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執筆者の写真cheironinitiative

[奨励賞]梅田 雅之/St. Jude Children's Research Hospital

Masayuki Umeda, M.D., Ph.D.

[分野:がん分野]

小児急性骨髄性白血病におけるUBTF遺伝子変異

Blood Cancer Discovery, 05-May-2022


概要

小児急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia:AML)は小児白血病の中で高い再発率を示し予後不良である。大規模な研究により診断時の遺伝学的背景が明らかになっていたが、その予後との関係や再発時の遺伝子変異は十分な研究がなされていなかった。

本研究で136例の再発小児AMLの遺伝子変異と遺伝子発現を次世代シークエンシングを用いて調査した結果、臨床的意義が知られていないUBTF遺伝子変異(タンデム重複)が診断時の症例と比較し再発症例で高頻度で発見された。AMLにおけるUBTF変異はこれまで数例の報告しかなかったことから、従来の遺伝子変異解析法ではUBTF変異の多くを同定できない可能性が考えられたため、我々はUBTF変異の解析スクリーニング法を開発した。これを診断時の症例を含めた大規模コホートに応用することで553症例中合計27症例でUBTF変異が同定された。UBTF変異はすべて10代前半に多く見られ、主に正常核型もしくは8番染色体トリソミーを示し、FLT3変異とWT1変異を多く伴っていた。また診断時および再発時の比較検討から、UBTF変異が発症初期から存在することが示唆された。またUBTF変異を持つ症例はNPM1変異などサブタイプを決定する変異を持たず、HOXA-B遺伝子やPRDM16などの遺伝子を特異的に高発現していた。

次に臍帯血CD34+細胞にUBTF変異体を強制発現させ分化・増殖への影響を検討したところ、UBTF変異体は細胞増殖やコロニー形成能、芽球様の形態に加え、UBTF遺伝子変異を持つAMLと類似した遺伝子発現パターンを促進することがわかった。

最後にUBTF変異をもつAMLの臨床的特徴を調べるため、AMLの独立した3コホートに対してスクリーニングを行い、小児症例の4.3%、成人症例の0.9%にUBTF変異を同定した。小児コホートの予後解析によってUBTF変異は他の予後因子とは独立した予後不良因子であることが確認された。これらのデータはUBTF変異をもつ症例の正確な診断と臨床データの蓄積による治療層別化、また白血病の発症メカニズムの解明から、予後不良な臨床的特徴を克服するための基礎となる可能性がある。


受賞者のコメント

小児白血病に関する自分の研究内容を、他分野の方含め多くの人に知ってもらえる機会をいただけて嬉しく思います。


審査員のコメント

片野田 耕太 先生:

小児AMLの新たな遺伝学的特徴を発見し、他の遺伝子変異との関連、予後との関連など多面的な解析により新たな予後因子としての可能性まで示した点が評価できる。


山田 かおり 先生:

これまでまれにしかみつからなかったUBTFの変異が、Whole-genome sequencing (WGS), whole-exome sequencing (WES), target capture sequencing (TCS), RNA-seqやRNAIndelなどを駆使するとたくさん見つかり、子供の白血病に重要だと示した、素晴らしい論文。


田守 洋一郎 先生:

小児AMLで、これまでに知られていなかった予後不良因子として、タンデム重複のUBTF変異を発見した研究。実際の症例において同変異がHOXA-BやPRDM16などの発現亢進に関わっていること、さらにUBTF変異体を導入したCD34+細胞での解析から、同変異を持つAMLと類似した遺伝子発現パターンを促進することを示している。AMLの新たな予後不良因子の発見としては非常に重要である。さらなるメカニズムについては今後の研究に期待か。


エピソード

1)研究者を目指したきっかけ

子どものころから喘息を患っており、かかりつけの小児科の先生や入院した際の担当の先生方に治療してもらっていた経験が自分も医師・研究者を目指そうと思ったきっかけです。

2)現在の専門分野に進んだ理由

血液内科は治療が困難な病気も多いですが、治療を通じて患者さんと長期間にわたり関わり合うことができる魅力的な分野です。現在は基礎研究のみに従事しており患者さんの治療に直接携わることはありませんが、基礎研究が将来の患者さんの治療につながることをモチベーションに頑張っています。

3)この研究の将来性

この研究で見つかった新しい遺伝子変異が小児急性骨髄性白血病の再発の9%の原因であり現在の治療では根治が難しい病気のグループであることがわかりました。今後その治療成績をよくするため、分子メカニズムに基づいた治療法を考える上での基礎となると考えられます。


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