top of page

[特別賞]佐藤有紀/メイヨークリニック

Yuki Sato, M.D., Ph.D.

[分野:免疫アレルギー]


論文リンク


論文タイトル

Stem-like CD4+ T cells in perivascular tertiary lymphoid structures sustain autoimmune vasculitis


掲載雑誌名

Science Translational Medicine


論文内容

研究の背景と目的

自己免疫性疾患は組織特異的な慢性炎症と自己寛容機構の破綻で特徴づけられるが、どのような機序で臓器特異的な炎症が長年持続するのか、その病態メカニズムは不明であった。巨細胞性動脈炎(GCA:Giant Cell Arteritis)は高齢者に発症する大血管を標的とした自己免疫疾患である。GCAは失明や脳梗塞など重篤な合併症を引き起こし、既存の免疫抑制剤による治療効果も不十分であることが知られている。申請者はGCAを題材に上記課題の解明に取り組んだ。


具体的な方法と結果

まずGCAの病変で起きている現象を理解する目的で、Mayo Clinicで外科的切除された上行大動脈瘤症例から病理学的にGCA Aortitisと診断された22症例およびMarfan症候群などその他の基礎疾患を背景に同じく上行大動脈瘤を発症した20症例の計42症例のコホートを対象として、詳細な病理解析とbulk RNA-seqによる解析を施行した。GCA Aortitis症例では全症例において外膜の血管周囲に異所性リンパ組織である三次リンパ組織(TLS:Tertiary lymphoid structure)が誘導されていることを見出した。bulk RNA-seqを用いたCIBERSORT analysisでは予想外なことに血管炎組織に存在するT細胞の多くはresting stateで存在していることが明らかとなった。


次にGCA患者検体を用いて血管炎のヒト化マウスを作成、外膜領域からCD4 T細胞を単離してscRNAseq/scTCRseqを施行しtrajectory analysisと共にCD4 T細胞の分化を追跡したところ、血管炎組織には組織自律性をもたらすstem-like CD4 T cellが存在することが明らかとなった。stem-like CD4 T cellsは転写因子TCF1を高発現し、TCR刺激に応じて自己複製すると共にTCF1発現の低い2種類のエフェクターCD4 T細胞、EOMES+細胞障害性T細胞とBCL6+濾胞状T細胞へと分化する。ヒト大動脈炎組織にもこれらのT細胞は存在し、TCF1hiCD4+ T cellsは主に大動脈の外膜に存在するTLS内に存在し、TCF1発現の低いT細胞は主にTLS外部に分布していた。最後にヒト化マウスを用いてTCF1hiT cellのloss of function studyを施行し血管炎の維持にTCF1hiT cellが必要であることを確認した。以上の結果からTCF1hiCD4+ T細胞はTLSをニッシェとする疾患幹細胞として機能し、自己複製しながら持続的にeffector T細胞を供給することで血管特異的な炎症を維持する役割を担うことが明らかとなった。本結果は自己免疫疾患の根治には現行治療で標的としているエフェクター細胞のみならず、stem-like CD4+T細胞あるいはそのニッシェを標的とすることが必要であることを示している。




受賞者のコメント

この度はこのような賞を頂き誠にありがとうございます。こうした形でこれまで取り組んできた研究を評価頂き大変嬉しく思っております。本研究を支援頂きましたCornelia M Weyand教授・Jorg Goronzy教授とその研究チーム、同じくMayo Clinicで日々助け合い励まし合っている日本人の先生方、そしていつも身近で自分を支えてくれている家族に心より感謝申し上げます。そしてお忙しい中本賞の企画や審査に携わられた先生方に深謝申し上げます。

審査員コメント


小野寺 淳 先生

自己免疫疾患はSLEのように若い女性にみられるものが多いのですが、加齢と関係するGCAを研究することで、他の加齢疾患と共通した分子基盤の解明に結びつくことが期待できると思います。2次リンパ組織でなく、3次リンパ組織その中でも粘膜組織でなく大動脈に着目した点は非常にユニークだと思います。患者検体の解析からヒト化マウスの作成まで進み、そのモデルを使ってクローン性の増殖を見出していて、研究戦略がうまく機能している印象を受けました。stem-like CD4 T細胞は腫瘍免疫の領域でも注目されているpopulationで、本研究の知見が様々な領域横断的な研究に発展することを期待します。


神尾 敬子 先生

巨細胞性大動脈炎患者の臨床検体の詳細な解析と、ヒト化マウスモデルを用いた実験的検証を組み合わせることで、血管周囲の三次リンパ組織内のTCF1陽性CD4+ T細胞が疾患の慢性化と組織局所での病態維持に重要な役割を果たすことを実証した優れた基礎研究である点を評価しました。


小島 秀信 先生

本論文では大動脈炎の臨床検体の解析に加え、ヒト化マウスモデルを用いてstem-like CD4+ T細胞が血管特異的な炎症を持続させることを明らかにしました。TCF1高発現T細胞は自己複製するとともに2種類のエフェクターT細胞に分化することが示されています。これらの結果から、自己免疫性血管炎の治療には現在標的となっているエフェクター細胞やサイトカインに加えてTCF1高発現のstem-like CD4+T細胞も標的にする必要性が示唆されます。自己免疫性血管炎に対する新たな治療ターゲットを示したトランスレーショナルリサーチで、大変興味深く読ませていただきました。


エピソード



1)研究者を目指したきっかけ

私は元々腎臓内科医であり、診療に携わる中で腎臓病に対する理解が不十分であり治療法が確立されていない現状を目の当たりにし、それらを少しでも改善したいと思い大学院へ入学し基礎研究を開始しました。大学院時代になぜ高齢者の急性腎障害は若齢に比べて予後不良なのなか?という課題に取り組み、高齢個体では障害の慢性期に異所性のリンパ組織である「三次リンパ組織」が誘導されることを発見しました。以後この構造物が何をしているのか?どうやって誘導されるのか?臨床的意義は何か?といった問いに1つ1つ取り組んでいるうちに気が付いたら研究者になっていました。

2)現在の専門分野に進んだ理由

大学院修了後は産学連携プロジェクトで創薬開発に携わりました。この時ヒトへの臨床応用を進めるにはヒトでの知見を積み重ねる必要があることを実感し、何か新しい取り組みが必要であると感じました。上記プロジェクトを通して免疫老化が高齢個体の三次リンパ組織形成に深く関与していることを突き止めたことから(Sato et al. JCI 2023)、免疫老化が加速していると考えられている自己免疫疾患を対象として、自己免疫疾患の病態解析を通してヒト免疫老化について学ぶために米国メイヨークリニックに籍を移し、現在に至っております。

3)この研究の将来性

三次リンパ組織は高齢者腎臓病以外に癌や感染症、自己免疫疾患といった多様な病態で誘導されることが明らかにされております(Sato et al. Nat Rev Nephrol)。今回受賞対象となった論文はヒト自己免疫疾患における自己免疫を駆動する要となるstem-like T cellが三次リンパ組織をnicheとして組織に常在し、自己複製とeffector T cellへの分化を両立させることで組織特異的な炎症を持続させることを示しました。三次リンパ組織は、自己免疫疾患や高齢者腎臓病では炎症を駆動する「敵」として位置付けられますが、癌では癌免疫を増幅する「味方」として機能します。免疫系はいかなるcontextにおいてもバランスが重要であり、過剰も不足も病態形成に繋がることから、様々な加齢性疾患において免疫バランスがどのように崩れているかを明らかにし、三次リンパ組織を制御し崩れたバランスを適正化することで幅広い加齢性疾患の進行を抑制できるのではないかと考え、現在も研究を続けています。ヒト臨床に応用可能な知見を確立できるよう引き続き楽しみながら研究に取り組んでいきたいと思います。

4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします

このような機会を頂き誠にありがとうございました。


Comments


© UJA & Cheiron Initiative

  • UJA Facebook
  • UJA Twitter
bottom of page