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執筆者の写真cheironinitiative

[特別賞]寺嶋 秀騎/理化学研究所

Hideki Terajima, Ph.D.

[分野5:イリノイ]
(RNA修飾によるインターフェロン応答の制御機構)
PLOS Biology, July 2021

概要
DNA (設計図) からRNA (コピー) が転写されタンパク質 (機能) へと翻訳される一連のセントラルドグマにおいて、RNAの化学修飾による遺伝子発現制御の重要性が近年明らかにされつつある。この新しい概念はエピトランスクリプトミクスと呼ばれ、広範な生命現象や疾患と関連するのみならず、RNA編集医療や核酸医薬など臨床応用の観点からも分子的な理解が不可欠な研究領域である。事実、SARS-CoV-2 mRNAワクチンの開発はRNA修飾の機能解明なくしては到達し得なかった。
哺乳類において最も豊富に存在するmRNA修飾はイノシン修飾 (A-to-I RNA編集) およびメチル化修飾 (m6A) であり、修飾酵素のノックアウトマウスが致死性を示すため、いずれも個体の生存に必須のRNA修飾である。両者ともアデノシン(A)における修飾であるが、機能的な相互作用については未知であった。申請者は、RNAメチル化部位の網羅データ解析から、A-to-I RNA編集酵素ADAR1のmRNAがm6A修飾を受けることを見出した。さらに、m6A修飾特異的な結合タンパク質YTHDF1がインターフェロン刺激時にADAR1 mRNAの翻訳を促進することを示した。実際に、神経膠芽腫においてYTHDF1をノックダウンしRNA-seq解析を行うと、インターフェロン刺激時にA-to-I RNA編集効率の低下が観察された。A-to-I RNA編集は内在性の二本鎖RNA (dsRNA) の構造変化により、細胞内ウイルスセンサーMDA5の活性化を防ぐ役割がある。そのためYTHDF1ノックダウンは、未編集の内在性dsRNAの蓄積を介してMDA5を活性化し、インターフェロン応答の過剰惹起によるアポトーシス誘導と細胞増殖の阻害を引き起こした。その生理学的意義として、YTHDF1を介したRNA編集制御が水疱性口内炎ウイルスの複製を促進していることを明らかにした。
本研究では、m6A修飾によるA-to-I RNA編集制御という主要なRNA修飾同士の意外な機能連関と、RNA修飾による自然免疫応答の抑制機構という新規の分子メカニズムを解明した。本研究の成果により、RNA修飾による免疫応答制御の理解に基づいた新たな抗ウィルス薬やがん免疫療法の開発に貢献できると考えている。

受賞者のコメント
この度は、UJA優秀特別賞という素晴らしい賞をいただき大変光栄です。本賞をとりまとめ頂いた先生方や審査員の先生方に心より感謝申し上げます。今回の論文は渡米後初の筆頭著者として執筆した論文であり、またパンデミックの状況下でラボの長期に渡る閉鎖や厳しい人数制限を乗り越えて完成させたものですので、非常に思い入れの深い研究です。そのため、今回の論文がこのような評価をいただき大変嬉しく思います。現在は帰国して研究を続けておりますが、この受賞を今後の研究人生の励みとし、より一層精進して研究を継続していく所存です。

審査員のコメント
佐田亜衣子 先生:
本研究は、インターフェロン刺激下において、m6A結合タンパク質YTHDF1がADAR1 mRNAの翻訳を高め、A-to-I RNA編集を促進することで、自然免疫応答を制御する生理機能を持つことを示した。本研究成果は、commentaryに取り上げられ、当該分野で注目を集めている。RNAバイオロジーの基礎的研究にとどまらず、より広い視点から現象を捉えようとする姿勢が感じられる。寺嶋氏は、これまでにもRNA修飾に関する優れた研究成果を挙げており、今後さらなる活躍が期待される。

山田かおり 先生:
RNAの修飾に関わる分子の相互作用を示した興味深い論文である。A-to-I RNA編集を行うADAR1のmRNAがm6A修飾を受けることで発現量を制御されているという知見は新しく、重要である。

牛島 健太郎 先生:
主要な2つのRNA編集機構の機能連関を発見し、そこから細胞内ウイルスセンサーMDA5の活性化ならびにインターフェロン応答性が増大する機序を明らかにしている。本研究成果は、RNA編集による免疫応答制御の理解を深めるものであり、新たな免疫関連治療薬の創出に貢献するものと期待する。

エピソード
皆様も似たような状況だったかとは思うのですが、新型コロナウイルスによる実験停止の煽りを受け、進行中であったマウスを使ったvivoでの実験を諦め、細胞レベルの内容のみで区切りをつけざるを得なかったことは残念でした。また、パンデミックにおけるラボの人数制限への考慮があったのかreviewコメントへの返答期限が6ヶ月もあり驚いたのですが、コメントの多さから時間的余裕がさほどなく結局普段よりも仕事量が多くなったことには閉口しました。さらに、rebuttal letter投稿直後に非常に良く似た論文が出版され、ここで決まらなければかなり後塵を拝することになってしまうと大変気を揉んだのですが、なんとか受理に至り、別グループによる再現性の担保という意味でも安堵しました。

1)研究者を目指したきっかけ
新しいことを発見できる喜びを味わえる職業だから
2)現在の専門分野に進んだ理由
生物の持つ精巧なメカニズムに惹かれて
3)この研究の将来性
がん治療、ウイルス感染防御
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