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[論文賞]小倉 浩一/メモリアルスローンケタリングがんセンター

更新日:2022年4月25日

Koichi Ogura, M.D., Ph.D.

[分野1:整形外科]
(難治性軟部肉腫である線維形成性小円形細胞性腫瘍(DSRCT)に対する新規治療標的の発見)
Clin Cancer, 15 February 2021

概要
線維形成性小円形細胞性腫瘍(DSRCT)は主に青年期から若年成人の男性に発症する極めてまれな軟部肉腫である。DSRCTでは、t(11:22)(p13:q12)の染色体転座によって、EWS遺伝子のN末端領域と、WT1遺伝子のC末端DNA結合領域が融合し、異常な転写因子が生じることが線維形成性小細胞腫瘍の病因になると考えられている(EWS-WT1融合遺伝子)。広範囲な腹腔内病変として発生し、初発時から遠隔転移を伴うことが多いことから、予後は極めて不良で、化学療法、手術、放射線治療などの集学的治療によっても5年生存率は15%以下とされている。
我々はDSRCTにおいて、1) 網羅的な発現解析により神経栄養因子受容体ファミリーに属する受容体チロシンキナーゼであるNTRK3が過剰発現していること、2) ChIPアッセイによりEWS-WT1がNTRK3のpromoterに結合し、チロシンキナーゼの恒常的活性化による下流シグナルの活性化を引き起こし、細胞増殖の亢進を誘導すること、3) ROS1/TRK阻害薬entrectinibによりNTRK3を阻害することにより、in vitro、in vivoいずれにおいてもDSRCTの増殖が抑制されることを解明した。
前述のように代表的な希少がんかつ難治がんであることから、DSRCTでは治療開発が遅れており、有効な薬物療法はほとんど報告されていないが、我々の研究はentrectinibがDSRCTにおいて有望な治療薬となる可能性を示した。
本研究成果を踏まえて、再発・局所進行DSRCT患者において、NTRK阻害剤と従来の殺細胞性抗癌剤イリノテカン・テモゾロミドを組み合わせた新規治療に関する臨床試験が、Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのDr. Tara O’Donohueを中心に実施されることとなり、DSRCT患者における革新的な新規治療となる可能性がある。

受賞者のコメント
この度は栄誉あるUJA論文賞、しかも整形外科領域では初の受賞者となり、大変光栄に存じます。UJA論文賞の名に恥じぬよう、さらに精進していく所存です。



エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
その時々に楽しそうな選択肢を選んでいたところ、気がついたら研究者になっていました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
学生時代、子宮筋の収縮に関する研究をマウスを使用して進めていたのですが、予想に反して顔のかわいいマウスが生まれてきたので頭蓋骨の研究をスタートさせました。
3)この研究の将来性
生物には組織を一生涯維持するために成体幹細胞(Adult stem cells)というとても長生きな細胞が各組織に存在していると予想されています。今回の発見は頭蓋骨の成長と維持を担う幹細胞がどのように“長生き“しているのかというメカニズムの一端を明らかにしたものです。また、その幹細胞がなくなると頭蓋縫合早期癒合症という小児病を引き起こす可能性を示唆しました。この発見は病気の治療に繋がる可能性があると同時に、骨の再生へも繋がる可能性があると思います。成体幹細胞の長生きと我々個体の長生きは関係するのでしょうか?だとすれば、老化の解明にも一役買うかもしれません。
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