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[奨励賞]氏家 直人/ノースウエスタン大学

Naoto Ujiie, M.D., Ph.D.
[分野:イリノイ]
(緑内障病態下でのFoxc2の線維柱帯とシュレム管における役割の解明)
Life Science Alliance, 06-July-2023

概要
緑内障はその進行とともに視力障害を引き起こす疾患であり、失明をきたす原因疾患の第2位として位置付けられている。眼内の圧力を維持するために必要である房水の流出が妨げられることによる眼圧の上昇がその病態である。房水は神経堤に由来する線維柱帯(Trabecular meshwork, TM)、およびシュレム管(Schlemm’s canal, SC)を通り循環系へ排出される。アンジオポエチン (ANGPT)/TIE2 シグナル伝達経路がSCの発生と維持を制御することは周知の事実であるが、SCとその隣接組織であるTMとの関連についての分子機構は解明されていない。
我々は、マウスにおける神経堤特異的なforkhead box(Fox)c2の欠失が、SCの形態形成障害ならびに眼圧の上昇を引き起こすことを発見した。流出経路の解剖学的変化を観察するために行った可視光光干渉断層撮影(visible light optical coherence tomography, vis-OCT)では、SCの形態的障害のみならず、TMの力学的な変化を伴う眼圧変化に応じたSCの機能的障害も明らかとなった。シングルセルRNA-seq解析では、TMクラスターにおいて、matrix metalloproteinase(MMP)2やMMP3など、TIE2細胞外ドメインを切断して可溶性TIE2を生成するMMPの増加が明らかとなり、TM組織における細胞外マトリックス機構と剛性に関連する転写変化が原因であることを見出した。また、血管・リンパ管内皮細胞特異的なFoxc2の欠失はTIE2の減少によりSC形態形成を障害したが、TIE2ホスファターゼであるvascular endothelial protein tyrosine phosphatase(VE-PTP)を欠失することで救済可能であった。
本研究は、神経堤由来であるTM細胞とSC内皮細胞の双方において、Foxc2がSCの形成と維持のために必要不可欠であることを明らかとし、また、vis-OCTを用いてトランスジェニックマウス変異体モデルにおけるSCの形態的および機能的障害を初めて実証した。今後、緑内障の新規創薬ターゲットにつながる可能性がある。

受賞者のコメント
この度、栄誉あるこのような素晴らしい賞をいただくことができ、大変光栄に思っております。本研究に携わってくださった皆様、またご尽力いただきましたUJA関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

審査員のコメント
神津 英至 先生:
遺著者らは、神経堤特異的なFoxc2欠損がシュレム管の形態的・機能的障害および眼圧上昇を誘導することを、可視光光干渉断層撮影を含む詳細な表現型解析にて明らかにした。その機序として、線維柱帯細胞における細胞外基質制御因子の発現変化が関与する可能性をscRNA-seqより提唱した。さらに、血管・リンパ管内皮におけるFoxc2の発現も、TIE2シグナルを介してシュレム管形成に寄与することを示した。本研究は、線維柱帯・シュレム管の恒常性におけるFoxc2の重要性を明らかにし、緑内障の新規治療法開発に寄与することが期待される。

小島 敬史 先生:
緑内障は罹患患者数も多く、視力障害や失明に至ることもある眼科疾患です。本研究では、眼圧制御に関わる線維柱帯のとシュレム管、およびその正常発生に関わるFoxc2遺伝子について着目しています。神経堤特異的Foxc2欠損モデルマウスを用い、形態学的変化から眼圧上昇が生じることを客観的に示しました。さらにscRNAseq解析によりそのメカニズムを解析。新たな治療法の可能性についても提示しています。緑内障というコモンディジーズに対する新規治療薬開発の可能性を示し、多くの人々のQOL向上に貢献することが期待できます。

牛島 健太郎 先生:
本研究は、緑内障の病態である眼圧上昇をきたすメカニズムと責任分子の解明に取組み、Foxc2の欠失がシュレム管の形態形成障害を来たすことを明らかにした先駆的内容です。特に、可視光光干渉断層撮影の結果から線維柱帯との相互作用によるシュレーム管機能障害を見出しており、これがFoxc2の二機能的役割の解明に繋がっています。本研究の着眼点は、新しい作用機序を持つ緑内障治療薬の開発に寄与するものと考えます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
臨床医として医療現場で実際に患者診療に従事してきましたが、その中で疾患発症に至る機構の解明に興味を持つようになり、研究にも携わってみたいと思ったからです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
疾患を発症する要因となる分子機構の解明手法について広く学びたいと思ったからです。

3)この研究の将来性
緑内障に対する新規薬剤の開発につながる可能性があります。

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