top of page
執筆者の写真Jo Kubota

[論文賞]吉本 哲也/インディアナ大学

更新日:2023年4月22日

Tetsuya Yoshimoto , Ph.D.

[分野:インディアナ]
(細菌感染時における骨細胞の新規機能の発見)
Nature Communications, November 2022

概要
宿主−細菌叢間の相互作用は、自然免疫系の活性化において基本的な役割を果たしており、その主体は好中球やマクロファージ等の自然免疫細胞が担う。この相互作用の制御異常が、免疫介在性疾患に広く関与する一方で、骨構成細胞と細菌との相互作用が、骨格や免疫細胞の活性化に及ぼす影響については十分に理解されていない。骨細胞は、骨基質に埋め込まれた最も豊富な骨構成細胞である。これまでに、細菌が骨細胞と直接相互作用する可能性が、in vitro実験から示唆されてきた。しかし、細菌病原体が生体内で骨細胞を直接刺激するかどうか、また、刺激するとすれば、骨細胞上のどの自然免疫受容体が細菌病原体関連分子パターン(PAMPs)に反応するために使用されるかは不明であった。さらに、骨細胞は外部からの刺激に応答して様々なサイトカインを産生することが報告されているが、骨細胞由来の炎症性メディエーターが骨の恒常性や免疫細胞の制御に与える影響については解明されていなかった。
本論文では、まず骨細胞が、自然免疫受容体であるToll-like receptor (TLR)またその下流にあるアダプター分子MYD88を発現することを見出した。そこで、骨細胞T L R/MYD88経路が、細菌感染時における骨破壊や炎症等の生体反応にどのように寄与するか検討を行った。
その結果、1) MYD88が骨細胞選択的に欠失されたマウスでは、PAMPs誘導性の骨破壊から完全に保護されること、2)逆に、骨細胞における選択的なMYD88の発現のみで、PAMPs誘導性骨溶解モデルにおける骨溶解と炎症を引き起こすことができること、3) さらに、 in vitro実験から、TLR2およびTLR4アゴニストで刺激された骨細胞は、その前駆細胞である骨芽細胞よりも大きくRANKL (破骨細胞形成に必須のサイトカイン)を発現する能力を有すること、4) MYD88 経路を介したRANKLの発現には、転写因子であるCREB と STAT3 の活性化と安定性が重要であり、そして、これらCREB と STAT3の安定性向上には、それぞれ E3 ユビキチンリガーゼ FBXL19 と PDLIM2 が関与するという新規分子機構を見出した。4) また、MYD88阻害剤の投与により、歯周病モデルマウスの歯槽骨量減少が抑制されることを明らかにした。
これらの知見は、骨細胞がこれまでに知られていなかった骨における重要な細菌センサーであり、骨感染において自然免疫系MYD88シグナルをRANKL制御機構に統合することで骨溶解を直接制御していることを明らかにした。このように、本研究は骨格系における骨細胞MYD88経路の機能を明らかにし、骨細胞におけるMYD88および下流のRANKL制御分子を標的とした、感染性骨溶解の新しい治療法を開発するための遺伝的基盤を提供するものである。

受賞者のコメント
この度はこのような映えあるUJA論文賞の受賞を大変光栄に思っております。PIであった植木靖好先生また橘高瑞穂先生にはこの場をお借りしまして特に感謝を申し上げます。また、本論文に尽力して下さった全ての先生方にもお礼を申し上げたいと思います。加えて、Indytomorrow日本人研究会の会員の皆様には様々な面でのサポートをして頂き、仕事の面以外でも充実した生活を過ごすことが出来ました。米国で勤務した経験、知識を活かしながら、これからは広島大学病院にて臨床歯科医師として勤務して参ります。UJA論文賞で頂いたのでご縁を大事にしていきながら、様々な成果を世界に発信していきたいと思っております。今後とも宜しくお願い致します。

審査員のコメント
今崎剛 先生:
骨細胞におけるMYD88-RANKL パスウェイのメカニズムを膨大な実験によって証明した非常に評価されるべき仕事です。とくに分子機構に迫るための実験で様々な因子について調べており、感銘を受けました。今後は可能であれば single cell 解析の様な手法も取り入れて、さらに深い分子機構の解明をできることを期待しています。

加藤明彦 先生:
Drs. Yoshimoto et al discovered the molecular mechanism how the bacterial flora affects the bone remodeling, which is critical for the understanding the pathogenesis of osteolysis, such as periodontitis and osteomyelitis. The authors found that MYD88, the adaptor protein playing the major roles in innate immune signaling, is essential for the oral-bacterial-induced bone resorption using a conditional MYD88-KO mouse line, a targeted rescue experiment and a MYD88 antagonist. Next, they described the induction of RANKL, which is critical for the osteoclast differentiation leading to bone remodeling, was mediated by MYD88 through ERK, CREB and STAT3 pathway using a variety of selective inhibitors. They also found that RANKL induction is mediated by the stabilization of the transcription factors STAT3 and CREB / CBP via ubiquitination suppression. This study is an entire story describing the comprehensive molecular mechanism from the bacterial pathogen receptors to the cytokine production for pathological osteolysis.

エピソード
様々なご縁があり、本論文を掲載することが出来ました。明確な事実をもとに論理的思考を付け加えながら進めていくことがサイエンスでありますが、米国での勤務経験を通してそれ以上にヒトとヒトとのご縁が大事だなと強く感じています。コロナ禍も終息に向かいつつある中、研究分野以外でも様々な分野でぜひ交流を深めてください。今本気で行っていることは必ず将来に役立ちます。ちなみに私は学生時代から真剣に続けていた卓球を米国でもクラブチームに入り、いくつかの州大会で優勝することができました。研究者以外と交流するのも非常に刺激的です、留学された際は大いに人生を楽しまれてください!

1)研究者を目指したきっかけ
現在の歯科医療は9割が外科処置になります。将来、検査あるいは薬学的アプローチから歯科医療を変えたいと思い、研究者を目指しました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
歯周病という歯を支える周りの骨が溶けるという病気に興味があったからです。

3)この研究の将来性
将来、歯周病という疾患に検査あるいは薬学的側面からアプローチに役立つ可能性があると考えています。
閲覧数:564回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page