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執筆者の写真cheironinitiative

[特別賞] 坪井達久 /University of California, San Diego

Tatsuhisa Tsuboi, Ph.D.

ミトコンドリアの形態が翻訳を制御することを発見

Mitochondrial volume fraction and translation duration impact mitochondrial mRNA localization and protein synthesis

eLife

2020年8月


 ミトコンドリアは代謝、エネルギー生産の中心であり加齢の関与する癌や神経変性疾患などで重要な働きをしていると考えられている。ミトコンドリアのタンパク質の99%は核にコードされており、ミトコンドリアの機能は細胞質mRNAから発現されるタンパク質により支えられている。一方で、ミトコンドリアのチューブ状のネットワーク構造は酵母からヒトまで広く保存されている。我々はミトコンドリアの形態が細胞質mRNAの局在や翻訳を制御し、ミトコンドリアの機能にどのような影響を与えるのかに興味を持ち、研究を行なった。その結果、ミトコンドリアの体積変化が細胞質内のmRNAの濃度を調節することで、mRNAのミトコンドリアへの局在量が決定され、ミトコンドリア上に存在する翻訳機構により、タンパク質発現量が制御されることを明らかにした。これは、細胞がミトコンドリアと細胞の形態を利用して、細胞の状態に応じたタンパク質発現を行なっていることを示す、驚くべき成果であった。

 本研究で得られた成果はこれまでの翻訳制御に関する研究の考え方を以下の5つの点について変更するものであった。1、ミトコンドリアにmRNAが結合していることが示されてから20年目にして、細胞の生育条件でmRNAのミトコンドリアへの局在が 大きく異なることを、mRNAの一分子解析を通して、初めて明らかにした。2、核内の転写制御だけでなく、細胞質内でも空間的制約が遺伝子発現を制御していることを明らかにした。3、ミトコンドリア上に翻訳活性化機構があることを示した。4、mRNAごとのミトコンドリアへの異なる局在効率は、新生ポリペプチド鎖内のミトコンドリア局在シグナルの露出時間を、翻訳伸長スピードが制御しているためであることを明らかにした。5、ミトコンドリアへの局在は生育に必須な条件であった。以上の研究成果は、ミトコンドリアの形態によりミトコンドリアの組成が影響を受けることを示しており、様々なミトコンドリアに関連した病気の治療方法を開拓していく上で、重要な一歩となる。


受賞者のコメント:

この度はUJA論文賞、特別賞に選んでいただき、審査員の方々、また研究を支えて下さった方々に感謝いたします。アメリカにポスドクとして渡米してから7年目での論文発表になりました。ボスのAllen Instituteへの異動によって、次のラボを探さないといけなかったり(私はUC San Diegoに異動)、顕微鏡のあるUC Irvineと San Diegoの間を往復して実験を行ったり、継続してFellowshipを取らないといけなかったりと、研究自体よりも、その実施にかけるエネルギーが必要な7年間でした。ポスドク期間中の論文は一報だけでしたが、良い評価をしていただける大学に巡り会え、今年度中に研究室を催している予定です。


審査員のコメント:

ミトコンドリアの体積、形状によるmRNAの転写制御という、まったく新しい遺伝子制御の方法を解明した。科学的意義と今後の発展の可能性が大きい研究と思います。(木原先生)


ヒトにおいて、ミトコンドリアの遺伝学的・機能的変化は様々な疾患と関わりあり、今後、このミトコンドリア構成タンパク質翻訳の細胞内空間的制御とヒト疾患に関する研究への応用など、ミトコンドリア研究に一石を投じるとても重要な成果である。(中村先生)


Technically excellent, very interesting fundamental understanding. Given the involvement of mitochondria in various diseases, the findings are very important.

(高山先生) エピソード: 受賞論文に関して幸運だったことは研究テーマとFelloshipを持ってきていたので初めからCorresponding Authorを付けてもらっていたことです。その甲斐もあって就職活動は順調に進みました。 高校生からの質問: 1)研究者を目指したきっかけを教えてください  研究者の父といずれ一緒に研究がしたかった。 2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください  分子のダイナミックな機械のような動きを発見したかった。 3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。 ミトコンドリアの形態は加齢の関与する癌や神経変性疾患で重要だと考えられており、もしミトコンドリアの形態を治すような薬を見つけたら癌や神経変性疾患に効くかもしれない。 

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