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執筆者の写真Jo Kubota

[特別賞]勝山 湧斗/UCLA

Katsuyama, Yuto

[分野:化学・工学]
(3Dプリントでナトリウムイオン電池の貯蔵メカニズム解明、容量を4倍に)
Small, June 2022

概要
スマートフォンやパソコンに使用されているリチウムイオン電池は、私たちの生活において欠かせないものとなった。特に電気自動車が普及を始めた昨今では、今まで以上に大量のリチウムイオン電池が必要になる。しかしリチウムイオン電池の原材料には、リチウム・コバルト・ニッケル等といった資源が限られた希少元素が使用されており、需要の大幅な高まりにより原材料価格は上昇し、資源の枯渇・環境破壊などが問題となっている。  そこでリチウムイオン電池の代替として注目されているのが、ナトリウムイオン電池だ。ナトリウムイオン電池は、その名の通り海水などに大量に含まれている「ナトリウム」を使用しているため、資源に限りが無く、安価である。また、ナトリウムの反応電位はリチウムの次に低いため、高い電池電圧を取り出すことができる。  ナトリウムイオン電池の課題の一つに、貯蔵メカニズムが未だ理解されていないことがある。負極側においては「ハードカーボン」という材料を使用するが、ナトリウムイオンがどのようにハードカーボンに貯蔵されているのか、が未だ理解されていない。  本論文では、3Dプリントにより作製した3D構造を有するpureなハードカーボン電極を使用して、メカニズム解明に取り組んだ。通常であれば電池電極はエネルギーを貯める「活物質」の他に、電極を形成するための「結着剤」や電気を流すための「導電助剤」を含む。また測定のために電池から取り出した電極は「電解液」も含んでいる。しがたって、材料特性の評価をすると「活物質以外の材料」も同時に測定してしまうため、得られる実験結果にノイズが混ざる。そこで我々は3D構造を持つpureなハードカーボン電極を使用した。3Dプリントを使用することで「結着剤」と「導電助剤」を使用する必要が無くなった。さらに3D構造を持つため、電池から電極を取り出した際に「電解液」が直ちに抜けるように設計されている。したがって、材料特性を評価する際に、実験結果が100%ハードカーボンの情報しか含まないような実験系を作ることに成功した。本実験の結果から、ハードカーボンを構成する炭素シートの層間距離がナトリウムイオンを低電位で貯蔵する際に0.38 Å変化しており、一方で高電位では0.13 Åしか変化していないことを捉えた。このことから、リチウムイオン電池と同様に、ハードカーボンを使用した際には低電位側でインターカレーション反応が起きていることを実験的に示した。  さらに、3D構造を有することで電極の厚膜化が可能になり、従来の4倍の面積当たり容量を達成することに成功し、3Dプリントの電池応用の有用性も示した。

受賞者のコメント
この度は特別賞を賜りまして大変光栄です。これまで熱心に指導していただいた東北大学とUCLAの先生方、また普段から近くで支えてくれた家族や友人に感謝申し上げます。Ph.D.課程の残り約2.5年間は、この受賞を励みにより一層精進して参ります。

審査員のコメント
庄司観 先生:
3Dプリンタにより作製した三次元炭素電極を用いたナノリウムイオン電池を用いることで、ナトリウムイオンの貯蔵メカニズムを解明している。近年、3Dプリンティング技術を用いた3次元電極の作製技術は数多く報告されているが、3次元電極をを用いて容量を増加させるだけではなく、ナトリウムの貯蔵原理にアプローチしていることは非常に評価できる。また、申請者は大学院生であり、今後の研究の発展が大いに期待できる。

内田昌樹 先生:
リチウムイオンバッテリーは、携帯電話から電気自動車まで様々な機器に使われており、我々の生活に欠かせないものです。しかし、リチウムの埋蔵量と産出場所が限られているため、将来にわたるイオンバッテリーの安定供給には懸念があります。一方、ナトリウムは豊富に存在する元素なので、リチウムに替わる資源として期待されています。本研究は、ナトリウムイオンバッテリーを作製するうえで欠かせない、負極用の炭素電極の開発に取り組み、優れた成果を挙げている点で重要性が高いと評価しました。さらに、本研究ではアマゾンで安価に($230)購入できる3Dプリンターを用いて従来の容量をはるかに上回る電極材料の開発に成功しており、実用化の点でも注目に値する論文です。

エピソード
私はChemistry寄りの電池材料の研究者で、3Dプリントのバックグラウンドは一切ありませんでした。しかし、2021年のUJA特別賞を受賞された成田海さんの「3Dプリントでリチウムイオン電池を作る」という論文を拝読しました。3Dプリントされたポリマーを炭化して得られるハードカーボンという材料は、ナトリウムイオンの貯蔵に適しており、さらにこの電池電極は100%ハードカーボンで構成されてバインダーや導電助剤と呼ばれる材料を含まないため、ハードカーボンへのナトリウムイオンの貯蔵メカニズム解明に最適な材料であると感じました。そこで、成田海さんと同じ研究室でポスドクをされていた工藤先生(現在は東北大学助教)とお会いし、共同研究という形で3Dプリントでナトリウムイオン電池を開発するプロジェクトが開始しました。まさに、他分野の最先端の技術・人との偶然の出会いにより実った研究でした。今後創造的な研究をするためには、他人と協力しあうことが重要であることを身にしみて感じた研究でした。


1)研究者を目指したきっかけ
原子レベルで材料を設計する研究者がかっこいいと感じたから
2)現在の専門分野に進んだ理由
小さい頃からエネルギー問題に関心があったから
3)この研究の将来性
海水にも含まれる豊富なナトリウムイオンを使用することで電池の値段が大幅に下がる。よって電気自動車の値段も下がり、電気自動車が更に普及する。また環境にも優しい電池であるため、環境破壊が抑制される。
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