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[論文賞]山口 直哉/ケンブリッジ大学

更新日:2023年4月22日

Naoya Yamaguchi, Ph.D.

[分野:整形外科]
(生体内で組織が運動するための力を可視化)
Nature Cell Biology, 14 February 2022

概要
細胞や組織が運動することは胚発生、免疫反応、創傷治癒などに重要な他、がん細胞の転移などにも関係している生命を成り立たせる基本的な現象である。細胞や組織がどのように外部と相互作用し、力学的な力を発生させ、自らを前進させるのかというメカニズムは盛んに研究されてきたものの、その多くは培養細胞を用いた人工的な系であった。そのため、実際に細胞や組織が生き物の体の中をどのように動いているのかということはあまり研究が進んでいない。今回著者らは小型魚類ゼブラフィッシュの側腺をモデルに、胚発生時に組織がどのように力学的な力を発生させて運動しているのかを明らかにした。まず培養細胞で得られたいくつかの重要な知見が生体内の組織の運動でも同様であることを遺伝学とライブイメージングを駆使して確認した。 さらに著者らは、生体内で組織がどれほどの力学的な力を発生させて運動しているのか計測する新たな方法を開発し、組織のどの部分がどれほどの力を発生させているのか明らかにした。側腺組織は基底膜と呼ばれる細胞外マトリクスの薄い層を足場としてその上を運動する。著者らは基底膜を蛍光標識するゼブラフィッシュを自作し、その光るカーペット状の層に対して、 蛍光褪色法を用いて格子状のパターンを描いた。側腺組織が運動する際の格子状パターンの変化を計測し、その情報をもとに側腺組織が基底膜に対して発生させる力を再構成した。その結果、側腺は組織の後方部分でより大きな力を発生させていることが明らかになり、組織の前方は探査と方向の決定、組織の後方が力を発生させ組織全体の運動に関わるのではないかというモデルが示唆された。生体内において組織や細胞が細胞外マトリクスに対して発生させる力の可視化と計測はこれが初めてであり、これは細胞運動を考える上で、培養細胞と生体を橋渡しする研究成果である。また、組織の後方が運動に貢献しているのではないかという新しいモデルは創傷治癒時の細胞運動やがん細胞の集団転移現象を考える上で参考になるはずである。

受賞者のコメント
私の博士課程の仕事にこのような賞を頂けましたこと大変光栄に思います。私の共同研究者や特に当時のボスのHolgerに感謝しています。

審査員のコメント
大鶴 聰 先生:
細胞や組織がどのように動力を確保し、生体内でどのように動くのかを明らかにした非常に意義深い論文です。植物とことなり、動物でどのように細胞、組織が動くかを明らかにすることは生命科学として非常に重要で興味深い内容です。さらにその動きを可視化させることで価値を高めている。生命科学としての価値は疑いの余地はないのですが、内容的に整形外科分野が審査の対象として妥当かは議論の余地があるかもしれません。

田中 栄先生 先生:
ゼブラフィッシュをモデルとして用いて、発生段階で後側線原基の移動メカニズムを検討し、talinおよびintegrinが重要な役割を果たすこと、また原基の後​​部が最も高い応力を示す、すなわち後ずさりするような形で移動するという予想外の興味深い結果をin vivo明らかにしたという点で画期的な成果である。

エピソード
この仕事は私がニューヨーク大学の博士学生として取り組んだものです。ほとんどの遺伝子組換えゼブラフィッシュの系統を自作したので、最初の数年はデータと呼べるものはほとんどありませんでした。プロジェクトの転機となった二つの出来事があります。一つ目は、Laminin-g1をsfGFPでラベルしたBAC遺伝子組換え体が得られ、それが美しかったこと。二つ目は、共同研究者が興味を示してくれ、画像解析方法の確立と力の計算に全面的に協力してくれたことでした。特に二つ目は大学院の後半の出来事で、その部分を諦めて小さな論文としてまとめディフェンスするのか、大きな仕事になりそうな期待に賭けて粘るのか、悩みどころでした。結果として、その期待に賭けてみて良かったと思います。

1)研究者を目指したきっかけ
幼少の頃に自然の中で遊ばせてもらった経験、高校と大学学部・修士・博士と素晴らしい恩師たちとの出会い

2)現在の専門分野に進んだ理由
細胞が何かするのを顕微鏡下で見るのが好きだからです。学部・修士課程では培養細胞を使用し、博士課程ではゼブラフィッシュを使って発生時の細胞運動を研究しました。現在、ポスドクとして再びゼブラフィッシュを使用して結核感染時の細胞挙動の研究をしています。

3)この研究の将来性
発生や創傷治癒、がんの浸潤の基本的な理解に貢献するかもしれません。
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