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[特別賞]富田 洋平/ボストン小児病院

Yohei Tomita, M.D., Ph.D.

[分野9:南カリフォルニア]
(メタボローム解析による糖尿病網膜症の新規ターゲットの探索)
Diabetologia, January 2021

概要
糖尿病の眼合併症である増殖糖尿病網膜症(PDR)は、病態として眼内に病的血管新生が生じ、それが出血や網膜剥離の原因となるが、現状の治療では治癒困難例が多数存在する。就業年齢において失明するケースも多く、新規治療薬、ターゲットの発見が早急に求められている。本研究では、PDR患者と非糖尿病患者の硝子体のメタボローム解析を行い、新たな治療ターゲットとなる代謝物の探索を試みた。また動物モデルと比較し共通点を見出し、その代謝物の病態への関与を評価した。
我々は43名のPDR患者と、21名の黄斑上膜患者(コントロール)の硝子体を採取し、超高速液体クロマトグラフィ/質量分析(UHPLC/MS)を用いてメタボローム解析を行った。また眼内に病的血管新生を生じる、酸素誘導網膜症(OIR)マウスモデルの網膜を採取し、LC/MSを用いたメタボローム解析を行った。PDR患者の硝子体では158の代謝物がコントロールと比べ変化しており、その中でもクレアチンが低下していることに注目した。またOIRマウスの網膜の解析においても、コントロール群と比べクレアチンの低下が認められた。さらにクレアチンをOIRマウスに経口投与すると、コントロール群に比べ有意に血管内皮増殖因子(Vegf)−AのmRNAの発現を低下させ、網膜の病的血管新生を抑制した(p=0.0024)。
以上よりPDRのヒトの硝子体と、OIRマウスの網膜のメタボローム解析から、両者に共通してクレアチンの低下が起こることを見出し、またクレアチンが増殖糖尿病網膜症の新たな治療ターゲットとなりうる可能性が示唆された。現在、さらなるメカニズムの解明を検討中である。

受賞者のコメント
この度は栄誉あるUJA特別賞に選んでいただき、大変光栄に思います。今回の研究は日本人のサンプルを米国で分析し、さらに統計解析をカナダの研究者にお願いした国際共同研究であり、私一人の力では到底なしえない仕事でした。この場を借りてこの研究に携わって頂いた先生方に厚く御礼申し上げます。この賞を励みに今後の研究をさらに発展させていきたいと思います。またお忙しい中、本賞の企画や論文を選考してくださった先生方にも大変感謝申し上げます。

審査員のコメント
金子直樹 先生:
糖尿病による網膜症は世界で最も多い失明の原因である。増殖糖尿病網膜症はその中でもより進行した後の状態で、その段階に特異的な新生血管が治療のターゲットとなっている。ただ、そのメカニズムはいまだに不明で、それを確実に治療できる方法も存在しない。申請者は増殖糖尿病網膜症と非糖尿病者のメタボローム解析を行い、クレアチンが増殖糖尿病網膜症の硝子体に少ないことを発見した。さらに酸素誘導網膜症マウスモデルの網膜のメタボローム解析を行い、同様にクレアチンが低下していることを発見した。クレアチンをそのマウスモデルに投与することで血管内増殖因子の遺伝子発現を低下させ、新生血管の発生を抑えることを示した。本研究は臨床から得られたデータだけでなく、マウスモデルも用いてクレアチンの減少およびその投与による病態の制御を示した優れた研究である。

北郷明成 先生:
ヒト検体を用いて糖尿病の三大合併症である糖尿病網膜症の治療ターゲットを探索した研究。患者サンプルをメタボローム解析してクレアチンが治療ターゲットとなる発見をし、さらに動物実験でその効果を検証した意義の高い研究。メカニズムの解明とその臨床的効果が期待される。

エピソード
ヒトのメタボローム解析の結果と、動物モデルの結果が一致した時は非常に興奮を覚えました。しかし更なるメカニズムの解明を、というところでCOVID19のパンデミックが起こり、ラボはシャットダウン、その時点までのデータをまとめて投稿しました。その時はもう少しデータを集めてから投稿をと思っておりましたが、今振り返ると、あの時に投稿に舵をきった私のボスに感謝です。

1)研究者を目指したきっかけ
小学生低学年の時に自分が近視になり、眼科通院と眼鏡をかける必要でした。それがとても嫌で、眼をよくする薬を作りたいと思ったのがこの道を志したきっかけです。
2)現在の専門分野に進んだ理由
実際に眼科医になって多くの患者さんの治療をしているうちに、網膜の病気で失明していく方々を数多く経験しました。現状の治療だけでは限界があり、それ以外の治療法の開発を、という思いの元この分野に進みました。
3)この研究の将来性
糖尿病網膜症は現在の治療だけでは失明する患者さんが多数おります。今回の研究成果が新規治療薬開発への糸口になればと考えております。
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