Aki IIO-OGAWA4月8日読了時間: 4分[奨励賞]金 恭平/岡山大学Kyohei KIn, M.D., Ph.D.[分野:Tomorrow 2]Adolescent stress impairs postpartum social behavior via anterior insula-prelimbic pathway in mice思春期ストレスが産後社会行動を障害するメカニズムNature Communications, 23-May-2023概要母親の社会行動は、母親の健康面のみならず、子の適切な成長にも重要である。疫学研究では、思春期ストレス曝露が産後社会行動障害の危険因子とされているが、そのメカニズムは不明である。本研究では、独自に開発した動物モデルと光遺伝学、生体内カルシウムイメージングを用いてそのメカニズムを検討した。 単独では問題とならない隔離ストレスに暴露されたマウス(stressed dam)は、出産一週間後から新規マウスへの嗜好性が失われた。この社会行動異常の出現時期と一致して、anterior insula(AI)からprelimbic cortex(PrL)へ投射するグルタミン酸作動性ニューロンで形成される神経回路(以下、AI-PrL)の活動性も低下していた。 これらの結果から、AI-PrLは産後社会行動異常に関与していることが示唆された。AI-PrLはこれまで着目されたことがなく、その機能は不明である。そのため、光遺伝学と生体内カルシウムイメージングの技術を用いてその機能を検討した。 光遺伝学を用いた活動操作によって、AI-PrLは他のマウスの認識において重要な役割を担っていることが明らかになった。また、生体内カルシウムイメージングでPrLの活動性を評価し、AI-PrLが及す影響を評価した。AI-PrLは、PrLの中で、新規マウスに対して常に同じ活動パターンを示す神経細胞(stable neuron)に対してのみ影響を及ぼしていることが明らかになった。 また、stressed damは、出産直後から一週間コルチコステロン異常高値を示した。このコルチコステロン異常高値は、stressed damが社会行動異常を来す直前の期間に限局しており、その社会行動異常の原因となっている可能性が示唆された。この考えを検証するためにAI-PrL選択的にコルチコステロン受容体をノックアウトしたところ、stressed damの社会行動異常は見られなくなった。 以上の結果から、思春期ストレスは産後のコルチコステロン異常高値を惹起し、それによってAI-PrLの機能を障害し、その結果PrLのstable neuronの活動パターンが変化し、新規マウスの認識が困難になったため社会行動異常を来すことが明らかになった。本研究の結果は、思春期ストレス曝露によって生じる産後社会行動異常のメカニズム解明と、未知の神経回路であったAI-PrLの機能解明に寄与した。受賞者のコメントこの度はこのような素晴らしい論文賞を頂き、誠に光栄です。今回の受賞を励みにこれからも精進していきます。審査員のコメント岩澤 絵梨 先生:Adolescenceにsocial isolationを経験すると、出産1週間後から行動異常を示すという興味深いモデル(SILA)を用いて、AAVの注射により、Anterior insulaからPrelimbic cortexへ投射するGlutamatergic neuronがSILAでは減少すること、光遺伝学を用いてAI-PrLの出産後の社会行動異常への直接的役割を示し、そのきっかけとして出産直後にCorticosteroneの上昇が見られることからGlugocorticoid受容体をノックアウトすることで社会行動異常への直接的な関与を示しました。社会問題でもある産後うつ等への理解に重要な見解を与えると考えられます。綿密な行動試験と丁寧な実験が行われており、筆頭著者にとって留学後最初の論文でかつハイインパクトである重要な論文であると考えます。宮腰 誠 先生:思春期ストレスが産後の社会行動に与える影響を検討した動物実験。妊娠出産という女性特有のライフイベントの前後の期間のつながりを島と辺縁系の神経回路の活動の修飾を軸に説明する良い研究であり。女性の思春期(のアナログ)に焦点を当てた点を高く評価する。後藤 純 先生:産後社会行動を決定する、コルチコステロンの作動先、AI-PrL回路の役割を同定したという非常に画期的な論文であると評価いたしました。光遺伝子学や脳内カルシウムイメージングなど最先端の手法を用いて、AI-PrL回路に発現するコルチコステロン受容体が新規マウスの認識に関わるという新しい知見を生み出したことは、妊娠中および思春期ストレスがもたらす行動障害の治療にも将来的に結びつくことができると考えました。エピソード1)研究者を目指したきっかけ大学生の時に神経科学の研究に従事し、その奥深さに魅せられたためです。2)現在の専門分野に進んだ理由神経科学はとても複雑ですが、とても理路整然とした答えがあると思います。そこにたどり着くプロセスが困難でもあり、とても楽しいのが魅力です。3)この研究の将来性産後うつ病という、とても頻度は高いのですが、あまり注目されていない疾患があります。有効な治療薬も限られています。本研究は、新たな治療薬・治療法開発につながる研究だと思います。
Kyohei KIn, M.D., Ph.D.[分野:Tomorrow 2]Adolescent stress impairs postpartum social behavior via anterior insula-prelimbic pathway in mice思春期ストレスが産後社会行動を障害するメカニズムNature Communications, 23-May-2023概要母親の社会行動は、母親の健康面のみならず、子の適切な成長にも重要である。疫学研究では、思春期ストレス曝露が産後社会行動障害の危険因子とされているが、そのメカニズムは不明である。本研究では、独自に開発した動物モデルと光遺伝学、生体内カルシウムイメージングを用いてそのメカニズムを検討した。 単独では問題とならない隔離ストレスに暴露されたマウス(stressed dam)は、出産一週間後から新規マウスへの嗜好性が失われた。この社会行動異常の出現時期と一致して、anterior insula(AI)からprelimbic cortex(PrL)へ投射するグルタミン酸作動性ニューロンで形成される神経回路(以下、AI-PrL)の活動性も低下していた。 これらの結果から、AI-PrLは産後社会行動異常に関与していることが示唆された。AI-PrLはこれまで着目されたことがなく、その機能は不明である。そのため、光遺伝学と生体内カルシウムイメージングの技術を用いてその機能を検討した。 光遺伝学を用いた活動操作によって、AI-PrLは他のマウスの認識において重要な役割を担っていることが明らかになった。また、生体内カルシウムイメージングでPrLの活動性を評価し、AI-PrLが及す影響を評価した。AI-PrLは、PrLの中で、新規マウスに対して常に同じ活動パターンを示す神経細胞(stable neuron)に対してのみ影響を及ぼしていることが明らかになった。 また、stressed damは、出産直後から一週間コルチコステロン異常高値を示した。このコルチコステロン異常高値は、stressed damが社会行動異常を来す直前の期間に限局しており、その社会行動異常の原因となっている可能性が示唆された。この考えを検証するためにAI-PrL選択的にコルチコステロン受容体をノックアウトしたところ、stressed damの社会行動異常は見られなくなった。 以上の結果から、思春期ストレスは産後のコルチコステロン異常高値を惹起し、それによってAI-PrLの機能を障害し、その結果PrLのstable neuronの活動パターンが変化し、新規マウスの認識が困難になったため社会行動異常を来すことが明らかになった。本研究の結果は、思春期ストレス曝露によって生じる産後社会行動異常のメカニズム解明と、未知の神経回路であったAI-PrLの機能解明に寄与した。受賞者のコメントこの度はこのような素晴らしい論文賞を頂き、誠に光栄です。今回の受賞を励みにこれからも精進していきます。審査員のコメント岩澤 絵梨 先生:Adolescenceにsocial isolationを経験すると、出産1週間後から行動異常を示すという興味深いモデル(SILA)を用いて、AAVの注射により、Anterior insulaからPrelimbic cortexへ投射するGlutamatergic neuronがSILAでは減少すること、光遺伝学を用いてAI-PrLの出産後の社会行動異常への直接的役割を示し、そのきっかけとして出産直後にCorticosteroneの上昇が見られることからGlugocorticoid受容体をノックアウトすることで社会行動異常への直接的な関与を示しました。社会問題でもある産後うつ等への理解に重要な見解を与えると考えられます。綿密な行動試験と丁寧な実験が行われており、筆頭著者にとって留学後最初の論文でかつハイインパクトである重要な論文であると考えます。宮腰 誠 先生:思春期ストレスが産後の社会行動に与える影響を検討した動物実験。妊娠出産という女性特有のライフイベントの前後の期間のつながりを島と辺縁系の神経回路の活動の修飾を軸に説明する良い研究であり。女性の思春期(のアナログ)に焦点を当てた点を高く評価する。後藤 純 先生:産後社会行動を決定する、コルチコステロンの作動先、AI-PrL回路の役割を同定したという非常に画期的な論文であると評価いたしました。光遺伝子学や脳内カルシウムイメージングなど最先端の手法を用いて、AI-PrL回路に発現するコルチコステロン受容体が新規マウスの認識に関わるという新しい知見を生み出したことは、妊娠中および思春期ストレスがもたらす行動障害の治療にも将来的に結びつくことができると考えました。エピソード1)研究者を目指したきっかけ大学生の時に神経科学の研究に従事し、その奥深さに魅せられたためです。2)現在の専門分野に進んだ理由神経科学はとても複雑ですが、とても理路整然とした答えがあると思います。そこにたどり着くプロセスが困難でもあり、とても楽しいのが魅力です。3)この研究の将来性産後うつ病という、とても頻度は高いのですが、あまり注目されていない疾患があります。有効な治療薬も限られています。本研究は、新たな治療薬・治療法開発につながる研究だと思います。
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