Jo Kubota2023年4月9日読了時間: 5分[特別賞]冨田 祐介/広島市立広島市民病院Yusuke Tomita, M.D., Ph.D.[分野:イリノイ]A novel mouse model of diffuse midline glioma initiated in neonatal oligodendrocyte progenitor cells highlights cell-of-origin dependent effects of H3K27M. (びまん性正中グリオーマの起源細胞に関する検討)Glia, May 2022概要 びまん性正中グリオーマ(DMG)は主に5-9歳の小児に発生して1年前後で大半が亡くなる致死的な脳腫瘍である。これまで多くの臨床試験が行われてきたが直近15年をみても予後は改善しておらず新規治療法の開発が望まれている(Tomita Y. Neurooncol Adv. 2021)。DMGの大半はヒストン変異(H3.3 K27M)を有する。近年、腫瘍遺伝子解析によりH3.3 K27M 変異DMGの起源細胞としてOligodendrocyte precursor cell (OPC)が注目されている。しかしながら過去のDMG基礎論文においてOPC由来のDMGについては検討されていなかった。そのため、我々はレトロウイルスベクター(RCAS/Tv-a)を用いて、生後マウスの脳幹に存在する起源細胞へ遺伝子導入を行うことでde novo DMGモデルを作成し、H3.3K27Mの腫瘍発生に及ぼす影響について検討を行った。 遺伝子改変マウスとしてNestin-CFPマウス、Olig2-Tv-a-Cre;p53fl/fl(Otva)マウス、Nestin-Tv-a;p53fl/fl(Ntva)マウスをそれぞれ交配させた。生後3-5日のNestin-CFPマウス脳を用いて蛍光免疫染色を行いOlig2、Sox、Nestinの発現細胞を評価した。次に、生後3-5日のOtvaおよびNtvaマウスの脳幹内にPlatelet-derived growth factor-A (PDGF-A)、Cre、及びH3.3 K27MもしくはH3.3野生型を組み込んだレトロウイルスを注入して腫瘍モデルを作成した。人道的エンドポイントに到達した時点で屠殺し、生存期間、組織学的特徴、発現型について検討した。 生後3-5日のNestin-CFPマウスでは特に腹側脳幹においてOlig2発現細胞が多くみられ、そのほとんどはSox陽性、Nestin陰性でありOPCと考えられた。OtvaマウスではH3.3 K27M腫瘍とH3.3野生型腫瘍では生存期間、Ki-67陽性率には有意な差がなかった。一方でNtvaマウスでは、H3.3 K27M腫瘍はH3.3野生型腫瘍より有意に生存期間は短縮し、Ki-67陽性率は有意に増加した。H3.3K27M変異により発現変化する遺伝子はOtvaとNtvaで異なっていた。H3.3K27M-DMGで発現亢進すると報告されている5つの遺伝子セットを用いてgene set enrichment analysisを行うと、OtvaモデルではMyogenesis、Kras signaling down、Epithelial-mesenchymal transitionの3つの遺伝子セットで発現亢進していたのに対して、NtvaマウスモデルではUV response downの遺伝子セットの発現のみが上昇していた。また、OtvaおよびNtvaいずれのモデルにおいても炎症やインターフェロン経路に関する遺伝子発現は低下しており免疫抑制に関わっていることが示された 近年、ヒトiPS細胞を用いた基礎研究ではOPCはH3.3K27M-DMGの起源と考えにくいという結論であった。しかしながら今回の検討によりH3. 3K27Mによる影響は起源細胞に依存しており、OPC、Nestin陽性細胞(NPC)のいずれもが腫瘍形成に関わっていると考えられた。DMGにおいてはそれぞれの起源細胞が持つ特徴に焦点を当てた治療法開発が重要である。受賞者のコメント コロナ禍やラボ閉鎖で色々な苦労もしましたが論文掲載に至り、この度、賞もいただくことができて本当に嬉しく思います。短くも濃い留学生活であったと思いました。審査員のコメント小島敬史 先生: 小児に好発し、現状ではほとんど治療の方法がないびまん性正中グリオーマは、脳腫瘍の中で最も予後不良な疾患としてその名が広く知られている。従来はヒト由来の腫瘍組織をマウスに移植することで動物実験を行っていた。また、ヒストン変異の関連は知られているが、有効な遺伝子改変モデルマウスはまだ存在しなかった。筆者らは主要発生母地+H21としてのOligodendrocyte precursor cellに着目し、マウスの脳幹に遺伝子導入することで腫瘍の発生を確認した。DMGの病態、発生様式や治療法の探索に通じるブレイクするーとなり得る貴重な研究であると考えます。 渡辺知志 先生: 本論文は、致命的な小児の脳腫瘍、びまん性正中グリオーマにおける、ヒストン変異(H3.3 K27M)の起源細胞とその特徴を検討した基礎研究です。レトロウイルスベクターによる遺伝子導入を用いたde novoモデルやトランスクリプトーム解析により、Olig発現細胞とNestig陽性細胞においてH3.3K27Mの腫瘍発生に及ぼす影響が異なることを明確にしています。H3.3K27Mを標的とした治療を考える上で、その標的細胞を同定することの重要性を示しており、臨床応用も含め今後さらなる発展が期待されます。エピソード 留学してオリエンテーションが終わる頃にロックダウンとなり出勤禁止となり、その後も約1年間、週3回のシフト制勤務を強いられました。制限解除の発表からまもなくラボの閉鎖が決まり、1年9ヶ月で留学生活が終わることとなりました。一番の苦労は時間が非常に限られた研究環境で過ごしていたことだと思います。さらに、その研究途上で腫瘍起源細胞に関して自身のテーマに大きく拮抗する論文が発表されました。モデルは異なりますが自身のモデルの正当性を訴えるのに様々な考察が必要となり一時は掲載にたどり着くのは難しいと思われました。その中で周囲のラボの日本人留学生から様々なアイデアをいただき、実験の計画や結果の解釈に活かすことができたことは非常に幸運なことであったと思います。コロナ禍に限らずどのラボでも留学特有の苦労はあると思いますが、日本人留学生コミュニティの存在は非常に大きな力になると信じています。1)研究者を目指したきっかけ 医師としての働き方の幅を広げるため2)現在の専門分野に進んだ理由 医療現場でも脳腫瘍を専門にしているため3)この研究の将来性 今回使用したモデルの遺伝子背景が様々な治療が効きにくい理由に繋がっているため、モデルの確立はより良い治療研究に活かすことができる
Yusuke Tomita, M.D., Ph.D.[分野:イリノイ]A novel mouse model of diffuse midline glioma initiated in neonatal oligodendrocyte progenitor cells highlights cell-of-origin dependent effects of H3K27M. (びまん性正中グリオーマの起源細胞に関する検討)Glia, May 2022概要 びまん性正中グリオーマ(DMG)は主に5-9歳の小児に発生して1年前後で大半が亡くなる致死的な脳腫瘍である。これまで多くの臨床試験が行われてきたが直近15年をみても予後は改善しておらず新規治療法の開発が望まれている(Tomita Y. Neurooncol Adv. 2021)。DMGの大半はヒストン変異(H3.3 K27M)を有する。近年、腫瘍遺伝子解析によりH3.3 K27M 変異DMGの起源細胞としてOligodendrocyte precursor cell (OPC)が注目されている。しかしながら過去のDMG基礎論文においてOPC由来のDMGについては検討されていなかった。そのため、我々はレトロウイルスベクター(RCAS/Tv-a)を用いて、生後マウスの脳幹に存在する起源細胞へ遺伝子導入を行うことでde novo DMGモデルを作成し、H3.3K27Mの腫瘍発生に及ぼす影響について検討を行った。 遺伝子改変マウスとしてNestin-CFPマウス、Olig2-Tv-a-Cre;p53fl/fl(Otva)マウス、Nestin-Tv-a;p53fl/fl(Ntva)マウスをそれぞれ交配させた。生後3-5日のNestin-CFPマウス脳を用いて蛍光免疫染色を行いOlig2、Sox、Nestinの発現細胞を評価した。次に、生後3-5日のOtvaおよびNtvaマウスの脳幹内にPlatelet-derived growth factor-A (PDGF-A)、Cre、及びH3.3 K27MもしくはH3.3野生型を組み込んだレトロウイルスを注入して腫瘍モデルを作成した。人道的エンドポイントに到達した時点で屠殺し、生存期間、組織学的特徴、発現型について検討した。 生後3-5日のNestin-CFPマウスでは特に腹側脳幹においてOlig2発現細胞が多くみられ、そのほとんどはSox陽性、Nestin陰性でありOPCと考えられた。OtvaマウスではH3.3 K27M腫瘍とH3.3野生型腫瘍では生存期間、Ki-67陽性率には有意な差がなかった。一方でNtvaマウスでは、H3.3 K27M腫瘍はH3.3野生型腫瘍より有意に生存期間は短縮し、Ki-67陽性率は有意に増加した。H3.3K27M変異により発現変化する遺伝子はOtvaとNtvaで異なっていた。H3.3K27M-DMGで発現亢進すると報告されている5つの遺伝子セットを用いてgene set enrichment analysisを行うと、OtvaモデルではMyogenesis、Kras signaling down、Epithelial-mesenchymal transitionの3つの遺伝子セットで発現亢進していたのに対して、NtvaマウスモデルではUV response downの遺伝子セットの発現のみが上昇していた。また、OtvaおよびNtvaいずれのモデルにおいても炎症やインターフェロン経路に関する遺伝子発現は低下しており免疫抑制に関わっていることが示された 近年、ヒトiPS細胞を用いた基礎研究ではOPCはH3.3K27M-DMGの起源と考えにくいという結論であった。しかしながら今回の検討によりH3. 3K27Mによる影響は起源細胞に依存しており、OPC、Nestin陽性細胞(NPC)のいずれもが腫瘍形成に関わっていると考えられた。DMGにおいてはそれぞれの起源細胞が持つ特徴に焦点を当てた治療法開発が重要である。受賞者のコメント コロナ禍やラボ閉鎖で色々な苦労もしましたが論文掲載に至り、この度、賞もいただくことができて本当に嬉しく思います。短くも濃い留学生活であったと思いました。審査員のコメント小島敬史 先生: 小児に好発し、現状ではほとんど治療の方法がないびまん性正中グリオーマは、脳腫瘍の中で最も予後不良な疾患としてその名が広く知られている。従来はヒト由来の腫瘍組織をマウスに移植することで動物実験を行っていた。また、ヒストン変異の関連は知られているが、有効な遺伝子改変モデルマウスはまだ存在しなかった。筆者らは主要発生母地+H21としてのOligodendrocyte precursor cellに着目し、マウスの脳幹に遺伝子導入することで腫瘍の発生を確認した。DMGの病態、発生様式や治療法の探索に通じるブレイクするーとなり得る貴重な研究であると考えます。 渡辺知志 先生: 本論文は、致命的な小児の脳腫瘍、びまん性正中グリオーマにおける、ヒストン変異(H3.3 K27M)の起源細胞とその特徴を検討した基礎研究です。レトロウイルスベクターによる遺伝子導入を用いたde novoモデルやトランスクリプトーム解析により、Olig発現細胞とNestig陽性細胞においてH3.3K27Mの腫瘍発生に及ぼす影響が異なることを明確にしています。H3.3K27Mを標的とした治療を考える上で、その標的細胞を同定することの重要性を示しており、臨床応用も含め今後さらなる発展が期待されます。エピソード 留学してオリエンテーションが終わる頃にロックダウンとなり出勤禁止となり、その後も約1年間、週3回のシフト制勤務を強いられました。制限解除の発表からまもなくラボの閉鎖が決まり、1年9ヶ月で留学生活が終わることとなりました。一番の苦労は時間が非常に限られた研究環境で過ごしていたことだと思います。さらに、その研究途上で腫瘍起源細胞に関して自身のテーマに大きく拮抗する論文が発表されました。モデルは異なりますが自身のモデルの正当性を訴えるのに様々な考察が必要となり一時は掲載にたどり着くのは難しいと思われました。その中で周囲のラボの日本人留学生から様々なアイデアをいただき、実験の計画や結果の解釈に活かすことができたことは非常に幸運なことであったと思います。コロナ禍に限らずどのラボでも留学特有の苦労はあると思いますが、日本人留学生コミュニティの存在は非常に大きな力になると信じています。1)研究者を目指したきっかけ 医師としての働き方の幅を広げるため2)現在の専門分野に進んだ理由 医療現場でも脳腫瘍を専門にしているため3)この研究の将来性 今回使用したモデルの遺伝子背景が様々な治療が効きにくい理由に繋がっているため、モデルの確立はより良い治療研究に活かすことができる
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