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[特別賞]上村 麻衣子/京都大学

Maiko Uemura, M.D., Ph.D.

[分野:TeamWADA]
(レヴィ小体型認知症に合併するLATE病理の病理学的、臨床的、遺伝学的特徴)
Acta Neuropathologica, January 2022

概要
 Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy (LATE) はTDP-43凝集体の蓄積を特徴とし、高齢者の脳内で多く認める病理所見である。LATEはアルツハイマー病(AD)の他、パーキンソン病やレヴィ正体型認知症等に代表される「レヴィ小体病(LBD)」にも多く合併する。申請者らは、ペンシルベニア大学Center for Neurodegenerative Disease Researchに保存されている病理検体から、LATE-LBD (n=313)、LATE-AD (n=282)、LATE-LBD+AD (n=355)、LATE-Aging (n=111)の4つのコホートを抽出して病理学的解析を行い、さらにLATE-LBDコホートで認知機能やリスク遺伝子多型について検証した。

<人口統計学的解析>
LATEは全てのコホートで年齢と相関し、LATEの頻度はLATE-LBD+ADで最も高かった。またLATEの合併頻度はAD病理およびLBD病理と関連した。

<病理学的解析>
LATE-LBDとLATE-ADは、海馬でのTDP-43病理像および分布が異なり、LBD-LATEではTDP-43のC末端切断断片からなる神経突起病理を認めた。これら神経突起の一部は、LBDの特徴病理であるリン酸化α-シヌクレインと共局在していた。LATE-LBDとLATE-ADはTDP-43病理の脳全体への広がり方も異なり、我々は、その病理学的特徴からLATE-LBDの病期分類を行った(LATE-LBDステージ)。

<LATE-LBDの認知機能評価>
LATEは、LBDのサブタイプやAD病理とは独立して認知機能障害と関連していた。また、LATE-LBDステージが進むほど認知機能障害も悪くなった。

<LATE-LBDの遺伝子学的会解析>
ゲノム解析の結果、TMEM106B rs1990622およびGRN rs5848の遺伝子多型が、LATE-LBDの発症頻度およびLATE-LBDステージの程度と関連が強かった。

以上のように、本研究ではLATE-LBDの臨床病理学的および遺伝学的特徴を明らかにした。これらのデータは、LBDの病理病態の多様性を示しており、今後LBDの臨床試験の際は、このLBDの多様性を考慮して患者群をリクルートする必要性が示唆された。

受賞者のコメント
 この度は、特別賞を受賞する機会を頂き、大変光栄に存じます。お世話になった故John Q Trojanowski先生、Virginia Lee先生をはじめ、一緒に切磋琢磨して研究を進めてきた研究室の皆様、公私共に支えていただいた夫、そして毎日元気をくれていた子供達に深く感謝申し上げます。また、本企画を運営、審査していただいた先生方にも熱く御礼申し上げます。本受賞を励みに、これからも一層精進していきたいです。諸事情で帰国し、研究のセットアップもこれからという状況ではありますが、留学中に得た知識と経験と、そして人との繋がりを大切に、常に前を向いて進んでいきたいと思います。

審査員のコメント
太田 壮美 先生:
本研究はアルツハイマー病(A D)とレヴィ小体病(LBD)において、高齢者の神経組織変化として起こりうる病理所見Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy (LATE)に注目し、今まで未知であったLATE-ADと LATE-LBD形態学的相違やその分布の違いについて検討している。対象検体はヒト病理検体を用いコホート数およびクオリティにおいて高水準な領域にあると思われる。検証においてはLATE-LBD、LATE-AD、LATE-LBD+ADの各群間に客観的な有意差を示し、論理的に破綻のないLATE-LBDのステージングに成功している。またそのステージングは臨床症状の違いとの関連性とも総じて一致しており病理所見の特徴と臨床症状を関連付ける重要な結果であると考えられる。またLEDに関連すると思われる遺伝子の同定にも成功している。臨床において罹患予測や病態悪化のリスクアセスメントなど予後に直結する臨床応用への期待が高い将来の有益性の高い研究であると思われる。

北原大翔 先生:
本研究によりレヴィ小体病の病理病態の多様性が明らかになり、今後の臨床試験のプランニングに際して有用な情報を作り出した非常に有益な研究だと思います。

エピソード
 私と夫は、神経変性疾患のメッカとも言われている、ペンシルベニア大学の神経変性疾患研究センターへの留学を希望していました。以前からPI達と交流の深い先生から紹介していただいたのですが、世界的に有名な施設でしたので、申込みから1ヶ月以上待たされた後、「今はポストに空きがない」とう断りの返事を受け取りました。しかしながら、ここの研究室の人たちが普段どのような事を考えてこれまでの論文のような素晴らしい研究をしてきたのか、どうしてもこの目で見て、体験したかったので、一度自分たちに会って話を聞いてもらいたいと、再度メールしました。すると今度は会ってもらえる事になり、そのままフェローシップを獲ってその研究室へ留学することができました。
その折々のタイミングなど色々あったとは思いますが、最終的に受け入れてもらい、仲間達と共に研究することができ、この留学期間で得たことは私にとって大きな財産となりました。COVID-19のために1年間実験ができなかったりと、大変な事も多かったですが、空いた時間を使って別の手法を開拓したりと、全てが貴重な経験となったと確信しています。
一度は留学の受け入れを断られても、パンデミックで研究が頓挫しそうになっても、諦めずに、自分にできることを最後まで模索してきて良かったと思いました。

1)研究者を目指したきっかけ
医師として診療を行う中で、治療法のない症例を数多く担当し、患者さん達にそれを説明するのが辛い時期がありました。少しでも患者さん達にいい情報をお伝えできるよう、もっと病気の事を知りたいと思い、研究者を志しました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
人の考えや気持ちの源である脳に興味を持ちました。脳が周囲からの刺激を受けて、どのように反応し、人々特有の考えや行動を促しているのか、そして、精巧なネットワークで構成されている脳が、どのようなメカニズムで病気になっていくのかを知りたいと思いました。

3)この研究の将来性
 レヴィ小体病やアルツハイマー病などの神経変性疾患に対して、現在も様々な創薬開発が行われていますが、その殆どが臨床試験で有意な効果を確認できず、実用化まで至っていません。この理由の一つに、神経変性疾患は実に多様性があり、特定のターゲットでは治療効果が見えにくいということもあげられます。本研究のように、神経変性疾患の多様性やその特徴についての詳しい研究が進む事で、同じ疾患でもその特徴毎の診断治療につながり、臨床試験でもその創薬に対して適切な症例のリクルートが可能となります。それにより、必要な患者さんに適切な治療を届けられるようになると考えます。
また神経変性疾患は、本研究のように、多くの症例で複数の疾患が合併しています。それらの原因や相互作用を探る事で、新たな治療ターゲットを発見できる可能性があると考えています。
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