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執筆者の写真cheironinitiative

[特別賞]正田 哲雄/シンシナティ小児病院

Tetsuo Shoda, M.D., Ph.D.

[分野2:免疫アレルギー]
(好酸球性食道炎の線維狭窄性に関わるTSPAN12の役割)
Gastroenterology

概要
好酸球性食道炎(EoE)は、食道粘膜上皮層に多数の好酸球の慢性的な浸潤が起こり、その結果、粘膜固有層と粘膜下層を中心に線維化がおこって最終的には食道狭窄をきたす疾患である。これまでの網羅的遺伝子解析によりEoE病態機序の研究が行われてきたが、線維化に関与する要因についてはほとんど知られていない。線維化要因同定による病態解明と治療戦略の確立を目的として線維化EoE患者の網羅的遺伝子解析を実施した。
全米11施設との多施設共同研究を立案後、線維化EoE患者由来食道生検サンプルの処理と解析を実施した。より重要な遺伝子を同定するため、複数のコホートを組織し、網羅的遺伝子発現解析を行った。種々の解析を実施した結果、TSPAN12遺伝子がEoEの線維化と相関していることを見出し、検証コホートで実証した。その臨床的意義を評価するため、前方視的に測定した病理・内視鏡スコアシステムとTSPAN12発現の相関解析を行ったところ、TSPAN12は粘膜固有層線維化や食道内腔径とも相関を示した。
続いて1 細胞遺伝子発現解析と免疫染色の結果、TSPAN12遺伝子は血管内皮細胞に特異的であることを確認した。EoEの病態に深く関与するIL-13が血管内皮にEoEに類似した発現変化をもたらすこと、特にTSPAN12遺伝子発現が減弱することを見出した。これまでの臨床試験においてもTSPAN12は局所ステロイド治療では十分改善しないが抗IL-13抗体治療では改善していることから、より深部での炎症を根本からコントロールすることが線維化を防ぐ上で重要であることが示唆された。
最後にTSPAN12欠損が、線維芽細胞との相互作用を介して組織リモデリングに影響を与えるかどうかを調べるために 培地交換実験を行った。食道線維芽細胞(FEF3)をTSPAN12欠損食道内皮細胞またはコントロール食道内皮細胞の培地で培養したところ、TSPAN12欠損食道内皮細胞の培地で刺激を受けた線維芽細胞は細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の発現が増加した。TSPAN12欠損食道内皮細胞は、ECM経路に関連する遺伝子が変動しており、その培地ではエンドセリンなどの線維化を促す因子が増加していた。
TSPAN12と内皮細胞の役割に注目し、線維狭窄性EoEの病態に関する新たな知見を得た。これらのデータは、疾患に伴う内皮の変化が、EoEの炎症環境における線維狭窄性の疾患プロセスと慢性化に影響を及ぼすという新たなパラダイムを示唆している。

受賞者のコメント
この度は特別賞を賜り、大変光栄に感じております。多くの関係者の方々に心から感謝を申し上げます。この受賞を励みに、より一層精進して参ります。

エピソード
新型コロナウイルスの流行によりラボが一時期閉鎖してしまい実験がストップしてしまいました。再開まで時間がかかり、あまり詳細を詰めずに手軽なletterなどで投稿してしまいたい気持ちになりました。何とかできる範囲で実験や解析を継続し論文がアクセプトされ、ジャーナルのカバーに選ばれたときは諦めずにまとめて良かったと思いました。

1)研究者を目指したきっかけ
幼少期に弟が重症の喘息だったため医師になり小児のアレルギーを専門としました
2)現在の専門分野に進んだ理由
医師になってから重症の消化管アレルギーの患者に会ったが診断や治療のコンセンサスが不明確だったため
3)この研究の将来性
消化管アレルギーのひとつである好酸球性食道炎の重症化に関わる線維化の機序の一端を示し、今後の診断・治療・予防などへの貢献が期待される
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