Yu Fujiwara, M.D.
[分野:がん分野]
周術期がん免疫療法による有害事象頻度の解明
The Lancet Oncology
概要
近年、がんの新たな治療方法として、免疫チェックポイント阻害薬が開発され、がん薬物療法の新たな標準治療となった。進行がん患者で効果が示されたのち、2020年度以降、免疫チェックポイント阻害薬を固形がんの周術期に投与することにより無病生存期間や長期死亡率が改善するという報告がされ、実臨床でも広く用いられるようになっている。周術期治療は主に根治目的で行われるため、安全性の担保が重要となるが、個別の臨床試験では重度な有害事象発生頻度が少なく検出力が限られているため、副作用リスクが十分に評価できていなかった。本研究では、システマティックレビューにより同定した28本の第2・3相のランダム化比較試験に参加した約17,000人の固形腫瘍患者のデータ を解析し、従来の術前、術後化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を追加した場合の、重大な治療関連有害事象(グレード3-4)、及び致死的治療関連有害事象(グレード5)の発生率への影響をメタ解析により正確に算出した。解析の結果、免疫チェックポイント阻害薬の使用は、グレード3-4の有害事象(オッズ比:2.73、95%信頼区間1.98-3.76)及び、治療中止に至る有害事象(オッズ比3.76、95%信頼区間2.45-5.51)を有意に増加することが確認された。治療関連死亡(オッズ比1.76, 95%信頼区間:0.95-3.25)は免疫チェックポイント阻害薬の追加により有意には増加せず、発生頻度は少ないものの (0.41% [40/9864])、治療関連死亡の原因として肺臓炎、心筋炎、腸炎などが特定された。治療別にみると、術前(ネオアジュバント)治療時は、免疫チェックポイント阻害薬による治療関連有害事象の増加は、統計学に見られなかったが、術後(アジュバント治療)では重大(グレード3-4)、及び致死的な治療関連有害事象の有意な上昇を認めた。本研究は、安全性の担保が重要視される術前・術後の周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬の有害事象頻度を正確に解明した重要な成果である。今後根治目的とした術前術後の状況で免疫チェックポイント阻害薬を使用する患者は増えることが予想されるため、研究成果は日常診療でのがん患者さんへの情報提供に役立つと共に、今後は重篤な有害事象のリスク因子の同定や、有害事象の発生と周術期治療成績との関連性を解明する研究が期待される。
受賞者のコメント
この度は、名誉あるUJA特別賞を頂き、大変光栄に思います。今後、がん患者さんに対して免疫治療はますます使用されると思いますので、在米の臨床医として、引き続き患者さんに有用な情報や治療の選択肢を提供できるような臨床研究に取り組んでいきたいと思います。このようなご機会をいただき誠にありがとうございます。
審査員のコメント
片野田 耕太 先生:
近年使用が拡大している免疫チェックポイント阻害薬の有害事象のリスクをメタアナリシスにより定量化したのは実用性のある研究として評価できる。オリジナリティとしては誰でも思いつくアイディアなのでやや低い。
田守 洋一郎 先生:
がん周術期治療の術後アジュバント治療に免疫チェックポイント阻害剤を追加した場合に生じる有害事象頻度の増加を、丁寧なメタデータ解析によって示した論文。周術期治療の選択肢として、近年注目度、使用頻度ともに上がりつつある免疫チェックポイント阻害剤の実際を報告するものである。
エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
がんの患者さんに対してより良い治療が開発できないかな、と考えたのがきっかけです。がん患者さんの診療をしながら、より良い治療が必要と感じ、研究を始めるようになりました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
家族のがん治療を見たのがきっかけです。患者さんの診療と、治療方法の開発研究を同時に医師として行える腫瘍内科という存在を大学学生時代に知り現在の専門分野に進みました。
3)この研究の将来性
この研究は、がんの手術治療を受ける前後に免疫治療と呼ばれる薬物療法を投与した際に、どの程度で重い副作用が出るかを解明しました。治療前の情報提供に役立つとともに、今後はどんな患者さんでより副作用が出やすいか、といった研究を促進できると考えております。
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