[特別賞]古荘泰佑/モーグリッジ研究所(ウィスコンシン大学マディソン校)
- Tatsu Kono
- 4月13日
- 読了時間: 4分
Taisuke Furusho, M.D., Ph.D.
[分野:南カリフォルニア]
論文リンク
論文タイトル
Enhancing gene transfer to renal tubules and podocytes by context-dependent selection of AAV capsids
掲載雑誌名
Nature Communications
論文内容
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは単回投与で長期間の遺伝子発現が可能、かつ宿主細胞へのゲノム組み込みがほとんどなく、免疫原性が低いin vivo遺伝子治療に適したウイルスベクターである。組み替えAAVベクターは臓器指向性を規定する外殻蛋白と目的遺伝子発現のために調整された一本鎖DNAからなる。近年、自然界に存在する血清型の外殻蛋白に改変を加えることで、標的臓器により効率的かつ特異的に遺伝子導入可能な新規AAVベクターの開発が盛んに行われている。特に肝臓、眼、骨格筋、心筋、中枢神経系を標的とした研究が成果を上げているものの、AAVの腎、特に遺伝子治療の標的として重要な尿細管上皮細胞やポドサイトへの遺伝子導入は未だ難しく遺伝子治療法開発の障害となっている。 我々はBarcode-seqという手法を用いて既存のAAVベクターのマウス腎への遺伝子導入効率を網羅的に解析し、腎局所投与(逆行性腎静脈投与、逆行性腎盂投与)によってのみ尿細管上皮に効率的に遺伝子導入可能かつ非特異的な肝臓への遺伝子導入を回避できるAAVベクターを同定した。また、正常腎と障害腎でAAVベクターの腎への遺伝子導入パターンが異なること、適切なAAVベクターを選択することで高度蛋白尿を伴う障害腎でポドサイトへの効率的な遺伝子導入が可能であることを明らかにした。さらに、投与後の血中、局所でのAAVベクターの動態が外殻蛋白の違いにより異なり、局所投与や障害腎での効率的な遺伝子導入に寄与していることを示した。最後にアカゲザルでカテーテルを用いた経尿管逆行性腎盂投与法を確立し、AAVによる効率的な腎尿細管への遺伝子導入に大型動物で初めて成功した。自然感染や過去の治療によって獲得した中和抗体を有する患者は現在AAVを用いた遺伝子治療の対象外となっているが、アカゲザルの腎盂からのAAV投与は中和抗体の影響を受けず効率的な尿細管への遺伝子導入が可能であった。 本研究で同定したAAVベクター、投与方法は今後の基礎研究への活用、臨床応用が期待される。また、AAVベクターの臓器、細胞指向性はこれまで受容体との関係で論じられることが多かったが、AAVベクターの薬物動態も重要な因子であると考えられる。腎局所投与、障害腎で有効なAAVベクターが異なることが示す様に、投与方法、宿主の腎機能に応じたベクターの選択、開発が重要である。
受賞者のコメント
特別賞をいただきとても光栄です。ラボメンバー、共同研究先、家族をはじめ多くの方々に支えられて研究が形になったこと、評価いただいたことを嬉しく思っております。これを励みに一層研究を発展させていきたいと思います。
審査員コメント
庄司 観 先生
腎臓への効率的な遺伝子治療に向けた、AAVキャプシドの開発に関する研究であり、Barcord-seqによる網羅的な解析や投与経路・病態・種の依存性に関する実験的な検証など、非常に内容が濃く充実した論文でした。また、研究の結果、臨床応用に向けた指針を明らかに示しており、今後の応用展開が非常に期待できると感じました。
高田 望 先生
遺伝子導入の手法として利用されているAAVベクターをBarcode-seqなど最新の技術を用いて評価した優れた報告である。ウィルスAAV-KP1とAAV9をおもに比較対象にする事で腎臓における病態に重要な特異的な細胞への導入特性を明らかにしている。ヒトに近い霊長類でも評価するなど将来この方法の臨床応用が期待される。一方で眼や中枢神経系など他の臓器でも遺伝子導入の安全性や有効性を再評価できる系として発展性も考えられる。留学最初の筆頭著者としての成果を今後のご研究に活かして欲しいと願います。留学後、最初の筆頭著者としての論文であることから特別賞にも推薦致します。
湯川 将之 先生
腎疾患、特に慢性腎疾患(CKD)患者に対する治療効果を向上させるには、効率的かつ腎臓特異的な遺伝子送達技術の開発が不可欠です。本研究では、新規のAAVを用いることで、従来よりも大幅に高い遺伝子導入効率を達成しています。また、サルを用いた動物モデルによる実験で腎臓への特異性が検証されており、開発した手法の実用性が示されています。さらに、技術ライセンスを取得し、企業との連携を進めている点も評価でき、この技術が広く普及する可能性が期待されます。
エピソード
私の場合は自分の持つ知識、技術(腎臓)と留学先の強み(アデノ随伴ウイルス)がマッチしたのが幸せだったと思います。
1)研究者を目指したきっかけ
臨床医として働く中で、より良い治療、新規治療法の開発には研究が必要と感じたからです
2)現在の専門分野に進んだ理由
患者を総合的に診る科であること(腎臓内科)、新しい切り口で治療法を提供できる可能性があること(現在の研究)
3)この研究の将来性
現在有効な治療の少ない腎不全に新しい治療法を提供したいと考えています
4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします
受賞者のキャリアの後押しや研究者同士の交流を可能にしているサポートに感謝しております。
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