Aki IIO-OGAWA4月8日読了時間: 5分[特別賞]久保 進太郎/東京大学Shintaroh Kubo, Ph.D.[分野:Tomorrow 3]Native doublet microtubules from Tetrahymena thermophila reveal the importance of outer junction proteins低温電子顕微鏡と機械学習による包括的繊毛構造の同定Nature Communications, 15-April-2023概要鞭毛や繊毛は真核生物の小器官の一つであり、細胞運動と感覚機能を担う。精子の尻尾のような部分が鞭毛・繊毛の例として挙げられる。鞭毛・繊毛の構造欠損は、精子であれば遊泳能力の欠如に繋がり、不妊の原因になりうる。その他にも小頭症、骨形成不全、網膜症、内臓逆位など様々な組織や臓器の形成不全を引き起こす。これまでの研究から、この毛の内部構造は2本のシングレット微小管(sMT)とそれを囲むように配置された9本のダブレット微小管(dMT)から構成されることが判明していた。近年、高分解能の撮影が可能になった低温電子顕微鏡(cryo-EM)を用いて、MTの内腔には微小管内結合タンパク質(MIP)が多数存在し、これらが複雑なネットワークを構築することでMTそのものの力学特性を制御していることが明らかになった。しかし、ほとんどのMIPは存在している事は確認されたものの、詳細な構造や機能は未知のままであった。本研究において、我々はTetrahymena thermophilaのnative dMT構造をcryo-EMによって獲得した。機械学習を介した解析を用いる事で、従来は存在する箇所が分かっているものの、その詳細な構造情報が決定できなかった42種のMIPを新規に同定した。加えて、MTがシングレットではなく、ダブレットを形成するために必要なMIP:CFAP77を同定した。生化学実験と分子動力学計算による理論研究の両面からCFAP77がどのようにしてダブレット状態を安定化させているのかを解析し、さらにそのノックアウトがテトラヒメナの遊泳速度や拍動頻度を減少させることまで確認することが出来た。本研究から、機械学習と構造研究の組み合わせの有用性を示すと共に、鞭毛・繊毛運動の運動能力を強く制御するタンパク質の発見は様々な繊毛・鞭毛の構造欠損に由来する病気の治療法に繋がる見込みがある。受賞者のコメント特別賞に選んでいただき光栄に思います。審査員の方々、論文の共著者のみなさまにこの場をかりて感謝申し上げます。審査員のコメント武部 貴則 先生:クライオ電顕から読み取った構造情報をもとに、機械学習を組み合わせて微小官をペアリングする新規分子CFAP77を同定した仕事である。近年、研究が盛んになっている繊毛・鞭毛という微小器官を対象にユニークなモデル生物を用いて研究を進め、CFAP77ノックアウトによってciliopathiesの疾患にもRelevantな表現型をきたすことを示している。分子構造の解析と機械学習を組み合わせる手法の面白さに加えて、Ciliaに関するバイオロジーを推し進めるための重要な発見である。中村 能久 先生:心臓は、胎児期から新生児期への移行中に顕著な発達変化を誘導するが、これには、心筋細胞のエネルギー代謝と収縮機能の成熟が含まる。申請者らは、2020年に、エストロゲン関連の受容体(ERR)αおよびγが、心臓の成熟の調節因子として機能することを示している。この論文では、ヒト誘導多能性幹細胞由来心筋細胞(HIPSC-CM)を用いて、ERRの機能を分子生物学的・細胞生物学手法により解析し、ERRが心筋細胞分化中のミトコンドリアや心臓特異的収縮プロセスに関与する遺伝子の誘導し、心筋細胞の成熟を制御する機構を示している。この論文では、ERRは、心原性因子であるGATA4との遺伝子発現調整の新規機構を見出している点も特筆すべき点である。ERRが心筋細胞のエネルギー代謝と収縮機能の成熟を制御する機構を明らかにした重要な論文である。小藤 智史 先生:本論文は、線毛の構造およびその形成に関与する因子について、クライオ電顕や機械学習などを用いて解析している。線毛は細胞運動だけでなく、その形成不全が小頭症や囊胞性腎疾患などにつながるため、研究が盛んに行われている。本研究では、その線毛を構成する微小管に結合するタンパク質の同定とその機能の解析を行っており、本研究結果は、線毛の不全で引き起こされる様々な疾患の治療法の確立につながる可能性を秘めている。湯川 将之 先生:テトラヒメナの繊毛構造とその運動性能をクライオ電子顕微鏡とAI技術を用いて、明らかにした研究。これまでに構造が明らかとなっていなかった繊毛の成分タンパク質の構造を42種類も決定し、それにより全体像を明らかにすることができました。この研究から得られた技術は、テトラヒメナだけでなく、他の鞭毛や繊毛を持つ細胞にも応用可能であり、幅広い汎用性が期待されます。例えば、精子の運動能の低下など不妊症の原因解明に貢献する可能性があります。そのため、様々な分野の研究者から関心を集める論文になると予想されます。また、本論文は本研究技術の鞭毛・繊毛の構造解析が工学とバイオミメティクス分野にも役立つのではないか?など読み手の想像を刺激する興味深いものとなっています。エピソード1)研究者を目指したきっかけなんとなく面白そうだったから。2)現在の専門分野に進んだ理由生物の体内にマイクロメートルオーダーの大きさで羽車があったり、バネが付いていたり、日常で目にする道具・工具と似た形・似た機能のタンパク質が存在することを知り、自分でそれを改良したいと思ったため。3)この研究の将来性蓮の葉の表面構造から優れた撥水加工技術が生まれたように、生物の持つ「かたち」は新しいエネルギー源や医薬品の開発の取っ掛かりになるかもしれません。
Shintaroh Kubo, Ph.D.[分野:Tomorrow 3]Native doublet microtubules from Tetrahymena thermophila reveal the importance of outer junction proteins低温電子顕微鏡と機械学習による包括的繊毛構造の同定Nature Communications, 15-April-2023概要鞭毛や繊毛は真核生物の小器官の一つであり、細胞運動と感覚機能を担う。精子の尻尾のような部分が鞭毛・繊毛の例として挙げられる。鞭毛・繊毛の構造欠損は、精子であれば遊泳能力の欠如に繋がり、不妊の原因になりうる。その他にも小頭症、骨形成不全、網膜症、内臓逆位など様々な組織や臓器の形成不全を引き起こす。これまでの研究から、この毛の内部構造は2本のシングレット微小管(sMT)とそれを囲むように配置された9本のダブレット微小管(dMT)から構成されることが判明していた。近年、高分解能の撮影が可能になった低温電子顕微鏡(cryo-EM)を用いて、MTの内腔には微小管内結合タンパク質(MIP)が多数存在し、これらが複雑なネットワークを構築することでMTそのものの力学特性を制御していることが明らかになった。しかし、ほとんどのMIPは存在している事は確認されたものの、詳細な構造や機能は未知のままであった。本研究において、我々はTetrahymena thermophilaのnative dMT構造をcryo-EMによって獲得した。機械学習を介した解析を用いる事で、従来は存在する箇所が分かっているものの、その詳細な構造情報が決定できなかった42種のMIPを新規に同定した。加えて、MTがシングレットではなく、ダブレットを形成するために必要なMIP:CFAP77を同定した。生化学実験と分子動力学計算による理論研究の両面からCFAP77がどのようにしてダブレット状態を安定化させているのかを解析し、さらにそのノックアウトがテトラヒメナの遊泳速度や拍動頻度を減少させることまで確認することが出来た。本研究から、機械学習と構造研究の組み合わせの有用性を示すと共に、鞭毛・繊毛運動の運動能力を強く制御するタンパク質の発見は様々な繊毛・鞭毛の構造欠損に由来する病気の治療法に繋がる見込みがある。受賞者のコメント特別賞に選んでいただき光栄に思います。審査員の方々、論文の共著者のみなさまにこの場をかりて感謝申し上げます。審査員のコメント武部 貴則 先生:クライオ電顕から読み取った構造情報をもとに、機械学習を組み合わせて微小官をペアリングする新規分子CFAP77を同定した仕事である。近年、研究が盛んになっている繊毛・鞭毛という微小器官を対象にユニークなモデル生物を用いて研究を進め、CFAP77ノックアウトによってciliopathiesの疾患にもRelevantな表現型をきたすことを示している。分子構造の解析と機械学習を組み合わせる手法の面白さに加えて、Ciliaに関するバイオロジーを推し進めるための重要な発見である。中村 能久 先生:心臓は、胎児期から新生児期への移行中に顕著な発達変化を誘導するが、これには、心筋細胞のエネルギー代謝と収縮機能の成熟が含まる。申請者らは、2020年に、エストロゲン関連の受容体(ERR)αおよびγが、心臓の成熟の調節因子として機能することを示している。この論文では、ヒト誘導多能性幹細胞由来心筋細胞(HIPSC-CM)を用いて、ERRの機能を分子生物学的・細胞生物学手法により解析し、ERRが心筋細胞分化中のミトコンドリアや心臓特異的収縮プロセスに関与する遺伝子の誘導し、心筋細胞の成熟を制御する機構を示している。この論文では、ERRは、心原性因子であるGATA4との遺伝子発現調整の新規機構を見出している点も特筆すべき点である。ERRが心筋細胞のエネルギー代謝と収縮機能の成熟を制御する機構を明らかにした重要な論文である。小藤 智史 先生:本論文は、線毛の構造およびその形成に関与する因子について、クライオ電顕や機械学習などを用いて解析している。線毛は細胞運動だけでなく、その形成不全が小頭症や囊胞性腎疾患などにつながるため、研究が盛んに行われている。本研究では、その線毛を構成する微小管に結合するタンパク質の同定とその機能の解析を行っており、本研究結果は、線毛の不全で引き起こされる様々な疾患の治療法の確立につながる可能性を秘めている。湯川 将之 先生:テトラヒメナの繊毛構造とその運動性能をクライオ電子顕微鏡とAI技術を用いて、明らかにした研究。これまでに構造が明らかとなっていなかった繊毛の成分タンパク質の構造を42種類も決定し、それにより全体像を明らかにすることができました。この研究から得られた技術は、テトラヒメナだけでなく、他の鞭毛や繊毛を持つ細胞にも応用可能であり、幅広い汎用性が期待されます。例えば、精子の運動能の低下など不妊症の原因解明に貢献する可能性があります。そのため、様々な分野の研究者から関心を集める論文になると予想されます。また、本論文は本研究技術の鞭毛・繊毛の構造解析が工学とバイオミメティクス分野にも役立つのではないか?など読み手の想像を刺激する興味深いものとなっています。エピソード1)研究者を目指したきっかけなんとなく面白そうだったから。2)現在の専門分野に進んだ理由生物の体内にマイクロメートルオーダーの大きさで羽車があったり、バネが付いていたり、日常で目にする道具・工具と似た形・似た機能のタンパク質が存在することを知り、自分でそれを改良したいと思ったため。3)この研究の将来性蓮の葉の表面構造から優れた撥水加工技術が生まれたように、生物の持つ「かたち」は新しいエネルギー源や医薬品の開発の取っ掛かりになるかもしれません。
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