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[特別賞]坂東弘教/ミシガン大学

Hironori Bando, M.D., Ph.D

[分野:ミシガン]
(先天性下垂体機能低下症の原因としてのSIX3)
Human Molecular Genetics, August 2022

概要
  下垂体機能低下症は電解質異常など全身性の代謝調節の障害をもたらし、QOL低下や生命予後の不良に直結する。同疾患は本邦において指定難病に指定されており、これらの病態・病因の解明ならびに診断・治療方法の確立は社会的なニーズが高い。
先天性下垂体機能低下症(Combined Pituitary Hormone Deficiency: CPHD)は4000出生に1例が発症する高頻度の先天性疾患である。その原因として、下垂体各細胞の分化に関する転写因子や視床下部由来の下垂体形成に関するシグナルの異常が知られており、約40の原因遺伝子が報告されている。しかし、大半の症例(84.2%)では既知の変異が認められず、診断・治療に難渋することも多い。一部の症例は、下垂体と視床下部の間を連結する下垂体茎が形成されない、下垂体茎断裂症候群(Pituitary Stalk Interruption Syndrome: PSIS)として発症することもある。
SIX3は発達中の脳、下垂体、眼球に発現するホメオドメインタンパク質である。我々は、CPHDを呈したPSISの1家系を網羅的解析を用いて解析した。同家系はSIX3とPOU1F1の遺伝子変異を二重にヘテロ接合性に有していた。まず、Six3とPou1f1のヘテロ接合性変異マウスを用い、CPHD、PSIS発症に関する意義を検討した。その結果、Six3とPou1f1の双方に変異を持つマウスでは著しい下垂体の形態異常を呈した。すなわち、SIX3とPOU1F1は協調的に下垂体形成に関与することが示唆された。
POU1F1は古典的なCPHDの原因遺伝子ではあるが、浸透率は高くなく、PSISを来さないことが特徴である。そのため、我々はSIX3がPSIS・CPHDの発症に関与するのではないかと考えた。そこで、下垂体形成過程について口腔外胚葉(後に下垂体自体に分化)と神経外胚葉(後に視床下部に分化)特異的にSix3を欠損させたマウスモデルを検討した。いずれのマウスにおいても下垂体は無形成もしくは低形成であった。その機序が口腔外胚葉と神経外胚葉によって各々異なることを動物モデルで明らかにし、SIX3は口腔外胚葉と神経外胚葉の双方において、それぞれ下垂体への直接作用と視床下部内の下垂体形成シグナルの両面から下垂体形成に重要な役割を有することが示した。
我々はPSISを伴うCPHDの新規原因遺伝子としてSIX3を同定し、下垂体形成への意義を明らかにした。(なお、POU1F1の変異は新規変異機構の提唱に繋がり、別の論文でco-first authorとして発表した。Am J Hum Genet. 2021;108:1526-1539)

受賞者のコメント
この度は名誉ある賞を授与していただきありがとうございます。受賞論文は私だけの努力ではなく、ラボメンバー、家族など、沢山の方々にサポートをしていただいた結果であり、全員を代表して私が授与頂いたものと感じております。米国での日々を改めて振り返り、喜びを噛みしめております。この度は誠にありがとうございました。

審査員のコメント
佐田亜衣子 先生:
先天性下垂体機能低下症(CPHD)患者における遺伝子変異の同定と、遺伝子改変マウスを用いた病態解明に取り組んだ研究で、遺伝学的アプローチの強みを活かした質の高い成果である。特に、疾患の新規原因遺伝子としてSIX3を同定し、その細胞種特異的なメカニズムをin vivoにおいて解明した点は当該分野において重要な知見を提供する。論文内容を分かりやすく伝える能力にも長けている。

小野陽 先生:
この研究では先天性の下垂体疾患を示す家計の遺伝子解析を通して原因となる遺伝子変異を同定しさらにそれらの変異がマウスモデルで実際に下垂体形成以上に関わっていることを示しました。下垂体発生のメカニズムの一端んを明らかにしたことに加え、下垂体機能低下症の治療方法の開発に役立つ可能性があります。

エピソード
同様の方もいらっしゃると思いますが、実験が佳境を迎えた時にCOVID19の流行が始まり、ラボが閉鎖になりました。実験動物も最低限の数までに制限されてしまい、実験が進まなくなりました。
帰国も近づいており、ラストFigureがどうしても進まなかったのですが、同僚が帰国直後に仕上げてくれて完成を迎えました。帰国時はCOVID19の入国制限中であり、入国後すぐは隔離されていましたが、隔離中に免疫染色の写真をメールで送ってくれたのが感激でした。

1)研究者を目指したきっかけ
何となく町のかかりつけ医のような仕事をするんだろうなと思っていたのですが、専門性が高い領域を専門領域にするようになりました。現在の医学・医療では病気の原因が分からなかったり、治療方法がない場合も多いです。せめて一つでも解決出来ればと思い、臨床の傍ら研究を始めました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
内分泌代謝領域は手術などを行う領域ではなく、地味なのですが、治療を開始すると患者さんの人生が見違えるように変わることがあります。若手医師の時にそのような経験をして、現在の領域を選びました。今の研究も若手医師の時に出会った患者さんの経験を研究に発展・昇華させているといっても過言ではないと思います。

3)この研究の将来性
今回の研究は先天性下垂体機能低下症という疾患の原因遺伝子の一つを明らかにしたものです。下垂体は成長ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンなど、さまざまなホルモンを調整しているいわば司令塔のような臓器です。生まれながらに下垂体機能が弱いと、低身長の原因になったり、全身の体調不良、症状が重たい場合には生命にかかわることもあります。この疾患は4000~10000人に一人発症するといわれているのですが、大半の患者さんは原因が不明です。今回、この原因の一つとなりうる遺伝子を探し当て、その意義について明らかにしました。今後の先天性下垂体機能低下症患者さんの原因診断に役立つのではないかと考えています。また、下垂体が胎児の時にどのように作られるのか、大まかなことは分かっているのですが、まだまだ分からないことが多いです。今回の研究はその一端を明らかにできたと思います。
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