki IIO-OGAWA

[奨励賞]後藤 聡/カルフォルニア大学バークレー校

So Goto, M.D., Ph.D., MPH
[分野:Tomorrow 1]
近視進行および回復時における網膜色素上皮の新たな遺伝子発現変化
Biomolecules, 23-September-2023

概要
近視とは、眼が前後方向に長くなり、網膜より前面に焦点を結ぶ状態を示す。世界の近視人口は近年増え続けており、今ではアジアの若者は90%以上が近視を有し、眼軸長が過度に伸展した高度近視は世界人口の2.7% (2000年) から10% (2050年) まで増加すると予測されている。近視の進行に伴い、緑内障や網膜剥離を生じやすくなり、高度近視は日本の失明原因の第四位である。アジアを中心とした世界的な近視人口の増加に伴い予防法や治療法の開発が期待されているが、未だに近視の発症・進行メカニズムは解明されていない。一方で網膜色素上皮(Retinal pigment epithelium: RPE)は眼の病気や病態を考えるうえで重要な1層の上皮組織であり、光を需要する網膜と、網膜を栄養する脈絡膜血管組織の間に位置している。今回筆者らは、コンタクトレンズを用いた近視誘導モルモットモデルを用いて、網膜色素上皮に焦点を置いた近視進行メカニズムの解明に挑戦した。まず、モルモット眼から網膜色素上皮を高純度かつ高品質に単離する方法を開発(Goto S, et al. J Vis Exp. 2023)したうえで、近視誘導1日後の網膜色素上皮を回収し網羅的遺伝子発現解析を実施した。その結果、13の遺伝子の有意な変化を報告した(S Goto, et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 2022)。次に、網羅的遺伝子発現解析の結果を用いてタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)解析を行い、BMP2、ID3、NOGという3つの遺伝子の関連性を見出した。さらに、近視誘導1日後と1週間後、およびレンズを取り外した後の1日後と2週間後に網膜色素上皮を回収し、それぞれの遺伝子の発現変化を検証した。近視誘導時にBMP2は発現が低下し、回復期に発現が亢進し、レンズ取外し後2週間で正常化した。BMP2は他の動物種でも近視進行眼における発現低下が報告されており、動物種を超えた同様の結果を踏まえると近視進行メカニズムにおける役割は大きいことが予想される。今後、BMP2を介した近視進行メカニズムを分子レベルで検証することで、予防法や治療法の開発に繋げられるよう研究を継続したい。

受賞者のコメント
このような素晴らしい賞にお与えいただき、心より感謝申し上げます。留学中のお仕事に彩りを添えることができ、大変嬉しく思うと同時に、支えてくれたメンバーに改めて感謝致します。この受賞を励みに、これまで続けさせていただいている研究をさらに発展させたいという気持ちが強くなりました。今後も精進したく存じます。誠に有難うございました。

審査員のコメント
前田 豊 先生:
近視進行のメカニズムを解明するためモルモットモデルで遺伝子発現の変化を調べた論文です。今後遺伝子発現の変化を調べるだけにとどまらず、変化のあった遺伝子の機能解析を行うことが期待されます。

丹野 修宏 先生:
近視の予防法や治療法に関しては需要が高く、病態の解明は社会的なインパクトが大きいものと考えます。RPEに注目し、単離する方法論やRNAseqを既に行われていることは素晴らしいことと思います。本論文につきましては、技術的にはチャレンジングな側面もありますものの、IP-MSなどによるプロテオミクス解析やknock-outを用いて各遺伝子の機能解析などを拝見したく思いました。

児島 克明 先生:
この研究では、コンタクトレンズを用いた近視誘導モルモットモデルを用い、網膜色素上皮でBMP2の発現が近視進行眼で減少しているという重要な発見をした。この結果は、以前の研究とも整合性があり、様々な動物種における近視進行のメカニズムの可能性を示唆している。今後、BMP2を介した近視進行メカニズムの詳細な分析を通じて、効果的な予防法や治療法の開発に貢献することを期待している。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
研究を通じて、まだ分からない病態を解明できることが楽しいから。
2)現在の専門分野に進んだ理由
眼は透明で、脳に繋がる神秘的な臓器です。その神秘に魅せられました。
3)この研究の将来性
近視の病態解明および進行予防の開発に役立つ可能性があります。
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