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[特別賞]塩田 佳代子/エモリー大学

Kayoko Shioda, PhD, DVM, MPH

[分野:ジョージア・オハイオ]
(集団レベルでのワクチンの評価研究)
Clinical Infectious Diseases, July 2022

概要
 ワクチンは感染症をコントロールする非常に効果的な手段です。様々な試験・研究を経て効果や安全性が確かめられた上で、小児予防接種プログラムに導入されます。私はYale大学での博士課程で、集団レベルでのワクチンの評価研究、つまり「ワクチンが予防接種プログラムに導入されたあと、何人の人が病気にならずに済んだのか」を推定する研究に取り組みました。このような推定はワクチン政策の改善・推進にとって必要不可欠であり、各国政府、WHOなどの国際機関、製薬会社などから重視されています。しかしながらワクチンによって予防できた症例数を正確に推定するのはあまり容易なことではありません。ワクチンが予防接種プログラムに組み込まれなかった場合何人の人が病気になったか(いわゆる「反事実」)を推定することが難しいからです。症例数はワクチン以外の影響(例:医療へのアクセス、一般的な健康状態や衛生状況の改善など)でも変化するので、ワクチン導入前後の症例数を単純に比較するわけにはいきません。そこで私は、ワクチン以外の要因による影響をコントロールした上でより正確に反事実を推定できる新しいベイズ統計モデルを開発しました(Shioda, et al. Epidemiology 2019; Shioda, et al. Epidemiology 2021)。
これらの新しく開発した手法および従来の手法を用いて、中南米10カ国での肺炎球菌ワクチンの効果を検証したのがこちらのClinical Infectious Diseasesに2021年7月に掲載された論文です。世界保健機関(WHO)やアルゼンチン、ブラジル、コロンビア、ドミニカ共和国、エクアドル、ガイアナ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、ペルーの政府と共同で、2000年から2016年までの小児死亡データを集め検証しました。結果、肺炎球菌ワクチン導入後、1) 肺炎による小児死亡者数が10カ国中5カ国で11〜35%減少したこと、2) 10カ国合計で約4500人の子どもの死を防ぐことができたことが分かりました。この結果はWHOのアメリカ地域事務局本部にて発表され、中南米10カ国でのワクチン政策の見直し・改善に役立ちました。また、WHOのワクチン効果評価ガイドラインにもこれらの新しい手法が掲載されています。

受賞者のコメント
特別賞に選んで頂きありがとうございます。とても光栄で嬉しく思っています。賞の選考に出させて頂いた論文をはじめ、公衆衛生の研究は壮大なチームワークで成り立っています。チームメンバーたちに報告するのが楽しみです。素晴らしい機会を与えてくださったUJAの皆様、チームメンバーたち、メンターたちに心から感謝しております。

審査員のコメント
高山秀一 先生:
This is the applicant's first correponding author paper. The paper is important in revealing how vaccination impacts people in many countries in real world situations.

斧正一郎 先生:
本研究は、中南米10か国においての、2000年から2016年までの肺炎球菌ワクチンの効果を検証し、そのうち5か国においては、6歳未満の小児死亡数の有意な減少が見られたが、残りの5か国では、一部のあるいはすべての年齢層で効果が無いことを、以前に塩田氏らが開発した統計モデルを用いて明らかにした。国際的なデータ収集と、その解析は容易でなかったことが想像される。塩田氏が大学院在籍中の研究結果であり、Corresponding author も務めていることから、本研究を主導してきたことがわかる。

中村能久 先生:
肺炎球菌感染症は、主に5歳未満の子供の病因・死因の主な疾患の一つである。本研究では、ラテンアメリカとカリブ諸国において、肺炎球菌ワクチン接種が肺炎球菌感染症による死亡率を抑える効果を調べ、これらの国々で11-35%減少させていることを見出している。この知見は、単に肺炎球菌ワクチン接種の効果を示しているだけではなく、各国でのワクチン政策に影響を与える重要な研究である。発表からわずかな期間で引用回数が増えている。また、この研究が大学院在籍中の成果であり、また応募者がcorresponding authorを務めていることも印象深い。

武部貴則 先生:
ポストコロナの社会情勢において、まさに疫学研究の重要性が浮き彫りになっている中で、肺炎球菌ワクチンを対象とした重要な成果をトップジャーナルに報告されています。特に、中南米の様々な前提条件が異なる国々のデータから、定量的に確からしいデータを推計しており、子どもたちへのワクチンの意義を明らかにしています。責任著者として、大きな共同研究グループをまとめられた大作だと思います。おめでとうございます。

エピソード
わたしは留学してもう10年以上になり、修士課程、政府機関(CDC)での就職、博士課程、ポスドクと経験してきましたが、振り返って考えるとやはり一番はじめ(Master of Public Healthの日々)が特に大変だったなと感じます。もし今大変な日々を過ごしている方がいらしたら、なんとか日々こなしていくと少しずつ道は開けていくと思います、とお伝えしたいです。

1)研究者を目指したきっかけ
獣医学専攻の3〜4年生時に研究室に正式に配属され、先生やラボメンバーたちが情熱を持って毎日研究に励んでいる様子を見て、とてもかっこいいなと思ったのがきっかけだと思います。

2)現在の専門分野に進んだ理由
私は小学生の頃南アフリカ共和国に住んでいて、「将来国際的な仕事がしたい、動物と人と環境をつなぐような仕事がしてみたい」と漠然と思っていました。そして獣医学専攻に進学し、公衆衛生や疫学の授業でWHOなどの国際機関で活躍している獣医師がいること、世界中で研究者として働いている獣医師がいることを知って、具体的な道を想像できるようになりました。

3)この研究の将来性
近年はCOVID-19でたくさんの人が実感していることですが、感染症疫学の研究は人の生活・国の政策に直結しています。大変やりがいのある仕事ですし、とても責任のある研究だと思っています。
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