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[特別賞]堀内 周/ニューヨーク大学

Shu Horiuchi, Ph.D.

[分野2:免疫アレルギー]
(SARS-CoV-2に対する記憶免疫は異なるSARS-CoV-2株に対する防御能を持つが感染伝播は防除しない)
Science Immunology, 26 October 2021

概要
SARS-CoV-2 はCOVID19の原因となるウイルスで、現在世界的なパンデミックを引き起こし社会的に大きな問題となっている。ウイルスの感染拡大とともに、ワクチン接種の普及が急速な課題となっている中、SARS-CoV-2に対する免疫を保持している者でも、亜種によるブレイクスルー感染が発生し問題となっている。本論文ではSARS-CoV-2感染によって誘導される細胞性免疫に注目し、記憶免疫応答がどのように宿主を感染から守るについてGolden Hamsterを用いたモデルを確立し解析した。まず、自然免疫と獲得免疫に着目した所、SASR-CoV-2による感染は他の呼吸器ウイルス感染時と比べ自然免疫応答に遅延が認められた一方で、強い獲得免疫を誘導する事が確認された。感染から回復した個体から回収したT細胞を未感染の個体に移植した結果、これらのT細胞を移植した個体では感染時にSASR-CoV-2に対するB 細胞の迅速な誘導と、ウイルスの優位な排除が認められた。さらに、SARS-CoV-2ワシントン株から感染回復した個体に異なるSARS-CoV-2株を感染させた結果、SARS-CoV-2に対するB細胞の迅速な誘導と抗体産生が認められた。これらの個体から回収した血清中の抗体による中和能力を解析した所、SARS-CoV-2ワシントン株から回復し異なるSARS-CoV-2株に再感染した個体では、SARS-CoV-2ワシントン株のみならず異なるSARS-CoV2株に対する中和能力の増強も認められた。一方で、SARS-CoV-2ワシントン株から感染回復した個体に同じワシントン株を再感染した個体は、ウイルスが極めて迅速に排除されるものの、未感染の個体にウイルスを伝播する能力を保持することが分かった。これらの結果から、SARS-CoV-2 感染によって形成された記憶T細胞と記憶B細胞は相互に働く事でウイルスを迅速に排除し、さらに細胞性記憶免疫は異なるSARS-CoV-2株に感染した際のウイルスの排除にも有効である事が分かった。本研究成果から、広く注目されている抗ウイルス抗体のみならずウイルス感染により誘導され保持される細胞性記憶免疫が、2回目感染および異なるSARS-CoV-2株による感染に対する防御機構して有効に機能することが明らかとなった。

受賞者のコメント
この度は特別賞に選んで頂き感謝いたします。また、研究に携わった方々、得に共同研究者の大石康平さんとPIのBenjamin tenOever教授に感謝いたします。

エピソード
この研究はコロナ禍のニューヨークで街全体がロックダウンし、限られた数の研究室のみが研究を許されている状況で開始しました。ロックダウン中に合流した新しい研究室で、初めはテーマになるかわからず、手探りで実験を進めて行く中、共同研究者の大石さんと二人で、助け合いながら研究をすすめる事が出来たのは非常に良い経験でした。新しいラボでは一眼となってコロナウイルス研究を立ち上げている時期で、研究室がエネルギーに満ちており、渡米後なかなか論文が出ず、パンデミックで先が見えない不安の中で、こんなにもエネルギッシュなラボがあるのか。。。と忘れかけていた研究に対する思いを奮い立たせられたのを記憶しています。
この論文では大石さんのウイルス研究者としての視点と、私の免疫研究者としての2つの視点からコロナウイルス感染にアプローチし、自然免疫と獲得免疫が感染によって引き起こされる重症化をどのように抑えることが出来るか?という疑問に一石を投じる事ができたのではないかと思っています。

1)研究者を目指したきっかけ
子供の頃から日常にある様々な物事になぜ?と疑問を持っていた事が始めかと思います。親や親戚が研究に関わる仕事をしていたので、小さい頃からかっこいい仕事だという認識がありました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
学部4年制の頃に研究室で携わっていた、魚の獲得免疫を調べる経験がきっかけになります。当時流行してたコイヘルペスウイルスに感染したコイは感染歴が無い場合は80%以上が死ぬのに対して、一度回復したコイは全く死なない現象を見て、獲得免疫系の不思議を学びたいと思いました。
3)この研究の将来性
コロナウイルスの感染と重症化からどのように守ることができるか?に役に立てればと思っています。
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