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[特別賞]二宮 一茂/Benaroya Research Institute

更新日:4月8日

Kazushige Obata-Ninomiya, Ph.D.
[分野:免疫アレルギー]
(大腸癌における新規Tregサブセットの発見)
Science Translational Medicine, 01-May-2022

概要
大腸癌は男女とも世界的に癌の死因の第2位に入る深刻な癌の一つである。癌を根治するには早期発見、早期治療が欠かせないが、大腸癌の診断として検討されている便潜血、遺伝情報およびエピジェネティクス、ミトコンドリアDNAなどはいずれも疫学的に大腸癌を減少させる効果がない。また、唯一疫学的に大腸癌の発症の抑制効果のある内視鏡法は簡便性や被験者へのダメージなど課題が多い。さらに、大腸癌の治療は主に手術が行われるが術後のQOLに問題がある上に、代替となる治療薬として近年着目されている免疫チェックポイント阻害剤も全大腸癌患者の4%程度にしか適用がない。大腸癌の罹患率や死亡率の改善にはより良い簡便な診断法と治療法の確立が必須である。また、癌の制御にはTregのコントロールが非常に重要であることが明らかとなっているが、Tregによる抗腫瘍免疫の制御の分子メカニズムは十分に明らかになっていなかった。
Science Translational Medicineの論文では、我々はヒトおよびマウスの大腸癌特異的に出現する新規の制御性T細胞(Treg)サブセット、TSLPR+ST2+Tregを発見した。この細胞は大腸癌の患者のみで検出されることから、診断法として非常に有用である。この細胞はヒトおよびマウス両方で大腸癌の増殖を促進し、予後の悪化に重要であることが明らかとなった。マウスモデルでこの細胞さらに、転写因子の解析から、ヒトおよびマウスのこの細胞特異的に発現するマスター転写因子MEF2Cを発見し、細胞の分化ならびに機能制御のメカニズムを明らかにした。これらの知見から、TSLPR+ST2+Tregをターゲットとした全ての大腸癌患者に適用できる新規治療法が開発できる可能性がある。
さらに、JEMの論文では、Tregの新しい抑制機構として転写機構には影響を与えずに、タンパク翻訳阻害することでエフェクターT細胞の機能を抑制することを見出した。Tregによるタンパク翻訳阻害は24時間以内に起こり、これまで知られていた細胞の増殖抑制の前に起こる最も重要な現象である。タンパク翻訳阻害機構は、これまでにTregが持っていることが明らかになっている制御機構のうち、IL-2の阻害や細胞同士の結合を介したCTLA-4などを使った方法ではなく、IL-10およびTGF-bを産生することで、エフェクター細胞側のmTORCシグナルを抑制し、タンパク翻訳を直接阻害していることを明らかにした。

受賞者のコメント
審査員の皆様に熱く御礼申し上げます。研究にサンプルを提供していただいたドナーの皆様、共同研究者、研究にご協力いただきました研究所ならびに研究室の同僚の皆様、研究室ヘッドのSteven F. Ziegler博士のご支援に深謝致します。

審査員のコメント
森田 英明 先生:
動物モデルを用いて、緻密な解析により大腸癌におけるTSLPの関与の詳細を明らかにすると共に、臨床応用を目指した抗TSLP抗体を用いた効果の検討も行っている。さらに患者検体を用いた解析でもTSLPR+ST2+Tregが病態形成に関与している可能性を示している。本トランスレーショナルリサーチの成果により、TSLPおよびTSLPR+ST2+Tregを標的とした大腸癌治療法の開発につながる可能性がある。

神尾 敬子 先生:
マウスモデルを用いてTSLPR+ST2+Tregが大腸がんの増殖促進効果とそのメカニズム、抗TSLP抗体の大腸がん縮小効果を証明しています。また末梢血TSLPR+ST2+Tregが大腸がん患者特異的に上昇していることも示しており、腫瘍マーカーや大腸がん特異的標治療的としての臨床的応用が期待できます。

足立 剛也 先生:
本報告は、大腸癌の腫瘍部に増加する制御性T細胞のサブセットが受容体を発現するTSLPに着目した研究である。ヒト検体およびマウスモデルを用いて、大腸癌の増殖と予後の悪化に、同細胞サブセットが重要であること、TSLP特異的モノクローナル抗体が腫瘍進行の抑制に有効であることを明らかにした。このように基礎研究の成果を臨床の現場に届ける本トランスレーショナル研究の成果は、男女とも癌の死因の第2位に入る大腸癌を患う方々の診断、予後予測、新規治療に寄与するものであり、高く評価される。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
アレルギーの勉強会の懇親会でお会いした先生(後の大学院の上司)が本当に楽しそうに研究のことをお話されているのを見て研究に興味がわいたのが始まりです。また、その先生のお考えや話し方がとても論理的で分かりやすく、私自身その先生のように臨床と研究を遂行できる修練を積みたいと思ったことが研究を志したきっかけです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
アレルギーを専門にしたきっかけは、家族が重度のアレルギー疾患を患っていて、慢性的に苦しんでいるようすを近くでみていたことから、少しでもその家族や同じような苦しみを抱えている方の生活の改善に貢献したいと思ったのが理由です。留学では末梢感覚神経による免疫の制御について研究していましたが、この研究を志したのは、米国での上司となったBrian Kim先生の論文を読んだときに今まで考えたことのない内容であることに加えて、文章がすごくわかりやすかったことに衝撃を受け、この先生のもとで研究を学びたいと思ったことがきっかけです。

3)この研究の将来性
これまでのアレルギー治療は、主に免疫細胞の働きを抑えるという方法が主体でした。一方で、本研究がきっかけとなり、今後は免疫細胞の働きを制御する感覚神経を治療標的にしたり、免疫細胞と感覚神経を個別に標的にした創薬が推進されることに繋がりますと幸いです。

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