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[特別賞]坂野 公彦/インディアナ大学(現 奈良県立医科大学)

Kimihiko Banno, M.D., Ph.D.
[分野:ミズーリ・インディアナ]
(循環血液中の血管内皮細胞に関する新規発見)
JCI Insight, 08-March-2023

概要
循環血液中には、血液細胞だけでなく、実は血管内皮細胞も含まれています。その殆どは脈管から剝げ落ちた死細胞もしくは死にゆく細胞ですが、ごく稀に、高い増殖能を有する血管内皮コロニー形成細胞(Circulating endothelial colony forming cell; C-ECFC)が、特にヒトの臍帯血には存在しています。しかし、マウスでの存在の有無、そしてこのC-ECFCはどこから由来するのか、特異的なマーカーは何か、などの詳細については不明でした。そのため、血液中の細胞を利用した血管再生のための様々な臨床試験が、十分な根拠が乏しい状況で行われている現状がありました。
本研究では、ヒトだけでなくマウスにおいても生後の限られた時期のみC-ECFCが存在することを確認し、若年マウスにおける複数のlineage tracing実験を用いて、その由来は骨髄血液細胞からではなく、組織血管の血管内皮細胞からであることを証明しました。また、事前培養を経ずに移植実験にて脈管形成が可能である(=非常に増殖性が高い)ことも示しました。次に、ヒトにおけるC-ECFCの由来を特定するために、同一の新生児から、臍帯血中の細胞と臍帯の臍帯静脈由来血管内皮細胞 (Human umbilical venous endothelial cell; HUVEC)を新鮮分離し、シングルセルRNAシークエンスで解析しました。その結果、C-ECFCの特徴的な細胞表面マーカーとして、プロテインC受容体(Protein C receptor; PROCR)を同定しました。また疑似時間解析において、C-ECFCは臍帯静脈のような血管に由来して循環血液中に放たれ存在することが示唆されました。さらに、磁気細胞分離法(MACS)を用いると、CD34強陽性でPROCR陽性の集団としてC-ECFCが分離できることも判明しました。
本研究は、生体組織における血管再生研究を進める上で、循環血液中の血管内皮細胞に関する重要な知見を示すものです。本研究における正確な方法で分離されたC-ECFCは血管再生に寄与する有力な細胞治療の選択肢となり得ると考えております。

受賞者のコメント
とても嬉しく思います。この留学をご支援下さった大阪大学小児科の北畠康司先生、大薗恵一教授、留学中にご指導下さったインディアナ大学のMervin Yoder先生、帰国後にご支援下さった奈良医大第二生理学の堀江恭二教授、そして、この研究をサポート下さった国内外の研究者の先生方、共に留学生活を過ごしてくれた家族全員に、心より感謝の気持ちを伝えたいと思います。

審査員のコメント
堀江 勘太 先生:
筆者らは、循環血液中に存在する血管内皮細胞の内、高い増殖能を持ち、移植により強固な血管系を形成するcirculating endothelial colony-forming cells(C-ECFC)を同定しました。また、single cell RNA-seq解析により様々なC-ECサブセットを識別するマーカーを特定した上でC-ECFCの単離に取り組み、これらの細胞をC-ECの内のユニークなsub populationとして定義付けしました。本論文は、C-ECFCを細胞治療の選択肢として考察する際に重要な論文になります。

佐藤 千尋 先生:
本論文は循環血液中に存在する、高い増殖能を有する血管内皮コロニー形成細胞の系統追跡から、その由来を特定した。留学後初めての筆頭著者、Corresponding Authorになっている。また2022年分子生物学会で口頭発表された。

加藤 明彦 先生:
Endothelial colony-forming cells (ECFCs) are the progenitor cells that can give rise to colonies of highly proliferative vascular endothelial cells (ECs) with clonal expansion and in vivo blood vessel-forming potential. The discovery of ECFCs could impact on multiple vascular diseases as a clinically accessible source of autologous ECs. However, the field of endothelial progenitor cells has been plagued with ambiguities and controversies. One of the major reasons for the conundrum is insufficient insights in the biological attributes of ECFCs (Cold Spring Harb Perspect Med (2022) 12: a041154). The authors focused on the identification of cell lineages of circulating ECFCs (C-ECFCs) in mouse and human. For the mouse study, they utilized mouse lines expressing fluorescent proteins in specific blood cell lineages. They grafted cultured or partially purified blood cells from these mouse lines into normal mice, and examined if the grafted cells became endothelial cells in the new hosts. The author concluded that C-ECFCs were from resident endothelial cells but not umbilical cords and compared the gene expression profile in the cord blood mono nuclear cells (CBMCs) to that in endothelial cells isolated from the vein of umbilical cord (HUVEC). They discovered that a subpopulation of CBMCs shared similar gene expression profiles to HUVEC Importantly, this CBMC subpopulation of CBMCs shared similar gene expression profiles to HUVEC utilized multiple robust approaches including unbiased experimental designs, and would be influential to solve the conundrum described above.

今崎 剛 先生:
非常に多くのデータを用いた解析より C-ECFCs の由来や血管形成能を有することを示したことや、新規マーカーを発見したことなどこの分野の基盤となる非常に価値ある仕事である。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
私が小児科医になって7年が経過した2010年頃、様々な患者さんにベストな医療を提供することに尽力しながら働いていた日々は、原因がわからず、有効な治療がない生まれつきの病気が数多くあることに気付いていく日々でもありました。折しも山中伸弥先生のiPS細胞の発見のタイミングも重なり、そのような患者さんからiPS細胞を作製することで、病態や治療法解明に繋がる研究を行いたいと思うようになり、研究を開始致しました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
現在、私は血管の研究をしています。血管は、からだの隅々まで行き渡っており、すべての臓器の構成に欠かせないものです。そしてほとんどすべての病気(がん、糖尿病、COVID-19等々)には血管が関係しています。「血管を制するものは病気を制する」と考えて、研究を進めています。

3)この研究の将来性
ヒトやマウスの赤ちゃんの血液の中には、血管のもとになる幹細胞がごくわずかに含まれています。今回の研究では、この幹細胞の由来、その詳しいはたらき、目印になるタンパク質を発見しました。この細胞がどういった細胞なのか、さらに解明していければ、血管再生のもととなる細胞を自由に作製できるようになるかもしれません。将来的には、血管が行き渡った人工の脳組織を作って、脳を再生できるようになるのが夢の1つになります。

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