cheironinitiative4月8日読了時間: 4分[奨励賞]村上 重和/ジョージタウン大学Shigekazu Murakami, Ph.D.[分野:がん分野]Spontaneously evolved progenitor niches escape Yap oncogene addiction in advanced pancreatic ductal adenocarcinomas膵癌の進展におけるYap非依存性細胞の出現と役割Nature Communications概要膵癌の大半を占める膵管腺癌(Pancreatic ductal adenocarcinoma; PDAC)は、癌遺伝子Krasの異常な活性化に高く依存した発症メカニズムを持つ癌である。近年ではKrasの機能が阻害されても転写制御因子Yapなどの代替因子により癌が維持されることが知られている。著者らは以前、Kras/TP53変異型の膵癌細胞でYap遺伝子をノックアウト(KO)することで腫瘍の縮小を推測したが、一時的に腫瘍増殖速度は低下したものの腫瘍は増大したことを報告した (Murakami et al., Developmental Cell, 2019)。そこで、Yap非依存性の膵癌のメカニズムを解明するために、遺伝子発現とエピジェネティックな変化を網羅的に解析した。 本研究では、膵癌にYapに依存性の高い細胞亜集団と低い細胞亜集団が存在し、後者に前駆細胞様の遺伝子群(Progenitor-like transcriptional factors; PTFs)が高発現していることを明らかにした。両者の細胞では、Yapの発現レベルに差はないが、Yap依存性の細胞は上皮様、Yap非依存性の細胞は間葉系の特徴を有していた。このPTFsを高発現する間葉系の細胞亜集団は、膵癌発症初期では稀で、癌のステージの進行とともにその割合は増加した。一般的に、上皮細胞に由来する癌は系譜組織のマーカーを発現する分化型の形質から、上皮間葉転換 (EMT)によりその前駆細胞や幹細胞様マーカーを発現する低分化型の間葉系細胞に転換することが知られており、Yap非依存性の細胞は偶発的にEMTなどの形態変化により出現した悪性度の高い亜集団であることが示唆された。両者の細胞において、クマロマチン上の活性化遺伝子のマーカーであるヒストンH3K27acやそれに結合する転写促進因子BRD4の分布に優位な差があり、PTFsによってYap依存性には見られない遺伝子群の発現が誘導されていることから、偶発的な外的なシグナルに起因したエピジェネティックなリプログラミングがYap非依存性の細胞を生み出す要因となったことと考えられた。また、Yap依存性の腫瘍はYap阻害剤とBET(BRD4を含むブロモドメインタンパク質)阻害剤の両方に高い感受性を示し、Yap非依存性の腫瘍はYap阻害剤の効果が低い一方、BET阻害剤には高い感受性を示した。Yap阻害剤とBET阻害剤は臨床試験が現在進んでいる製剤であり、多様な細胞亜集団を有するPDACにおいてYap阻害剤とBET阻害剤の新たな組み合わせによる新規膵癌治療の可能性が見出された。受賞者のコメントこの度、UJA論文賞の特別賞を受賞することが出来て非常に光栄です。研究でお世話になったDr. Yiを始め、ラボメンバーには大変感謝しております。また、日々私を支えてくれている妻にも深く感謝しています。審査員のコメント平田 英周 先生:系統可塑性を評価可能な遺伝子改変マウスモデルを用いて、膵管腺癌(PDAC)の進展とYAPへの依存性・非依存性、その細胞分子生物学的特徴を明らかにした論文です。PDACの進展とともに間葉系の特徴を有するYAP非依存性のがん細胞出現すること、これらのがん細胞はYAP依存性のがん細胞とは異なるプロモドメインタンパク質BRD4による制御を受けていることが示されています。PDACに対するBET阻害剤の有用性を支持する、大変意義深い研究成果です。田守 洋一郎 先生:申請者自身が2019年に報告した、PDAC中のYap依存性が異なる細胞集団の発見に対するfollow-up study。Yap非依存性の細胞は間葉系細胞の特徴があり、EMTを起こした細胞集団である可能性を示しており、Yap阻害剤の効果は低い一方で、BET阻害剤には感受性があることを示している。長い留学期間で追求してきたものを、今回さらに重要な報告として論文発表できたことは大いに評価すべきところであろう。エピソード1)研究者を目指したきっかけ大学の修士・博士課程の時に、比較的自由に研究活動が出来る環境だったこともあり、研究仮説の立案と検証を繰り返していく過程が楽しいと思えたから、今後も研究を続けていきたいと思いました。2)現在の専門分野に進んだ理由親戚が癌に罹った際に、何度治療しても再発してくる様が恐ろしいと感じたと同時にその原因に興味を持ち、特に癌の進行のメカニズムを研究したいと思いました。3)この研究の将来性本研究は、学術的な知識を提供するのみならず、膵癌の治療に有効な新たな分子標的を提示し、新たな治療薬の開発へ貢献できる可能性があります。
Shigekazu Murakami, Ph.D.[分野:がん分野]Spontaneously evolved progenitor niches escape Yap oncogene addiction in advanced pancreatic ductal adenocarcinomas膵癌の進展におけるYap非依存性細胞の出現と役割Nature Communications概要膵癌の大半を占める膵管腺癌(Pancreatic ductal adenocarcinoma; PDAC)は、癌遺伝子Krasの異常な活性化に高く依存した発症メカニズムを持つ癌である。近年ではKrasの機能が阻害されても転写制御因子Yapなどの代替因子により癌が維持されることが知られている。著者らは以前、Kras/TP53変異型の膵癌細胞でYap遺伝子をノックアウト(KO)することで腫瘍の縮小を推測したが、一時的に腫瘍増殖速度は低下したものの腫瘍は増大したことを報告した (Murakami et al., Developmental Cell, 2019)。そこで、Yap非依存性の膵癌のメカニズムを解明するために、遺伝子発現とエピジェネティックな変化を網羅的に解析した。 本研究では、膵癌にYapに依存性の高い細胞亜集団と低い細胞亜集団が存在し、後者に前駆細胞様の遺伝子群(Progenitor-like transcriptional factors; PTFs)が高発現していることを明らかにした。両者の細胞では、Yapの発現レベルに差はないが、Yap依存性の細胞は上皮様、Yap非依存性の細胞は間葉系の特徴を有していた。このPTFsを高発現する間葉系の細胞亜集団は、膵癌発症初期では稀で、癌のステージの進行とともにその割合は増加した。一般的に、上皮細胞に由来する癌は系譜組織のマーカーを発現する分化型の形質から、上皮間葉転換 (EMT)によりその前駆細胞や幹細胞様マーカーを発現する低分化型の間葉系細胞に転換することが知られており、Yap非依存性の細胞は偶発的にEMTなどの形態変化により出現した悪性度の高い亜集団であることが示唆された。両者の細胞において、クマロマチン上の活性化遺伝子のマーカーであるヒストンH3K27acやそれに結合する転写促進因子BRD4の分布に優位な差があり、PTFsによってYap依存性には見られない遺伝子群の発現が誘導されていることから、偶発的な外的なシグナルに起因したエピジェネティックなリプログラミングがYap非依存性の細胞を生み出す要因となったことと考えられた。また、Yap依存性の腫瘍はYap阻害剤とBET(BRD4を含むブロモドメインタンパク質)阻害剤の両方に高い感受性を示し、Yap非依存性の腫瘍はYap阻害剤の効果が低い一方、BET阻害剤には高い感受性を示した。Yap阻害剤とBET阻害剤は臨床試験が現在進んでいる製剤であり、多様な細胞亜集団を有するPDACにおいてYap阻害剤とBET阻害剤の新たな組み合わせによる新規膵癌治療の可能性が見出された。受賞者のコメントこの度、UJA論文賞の特別賞を受賞することが出来て非常に光栄です。研究でお世話になったDr. Yiを始め、ラボメンバーには大変感謝しております。また、日々私を支えてくれている妻にも深く感謝しています。審査員のコメント平田 英周 先生:系統可塑性を評価可能な遺伝子改変マウスモデルを用いて、膵管腺癌(PDAC)の進展とYAPへの依存性・非依存性、その細胞分子生物学的特徴を明らかにした論文です。PDACの進展とともに間葉系の特徴を有するYAP非依存性のがん細胞出現すること、これらのがん細胞はYAP依存性のがん細胞とは異なるプロモドメインタンパク質BRD4による制御を受けていることが示されています。PDACに対するBET阻害剤の有用性を支持する、大変意義深い研究成果です。田守 洋一郎 先生:申請者自身が2019年に報告した、PDAC中のYap依存性が異なる細胞集団の発見に対するfollow-up study。Yap非依存性の細胞は間葉系細胞の特徴があり、EMTを起こした細胞集団である可能性を示しており、Yap阻害剤の効果は低い一方で、BET阻害剤には感受性があることを示している。長い留学期間で追求してきたものを、今回さらに重要な報告として論文発表できたことは大いに評価すべきところであろう。エピソード1)研究者を目指したきっかけ大学の修士・博士課程の時に、比較的自由に研究活動が出来る環境だったこともあり、研究仮説の立案と検証を繰り返していく過程が楽しいと思えたから、今後も研究を続けていきたいと思いました。2)現在の専門分野に進んだ理由親戚が癌に罹った際に、何度治療しても再発してくる様が恐ろしいと感じたと同時にその原因に興味を持ち、特に癌の進行のメカニズムを研究したいと思いました。3)この研究の将来性本研究は、学術的な知識を提供するのみならず、膵癌の治療に有効な新たな分子標的を提示し、新たな治療薬の開発へ貢献できる可能性があります。
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