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[特別賞]楠加奈子/北海道大学

Kanako Kusunoki, M.D., Ph.D.

[分野:免疫アレルギー]


論文リンク


論文タイトル

Gasdermin D drives focal Crystalline Thrombotic Microangiopathy by accelerating Immunothrombosis and Necroinflammation


掲載雑誌名

Blood


論文内容

血栓性微小血管症 (TMA) は, 免疫血栓とその下流の組織虚血により, 急性腎不全を代表とする臓器不全に至る予後不良の疾患である. ガスダーミンD (GSDMD) は膜孔形成蛋白であり, 炎症性サイトカインIL-1βを細胞膜孔より放出させながら, 炎症促進的細胞死の一つであるパイロトーシスを実行する. また, GSDMDは特定の刺激に対する好中球細胞外トラップ (NETs) の形成にも関与する. 本研究では, GSDMDが好中球のこれら炎症促進的細胞死を駆動してTMA病態を形成すると仮説を立て, 近年新たに確立された結晶誘発TMAモデルマウスを用いて検証した. GSDMD欠損および薬理学的阻害は, 結晶誘発TMAマウスにおける動脈血栓閉塞, 虚血性組織梗塞, 臓器不全を改善した. その機序として, GSDMDは骨髄好中球の成熟とβ2インテグリン活性化を促して好中球の骨髄からの脱出と炎症組織への動員を促進し, また好中球の活性化血小板への接着とNETs形成を促進することで動脈免疫血栓を増大させる. さらに, 好中球の結晶誘導パイロトーシスとIL-1βの放出を促して組織炎症を増悪させるとともに, 組織障害により細胞外に放出されたヒストンによるNETs形成を促進することが示された. 本研究により, GSDMDが結晶誘発TMAの重要なメディエーターであり, 治療標的となる可能性が示された. 特に, 好中球におけるGSDMDの病態促進的な役割を腎疾患モデルで初めて示した点, またGSDMDが細胞死を超えて好中球の成熟や動員にも積極的に関与するという新たな役割を示した点は, 今後の治療開発における重要な知見である. さらに, 他の誘因によるTMAや, 好中球が病態に関与する他疾患においても, GSDMDが有望な治療標的となる可能性が示唆された.




受賞者のコメント


とても嬉しく思います。ありがとうございます。

審査員コメント


足立 剛也 先生

本研究は、血栓性微小血管症のモデルマウスを用いて、ガスダーミンDのメディエーターとしての重要性を明らかにした。特に好中球細胞外トラップ (NETs) 形成は、他の疾患においても病態に関わる新たなメカニズムとして注目を浴びており、ガスダーミンDを介したNETs制御は、新規治療の研究開発戦略に寄与するもので、特定の領域にとどまらない横断的なインパクトを有する成果として高く評価される。


清家 圭介 先生

TMAは、様々な原因によって引き起こされる免疫性の血栓と臓器不全を引き起こす重篤な疾患であり、メカニズムも複雑であり、診断や治療に難渋する症例も多い。本論文では、細胞膜に孔を形成するGSDMDが結晶性TMAとそれに伴う臓器不全に関連していることを明らかにした。GSDMD欠損マウスを用いてTMAモデルマウスを作成したところ、好中球の集積、好中球細胞外トラップの減少、臓器障害が軽減することを明らかにした。その詳細なメカニズムとして、GSDMD欠損により好中球成熟やβ2インテグリンの活性化が阻害されることを発見した。さらにGSDMD阻害剤であるジスルフィラムをTMAマウスモデルに投与することによってTMAの臓器障害が改善することを明らかにした。本論文は、結晶性TMAの病態におけるGSDMDの重要性が明らかにし、GSDMDが治療のターゲットなりえることを示しており、今後の治療への発展に繋がることが期待される重要な研究です。


溜 雅人 先生

血栓性微小血管障害症(TMA)は急性腎不全や血栓塞栓症などを引き起こし、生命を脅かしえる重篤な疾患ですが、その治療法は限られています。本研究は、ガスデルミンD(GSDMD)がTMAに関与するという基礎研究に基づくデータから仮説をたて、TMAマウスモデル、GSDMD欠損マウス、またGSDMD欠損のヒト誘導多能性幹細胞由来好中球を用いた実験など様々な手法を駆使して、GSDMDが好中球のβ2インテグリン活性化、成熟、およびパイロトーシスに関与し、局所結晶性血栓性微小血管障害 (TMA) の進行において中心的な役割を果たすことを示しています。また、GSDMD阻害剤であるジスルフィラム(DSF)が結晶性TMAモデルでの臓器保護効果を示し、将来的にTMAの治療および予防薬として期待される可能性を見出したことから臨床的にも非常に意義のある論文だと思います。


エピソード

留学当時は思い返しても暗中模索と試行錯誤の日々でした. 論文の完成と本受賞は、幸運な出会いとチャンスに恵まれ, 対話の中でヒントを得られたことで導かれたものと感じています. また同時期に研究留学した夫と協力することで育児の中に研究時間を捻出できたこと, 家族が皆健康で過ごせたことも幸運なことでした.


1)研究者を目指したきっかけ

⼤学院にて, 腎不全を来す⾎管炎と細胞死に関わる研究の機会をいただき, 研究の⾯⽩さや難しさを経験させていただきました. 腎疾患と免疫についてさらに追究し, 医師として研究者として成⻑したいと思い, 留学の機会をいただきました.


2)現在の専門分野に進んだ理由

循環器内科研修にて心不全に合併する腎不全とその急性増悪の多さを経験し, その機序や改善策を理論的に理解したいと思ったことが腎臓内科を目指すきっかけでした. 腎臓内科研修で腎臓の生理と病理を学び, その面白さと難しさから今後時間をかけて深めていきたいと考え, 専門とすることに決めました.


3)この研究の将来性

細胞死とその制御はまだ不明な点が多く, 創薬への課題は多いのが現状かと思いますが, そのため研究余地があり競争のある分野であり, 将来の腎疾患を含めた治療応用が期待されます.


4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします





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