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[特別賞] 坂下陽彦 /Keio University School of Medicine

Akihiko Sakashita, Ph.D.

哺乳動物の精子形成過程における内在性レトロウイルスの役割

Endogenous retroviruses drive species-specific germline transcriptomes in mammals

Nature Structural & Molecular Biology

2020年9月


精子を含めた生殖細胞は受精を介して全能性を獲得する唯一の細胞であり、生殖細胞のみが自身の遺伝情報を次世代に受け継ぐことができる。その唯一たる特性ゆえに、生殖系列における精子形成特異的な遺伝子の発現獲得は、機能的精子の産生と長期的な種の保存・繁栄にとって極めて重要な現象である。しかしながら、この大規模な転写産物の変遷を担保する制御機構については現在までほとんど解明されていなかった。本研究において、我々はヒトおよびマウス精子形成細胞における統合的オミクス解析を通じて、生物進化の過程で、”感染”によって宿主ゲノムに組み込まれた内在性レトロウイルス (Endogenous Retro Viruses: ERVs) が、減数分裂期特異的にエンハンサー様のエピゲノム特性を獲得することを明らかにした。これらのERVエンハンサー領域には、精子形成のマスター転写制御因子であるA-MYBの結合も見出され、A-MYB依存的にERVエンハンサーが構築され、近傍遺伝子群の発現を惹起することも明らかにした。興味深いことに、ERVsエンハンサー近傍遺伝子の進化的保存性を検証した結果、有為に種特異的遺伝子が濃縮されていた。このことは、多くの種特異的遺伝子が、ERVエンハンサーによって生殖系列特異的に惹起されることを示唆する。従来までに多様な生物種の後期精子形成過程において、種特異的な遺伝子が多く発現し、受精時における異種間の交雑を防ぐことが報告されていたが、この制御機構については全く明らかにされていなかった。従って、ERVs の エンハンサー機能が種特異的な遺伝子の発現を惹起する可能性を見出した点が本研究の独創的な点としてあげられる。さらに、男性不妊症患者のゲノムコホート研究によって、ERVs を含むレトロトラ ンスポゾン配列が仲介するクロマチン高次構造の変化が無精子症などの疾患に関与する可能性が示唆されており、本研究結果はこれらの発症機構の理解にも役立つことが期待される。


受賞者のコメント:

この度は特別賞への採択本当にありがとうございます。素晴らしい賞を頂き、大変喜ばしく思います。この栄誉ある賞は、留学先PIであった行川賢先生をはじめ皆様の多大なるご協力によるものと感謝しております。本受賞を励みに、今後とも益々研究に邁進していきたいと思っております!


審査員のコメント:

今後、レトロウィルス由来のエンハンサー領域に注目した研究が活発化することが予想されるが、その源流の一つとなる非常に重要な成果であると思われる。(本間先生)


生物進化の過程でレトロウイルスの感染により宿主ゲノムに組み込まれたと考えられている内在性レトロウイルスが、減数分裂時にエンハンサーとして働き、種特異的な遺伝子発現を促すことを明らかにしています。独創的な研究で今後の発展が期待されます。(荒木先生)


Genetic/epigenetic analysisによるspermatogenesisにおけるERVのenhancer like functionおよびA-MYB binding siteの同定,ヒトおよびマウス細胞における機能解析、species-specific なgene regulationなど新しい発見が多くあり、Noveltyが極めて高い研究論文である。(橋詰先生) エピソード: 行川先生をはじめ共著者の皆様と議論を重ねに重ねて仕上げた私にとってとても思入れのある論文になりました。3回ほど査読を受けましたが、その都度レビュアーの要求が代わりリバイス実験に悪戦苦闘しておりました。アクセプトまでとても長い道のりでしたが、一流誌に仕事を発表する大変さと一度リジェクトされた論文を再度売り込むための様々なテクニックを学べ、今後に生きる貴重な経験になりました。また、帰国後すぐにこの仕事をもとにした招待講演を先生方から手配頂き、日本での研究活動の良いスタートが切れました。

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