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kei121318

[奨励賞]早川 大智/Brandeis University

Daichi Hayakawa
[分野:物理学]
DNA折り紙の自己組織化によるナノチューブの作成と制御
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 22-October-2023

概要
自己組織化(self-assembly)はシステムの各要素が互いに作用することで自発的に秩序的な構造を作り出す現象である。生体においてこれは不可欠であり、たんぱく質、脂質、核酸といった生体分子はその自己組織化現象を通じてウイルス、微小管、リボソームに代表される機能的な構造を作り上げている。このように、自己組織化はナノスケールで機能的な構造を作るために有用と考えられているが、その構成要素となるナノ粒子の形状と相互作用を緻密に制御する手法は未だ少なく、狙った構造の逆設計は困難である。
本研究では、まずDNA折り紙を用いて三角形のナノ粒子を作成し、各辺での相互作用と結合角度を緻密に設計する手法を開発した。DNA折り紙とはバクテリオファージから得られる7000塩基程度の環状の単鎖DNAを、50塩基ほどの合成されたヌクレオチドを複数用いて、任意の3次元構造に折りたたむ技術である。本研究ではDNA折り紙を用いて50ナノメートル程度の三角形のブロックを作成し、スタッキング相互作用と呼ばれる機構を用いて三角形が各辺を通じて選択的に結合できる設計にした。また、粒子同士が辺を介して結合する際、その結合角度が任意に制御できるようなデザイン手法を新たに開発した。
この三角形を用いることで、その自己組織化で得られるシートの曲率を任意にコントロールすることができる。そこで本研究では、三角形同士の結合角度を制御することでナノチューブを設計し作成した。幅数百ナノメートル、長さ数マイクロメートルのナノチューブを作成することに成功したものの、より詳細にみると、チューブ幅は一定ではなく分布が存在することが確認された。これは、結合角度の揺らぎが存在するためであると考えられる。この揺らぎは生体を含むナノスケールの自己組織化システムで一律に存在し、構造体作成の際の精度を低下させる要因になると考えられる。そこで本研究では、狙った構造をより精度よく作成するために複数の粒子を用いる手法を提案した。二種類の異なる三角形を用いてナノチューブを作成することで、ナノチューブの分布が半分に縮小することを発見した。この結果は、幾何学的に対称な自己組織化構造の制御全般に応用することができる。よって、より正確に狙った構造を作成するためには、結合角度に代表される幾何学的特異性を制御する、もしくは粒子の種類に代表される系の情報量を増やす、の二つの方法があることを示した。

受賞者のコメント
この度はこのような栄誉ある賞をいただき大変光栄です。大学院留学をして初めて書いた論文をこの様に評価していただけてとても嬉しいです。また、本論文は指導教官はもちろん、たくさんの共同研究者の助けを借りて書き上げることができました。素晴らしい環境で研究させていただいたことに感謝しています。

審査員のコメント
竹井聡 先生:
This work is an interesting quantitative analysis of the self-assembly of tubules based on triangular pieces with spatially specific interactions. The concepts developed here have applications to other self-limiting structures as well. A very nice work for someone still in their PhD, and it is impressive the paper has 10 citations in just over a year.

河野淳一郎 先生:
生体中では様々な分子・粒子が自己組織化を繰り返すことによって機能的構造が出来上がることが知られている。しかしながら、自己組織化過程における構成要素の形状と相互作用を正確に制御する方法は現時点では存在しない。この研究では、「DNA折り紙」と呼ばれる手法を用いて三角形ナノ粒子を作成し、各辺での相互作用と結合角度を緻密に設計することに成功している。具体的には、50ナノメートル程度の三角形のブロックを作成し、スタッキング相互作用によって三角形が各辺を通じて選択的に結合した。結合角度が任意に制御できるようなデザインになっており、自己組織化で得られるシートの曲率を任意にコントロールすることができた。そして、結合角度を制御することで、幅数百ナノメートル、長さ数マイクロメートルのナノチューブを作成することを示した。チューブ幅には分布が存在することが確認されたが、狙った構造をより精度よく作成するために二種類の異なる三角形を用いてナノチューブを作成することによってチューブ幅分布が半分に縮小することを発見した。これらの結果は非常に新たな知見に満ちており、今後幾何学的に対称な自己組織化構造の制御全般への応用が期待できる。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
高校の塾の先生に「物理は未来を予測する学問だ」と言われて感動し、物理にのめりこんでいきました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
生物の授業では地球に存在する様々な生き物やその特徴について学びますが、生命の本質に触れることはありませんでした。生命の本質は何か、自分で作ることはできるのか気になり、現在研究している自己組織化という現象にたどり着きました。
3)この研究の将来性
DNA折り紙の自己組織化を用いると、細胞(マイクロメートル)サイズの様々な3次元構造体が作れることが、本研究を含めた最近の研究で分かってきました。また、DNA折り紙はその構造をナノメートル単位で制御できるだけでなく、金属ナノ粒子、たんぱく質、RNA等を任意の場所に結合させることができます。こういった技術を組み合わせることで、高性能な光学マテリアルやドラッグデリバリーシステムへの応用が期待されています。

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