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[論文賞]箭原 康人/デューク大学

Yasuhito Yahara, M.D., Ph.D.

[分野1:整形外科]
(胎児卵黄嚢に由来する新しい破骨細胞の発見)
Nature Cell Biology, 06 January 2020

概要
骨の吸収を担当する破骨細胞は、これまで造血幹細胞(Hematopoietic stem cells: HSCs)に由来するマクロファージ・単球系の細胞から分化すると考えられてきた。しかし、申請者は一部の破骨細胞が、HSCsではなく胎児卵黄嚢に発生するErythromyeloid progenitors (EMPs)に由来することを世界で初めて見出した。胎生(E)7日齢に卵黄嚢に発生したEMPsはE9.5に卵黄嚢マクロファージへと分化した後、全身へと遊走する。EMPs由来細胞の運命を追跡するため、EMPsとその子孫細胞をtdTomatoで標識し、追跡する実験を行った。その結果、生直後から6か月齢のマウス大腿骨において、tdTomatoと破骨細胞マーカーであるTRAPを共発現する細胞を同定した。以上の結果から、胎児卵黄嚢EMPsは生後マウスの破骨細胞の起源であると結論付けた。EMPs由来破骨細胞は骨髄HSCs由来破骨細胞に比べて半減期が長く、長期に渡って脾臓に在住していた。骨傷が起こると、EMPs由来前駆細胞は血流を介して損傷部に遊走し、骨折部におけるリモデリングに関与していた。リニエージトレーシングマウスと野生型マウスの血流を共有させるパラビオーシス実験および脾臓摘出実験によってこれらの事象を証明した。
次に、EMPsとHSCs由来破骨細胞前駆細胞の遺伝子発現プロファイルを詳細に解析するためSingle-cell RNA sequencing解析を行った。EMPs由来の細胞をtdTomatoでマーキングしたマウスを使用したため、tdTomatoの発現をマッピングすることで、EMPsとHSCs由来細胞を区別することに成功した。tdTomato陽性の破骨細胞前駆細胞はHSCsマーカーであるFlt3(fms-like tyrosine kinase 3)陽性細胞とは相反する遺伝子発現プロファイルを有しており、両者は独立した破骨細胞の起源であると考えられた。
以上の研究成果から、破骨細胞の一部がHSCsではなく胎児卵黄嚢に由来するEMPsから発生することが証明された。しかしHSCsおよびEMPsに由来する破骨細胞の機能的な違いは不明なままである。今後、破骨細胞の起源多様性が骨の発生、恒常性維持およびその破綻に関与するメカニズムの解明が望まれる。

受賞者のコメント
このような栄誉ある賞を頂き、大変光栄に思います。審査員の皆様、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。胎児の細胞は、生後も組織の中で生き続けており、炎症や組織修復において再度活性化し、機能することが明らかとなりました。しかし、具体的にどのような機序で活性化し、固有の機能を有するのかどうかは、未だ未解決命題です。今後、さらに研究を発展させることで、胎児由来破骨細胞の未知の機能を解明したいと思っています。

審査員のコメント
岩本資巳 先生:
本論文は胎児由来の赤血球ー骨髄球系の細胞が一部の破骨細胞の起源であり、組織修復においても機能していることを最先端の研究技術を駆使して明確に示したものであり、現在の基礎研究の水準に鑑みて、非常に高レベルなものである。基本知見は2019のNatureに発表されているので、新規性において最高であるとは言えないが、前駆細胞が存在しているのが膵臓である可能性および血液系幹細胞と癒合して機能していることも示唆できており、論文としての完成度が高いことだけでなく、将来の研究の発展性も見据えている。

大鶴聰 先生:
破骨細胞の新たな起源を同定し、これまでの常識に新たな知見を加える非常に意義深い論文です。遺伝子発現プロファイルの比較など詳細な検討により新規破骨細胞は既知の破骨全区細胞とは異なる特徴があることが示された。機能の違いや生物学的意義など今後さらなる研究結果が期待される。

田中栄 先生:
破骨細胞のオリジンについて、これまでに知られていた造血幹細胞に加えて、新たに胎児卵黄嚢に発生するerythromyeloid protenitor由来の細胞が関与することを明らかにした点で画期的な成果である。今後新たな骨吸収抑制療法の開発につながる重要な研究である。

エピソード
この研究では、胎児期に発生した前駆細胞が生後の破骨細胞の起源になることを証明しました。胎児期にタモキシフェンを使用して遺伝子改変を行うのですが、薬の影響で出生率が著明に低下することから、生きた遺伝子改変マウスのコホートを得ることに大変苦労しました。大量のマウスの交配と祝休日を含めたプラグチェックに追われる毎日でしたが、今思えば本当に良い思い出です。

1)研究者を目指したきっかけ
整形外科医として仕事をする際に、手術だけでは治せない多くの患者さんに出会い、基礎研究の大切さを実感したのがきっかけでした。
2)現在の専門分野に進んだ理由
昔から体を動かすことが好きで、自然と運動器(体を支え動かす、骨や筋肉、神経)に興味を持ちました。
3)この研究の将来性
老化や疾患によって骨がダメージを受ける病気(骨粗鬆症や関節リウマチなど)の原因解明に繋がればと思っています。
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