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執筆者の写真Jo Kubota

[論文賞]渡邊 雄一郎/京都大学

更新日:2023年5月1日

Watanabe, Yuichiro, Ph.D.

[分野:化学・工学]
(遠隔立体制御による固体青色発光性銅クラスター錯体の開発)
Journal of the American Chemical Society, May 2022

概要
有機ELに代表される光エレクトロニクスデバイスは、「薄い・軽い・面状自発光・透明化フレキシブル化が可能」等の従来の発光デバイスに無い際立った特徴を有し、我々の暮らしの中に浸透しつつある。しかしながら、光の三原色のうち青色発光を示す材料の開発は大幅に遅れており、20年以上の間、最も重要な課題となっている。これまで、白金やイリジウムなどの貴金属を用いた高性能青色リン光錯体が報告されているが、その色純度を高めることは困難であった。また、固体中にて錯体同士が凝集し、著しい効率低下を引き起こす問題があった。材料工学の視点から、固体状態で高い発光量子効率を示す新規青色発光材料の開発が求められている。

受賞者のコメント
この度は、UJA paper Awardという栄誉ある賞を授与していただき誠にありがとうございます。とても嬉しいです!高校生時から博士号取得まで手厚くご指導いただいた山形大学城戸淳二先生・研究室の皆様、米国Purdue Universityにてメンターとしてご指導いただいたAlexander Wei先生・グループメンバー、各方面から強力にサポートして下さった共同研究者の方々には感謝してもしきれません。また、日本学術振興会(JSPS)・村田学術振興財団の助成がなければ、米国にて研究を遂行することはできませんでした、厚く御礼申し上げます。そして、最後になりますが、論文を評価してくださった審査員・UJA運営委員の先生方に、この場をお借りして御礼申し上げます。この受賞を励みにして、引き続き京都大学にて研究に邁進していきます!

審査員のコメント
庄司観 先生:
本論文では、有機ELへの応用が可能な青色発光材料のデザインストラテジーを報告している。本論文は、決勝解析およびシミュレーションを用いて、発光現象のメカニズムを緻密に調査しておりハイレベルな研究であることがうかがえる。また、今回の研究成果が今後の有機EL技術の発展に大きく貢献できる可能性がある。化学分野で最高峰の論文誌であるJACSのカバーとしても採択されている。

内田昌樹 先生:
新規な発光デバイスを作製する上で、効率の優れた青色領域の有機発光素子の開発が求められています。本論文は次の3点で大変興味深い成果を挙げていると考えます。1)豊富な金属資源である銅を用いた有機金属錯体によって、高効率の青色発光素子の開発に成功した。2)配位子のpyrazolate分子中の金属中心から離れた部位の炭素に種々の置換基を導入することにより、発光波長を100nm以上シフトさせられることを示した。3)X線構造解析などの実験データと、コンピュテーショナルモデルを組み合わせることにより、発光波長がシフトするメカニズムを明らかにした。

エピソード
本研究のきっかけは、コロナのパンデミックにあります。Purdue大学は約3ヶ月間閉鎖されることになりました。色々やってみるけれど空回りする日々。このタイミングでラボに入れないのは一体どうしたものか。。。と考えていたところでした。しかし、このロックダウン期間に、立ち止まってデータとじっくり向き合うことができました。親友でありラボメイトのBenjaminとビデオ通話をしながら、あーでもないこーでもないと話し合い、研究構想を練りました。今までやったことがない研究領域でしたが、「コロナ期間」にじっくりと考えることができたおかげで、えいや!と飛び込む準備ができました。
研究構想をAlexander Wei教授へプレゼンテーションをしたところ「面白そうだ。けれど、研究グループで進めているプロジェクトとは毛色が異なる。YuichiroがプロジェクトをリードしてBenと一緒に進めてみたらどうか?私は助手席で見守っている。そっちの方が進むこともあるかもしれない!」とコメントを頂きました。本来、ポスドクというのは、教授の研究プロジェクトを推進する研究に携わることがほとんどと思います。Alex先生は常にフェアで、アイデアを尊重して強力にサポートをして下さり、自身で生み出したアイデアに基づく研究を遂行することができました。
Purdue大学化学科のLecturerのポジションをいただき、講義をしながら研究に従事する貴重な機会をいただきました。ありがたいことに、村田学術振興財団より研究費も頂くことができ、研究を大加速することができました。このように周りの方々の厚い・熱いサポートと幸運に恵まれて、研究を続けることができました。感謝してもしきれません!この経験は、研究能力を将来に渡り発展させる貴重な機会となりました。

1)研究者を目指したきっかけ
子どもの頃から、モノづくりが趣味で、その時の好奇心が自然と研究者への道へ繋がったと思います(今振り返ってみると。当時は考えていませんでしたが)。恐竜の模型を粘土で作ったり、スライム、ミョウバンの結晶を育てたりなど、たくさんのことを経験しました。昆虫採集、化石掘りといった自然と触れ合うことも大好きでした。化学や物理が得意だったわけでは決して無いのですが、手を動かしてモノを作ることが大好きな少年でした!そこで、実験のカリキュラムが多く組まれている東工大附属科学技術高校へ進学しました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
 きっかけは、高校生時に参加した体験型のプログラムにあります。東工大附属高校は、「科学・技術について広い視点から見ることができる生徒を育てる・興味に合わせて6分野に分かれるカリキュラム」になっていました。「材料科学・環境科学・バイオ技術分野(応用化学分野)」に進み、実際に実験や経験を通して、学ぶ最高の機会を得ました。  さらに、高校2年生の冬、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)のサイエンスキャンプに参加し、山形大学米沢キャンパスの城戸淳二研究室で「有機EL」の研究に触れる機会を得ました。漠然と研究者に憧れていた渡邊少年は、「未来に向けて、有機のあかりで世界を照らす・そのための材料をつくり、世界を変える」というビジョンに惹かれ、山形大学にて有機エレクトロニクスの分野へ飛び込むことを決めました(参考資料1・2)。そして、えいや!とハカセの道へ…。 参考資料1.朝日新聞AERA「柿崎明子, ドイツ、中国、アメリカ…世界の研究者が山形県・米沢市に集う理由(城戸淳二研究室、渡邊雄一郎), 2018」https://dot.asahi.com/aera/2018041700044.html?page=1 参考資料2.東工大附属高校の教育後援会だより「渡邊雄一郎, 好奇心旺盛に、ユニークなかけがえのない存在に!, 2023」https://tokodaihuzoku-koenkai.jp/news/vol24/

3)この研究の将来性
 この研究では、分子の発光色を精密に制御するための新しいコンセプト「錯体の剛直性による発光色の制御」を提案しています。今まで困難であった青色に光る「銅多核錯体」の分子設計を提案・開発することができました。このコンセプトは、有機エレクトロニクス材料の設計に役立つと考えています。

 一般に発光性分子の開発では、分子軌道の電子的な変調を行うことが主流です。一方で、本研究では、分子の剛直性や立体的な「かたち」の制御に着目していることが面白いところです。分子の「かたち」は多様であり、精密に設計することが可能です。将来的には、機能性分子化学や錯体化学などの分野に波及する重要な成果となりうると信じています。教科書の1ページで紹介されるような研究へと発展させていきたいと思います!

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