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執筆者の写真cheironinitiative

[特別賞]林 和憲/大阪市立大学

Kazunori Hayashi, M.D., Ph.D.

[分野1:整形外科]
(成人脊柱変形術後の患者満足度に影響を与える因子 -若年患者と高齢患者における違い-)
European Spine Journal, January 2020

概要
成人脊柱変形(ASD)は罹患患者の健康関連QOL(HRQoL)を大きく低下させる脊椎疾患である。保存療法の有効性は不十分で、重症例に対する治療法としては矯正固定術がある。脊椎手術は高い術後患者満足度を得ることが目的の一つであるといえるが、矯正固定術に関して、これまでに自己イメージの改善や腰痛の軽減、再手術等が術後患者満足度に影響するとの報告がある。しかしASDの発生病態は小児期の特発性側弯の遺残による二次性変性側弯症やde novo変性側弯症等、多様であり、過去に報告された要素が全患者の術後満足度に一様に影響するとは考えにくい
そこで申請者は、手術時年齢により、術後2年時の患者満足度(Sat-2y)に関連する因子が異なるかどうか検討した。
ESSGデータベースを用い、ASD治療を目的とし4椎間以上の固定術を行った、手術時40歳未満の119例(若年群)、40歳以上65歳未満の155例(壮年群)、65歳以上の148例(高齢群)を対象とした後ろ向きコホート研究を行った。年齢群毎にそれぞれ、Sat-2yを目的変数として患者背景、手術因子、術後の矢状面冠状面画像パラメータと改善度、合併症、HRQoLからロジスティック回帰解析を行い、最も高いAUCを持つモデルを探し、比較した。次に、壮年群と高齢群を対象に傾向スコアマッチング法を行い、患者背景や病態、術前臨床症状や画像パラメータを均一化したコホートを作成し結果の確認を行った。
結果として、若年群では脊椎手術歴(OR:0.27)、術後総合併症(OR:0.34)とSRS-22R自己イメージスコア(OR:16.97)がSat-2yに影響を与えた。術後画像パラメータや改善度はいずれの回帰モデルにも含まれなかった。一方、壮年群では術後神経合併症(OR:0.34)、再手術(OR:0.23)、術後2年のSVA改善度(OR:6.65)とSRS-22R疼痛スコア(OR:8.53)が、高齢群ではインプラント関連合併症(OR: 0.39)、術後2年のLLミスマッチ改善度(OR: 3.30)とODI立位機能スコア(OR: 0.08)がSat-2yと関連していた。傾向スコアマッチング法でも、壮年・高齢群ではSVA20mm以上の改善が、高いSat-2yに繋がることが確認できた(OR:13.6)
本研究結果は、若年群では自己イメージ、壮年群は疼痛、高齢群は立位機能の改善が術後患者満足度における鍵となり得ることを示した。また、合併症の予防は全年齢層で重要であり、40歳以上の例では矢状面脊柱骨盤アライメントの改善と維持が高い術後患者満足度に繋がる可能性があると考えられた。
ASDは発生病態で分類することが理想である。しかし病態が不明、又は重複例も多い。そこで年齢で便宜的に分類し、「若年群では自己イメージ、壮年群は疼痛、高齢群は立位機能の改善」を考慮した手術方法を立案することがASD術後の患者満足度向上を考慮する上で有用であると申請者は考える。

受賞者のコメント
この度はUJA論文賞(特別賞)を頂き、大変光栄です。私は、成人脊柱変形治療の歴史が深いフランスにクリニカルフェローとして留学しておりました。本論文は、臨床に携わりながら感じた疑問に対し、これをESSGという欧州6ヵ国から集めたデータベースを用いて解析したものです。受賞を糧に、今後も価値のある臨床研究を進めていきたいと考えています。

エピソード
日本人留学生が少ない街でしたので、生活基盤の確立にやや苦労しました。現地の銀行口座が無ければ住居が借りることができないが、住居がなければ銀行口座が作れない、といった矛盾があるのはフランスだったからでしょうか。

1)研究者を目指したきっかけ
細かい研究の積み重ねがより良い医療に繋がります
2)現在の専門分野に進んだ理由
脊椎疾患で苦しむ高齢者がとても多く、手術で劇的に症状が改善する場合がある
3)この研究の将来性
成人脊柱変形と一括りにされているが、変形の原因や病態は多様である。それぞれの患者に対し、変形のどの部分を矯正してどのような症状の改善を目標とするか、この論文の結果が一助となると考える。
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