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[論文賞]丸山 顕潤/フォーサイス研究所

更新日:2022年4月23日

Takamitsu Maruyama, M.D., Ph.D.

[分野1:整形外科]
(Bmpr1aは幹細胞の維持に必須であり、頭蓋骨縫合早期癒合症に関与している)
Science Translational Medicine, 3 March 2021

概要
頭蓋骨は5枚の骨に分かれており、そのつなぎ目が頭蓋骨縫合である。縫合部での骨形成は乳児期の急速な脳の成長に合わせた頭蓋骨の拡大に必須である。頭蓋骨縫合早期癒合症は縫合部が早い時期に骨化・癒合してしまう病気であり、頭蓋骨の変形、頭蓋内圧の上昇、脳への障害、目や耳などの感覚器への障害など多くの症状を引き起こす。今回の我々の報告は新しい頭蓋骨縫合早期癒合症のメカニズムに関するものである。
1990年代から2000年代前半にかけて、早期癒合症の原因遺伝子のいくつかが同定され、早期癒合症は過剰な骨芽細胞により骨形成が早まりすぎた結果であると考えられていた。したがって、骨芽細胞の分化スピードを適切にコントロールすることで癒合を予防・治療するという考えのもと、骨芽細胞分化の研究が盛んに行わていた。しかし2015-2016年に、全く新たなコンセプトが提唱された。スーチャーの中央に幹細胞が存在しており、スーチャーが維持されているという考え方である。先駆けとなったのは我々や他の研究室が発見したスーチャーの中央部分に存在する幹細胞の同定に関する研究である。この幹細胞は骨芽細胞の前駆細胞を供給し頭蓋骨の成長を担うと同時に、自らは幹細胞として自己複製し未分化の状態を保つことにより縫合部を維持していた。
今回の我々の論文では、従来の過剰な骨芽細胞分化ではなく、縫合部の幹細胞の異常・消失でも早期癒合症が引き起こされるのではないかという仮設を検証した。まず、2016年に我々が同定したAxin2という幹細胞特異的マーカーを使用し、幹細胞において発現が高い遺伝子をマイクロアレイ解析により同定した。その中の一つがBMP受容体の一つであるBmpr1aであった。そこで、Bmpr1aをAxin2発現幹細胞でのみ欠損させるマウスモデルを作成し、仮説の検証を行った。この遺伝子改変マウスでは異所性の骨がスーチャーの中央部に出現、拡大し、癒合を引き起こした。さらなる検証の結果、幹細胞数の減少、骨芽細胞の増加が観察された。また、Bmpr1aは幹細胞の自己複製に必須であることが示された。これらの結果は、頭蓋骨縫合早期癒合症が幹細胞の異常により引き起こされる可能性を示唆する初めての報告となった。Cole-Carpenter症候群のように骨形成不全と頭蓋骨早期癒合症が同時に発症するケースが報告されており、今までの骨芽細胞の分化異常では説明が困難であったが、我々の発見が新たな治療方法確立の手助けになれることを願っている。

受賞者のコメント
このような素晴らしい賞を受賞することができ大変光栄です。この論文は学術的に高い評価を受けただけでなく、大学院生時代から持ち続けた疑問、“なぜ頭蓋骨の溝(Suture)は活発に骨形成しているのにそれ自体は骨化しないのか?“、に一つの答えを提案することができた論文でもあり感慨深いです。

審査員のコメント
岩本資巳 先生:
本論文は頭蓋骨の癒合部に存在する幹細胞の維持に関与するシグナルについての優れた基礎研究である。動物実験と細胞培養実験の両面から幹細胞の維持と分化機能を厳密な実験方法を使用して、検索しており、得られた結論は関連分野に有意義な情報をもたらすと考えられる。

大鶴聰 先生:
筆頭著者は以前SuSCのマーカーとしてAxin2を同定した。今回このAxin2を発現するSuSCにおいて、BMP シグナルが活性化していることを同定し、Bmpr1aのSuSCにおける働きを調べた。Bmpr1aをSuSC特異的にノックアウトすることで頭蓋骨縫合早期癒合症を引き起こすことが明らかとなった。幹細胞の機能異常により縫合早期癒合が引き起こされるという今回の発見は、これまでの概念を覆す新たなメカニズムである。筆頭著者のキャリアアップに重要な意味をもつ論文であると考えられる。

田中栄 先生:
頭蓋骨縫合早期癒合症の病態に関与するsuture部の幹細胞を申請者らが同定したマーカーAxin2を用いて同定し、早期癒合に関与する遺伝子Bmpr1aを同定した点は高く評価できる。今後Bmpr1aのinhibitorを用いるなど、早期癒合を抑制する薬物の開発につながることが期待される。

エピソード
今回の研究は骨形成タンパク質(BMP: Bone Morphogenetic Protein)の一つの受容体であるBmpr1aに関するものです。マウスを使用してBmpr1aを頭蓋骨で欠損させると、頭蓋骨の溝が骨化してしまう病気になることは私の学生時代の研究でも明らかになっていました。しかし当時の研究では、骨形成タンパク質は骨形成に必須であり、その欠損は骨の形成を抑制すると示唆されていました。我々の結果はBmpr1aの欠損が骨形成を促進しているように見え、当時の私は検証可能な仮説すら建てることができませんでした。5年前、私達は頭蓋骨の溝(Suture)には成体幹細胞(Adult stem cell)が存在しSutureを維持していることを見出しました(Maruyama, 2016, Nature Communications)。その発見により、Bmpr1a欠損は成体幹細胞に影響を与えているのではないかと思い至り、今回の発見につながりました。“新しい細胞種の同定”という非常に基礎的な発見が病気のメカニズムの解明につながった一つの例であるとおもいます。

1)研究者を目指したきっかけ
その時々に楽しそうな選択肢を選んでいたところ、気がついたら研究者になっていました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
学生時代、子宮筋の収縮に関する研究をマウスを使用して進めていたのですが、予想に反して顔のかわいいマウスが生まれてきたので頭蓋骨の研究をスタートさせました。
3)この研究の将来性
生物には組織を一生涯維持するために成体幹細胞(Adult stem cells)というとても長生きな細胞が各組織に存在していると予想されています。今回の発見は頭蓋骨の成長と維持を担う幹細胞がどのように“長生き“しているのかというメカニズムの一端を明らかにしたものです。また、その幹細胞がなくなると頭蓋縫合早期癒合症という小児病を引き起こす可能性を示唆しました。この発見は病気の治療に繋がる可能性があると同時に、骨の再生へも繋がる可能性があると思います。成体幹細胞の長生きと我々個体の長生きは関係するのでしょうか?だとすれば、老化の解明にも一役買うかもしれません。
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