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執筆者の写真cheironinitiative

[特別賞]小島 敬史/ノースウェスタン大学

更新日:2022年4月25日

Takashi Kojima, M.D.

[分野5:イリノイ]
(KCNQ4短縮型バリアントの病態と治療の可能性)
Disease Models & Methods, 1 November 2021

概要
Kv7.4は主として外有毛細胞に発現し、ホモ四量体で形成される電位依存型カリウムチャネルであり、それをコードするKCNQ4は優性遺伝形式をとる非症候性感音性難聴の原因遺伝子である。主として後天発症の進行性難聴を呈し、病態として優性阻害効果によるチャネル機能異常が考えられている。一方で、ホモ四量体を形成するのに必要なC末端のA-domainを欠く短縮型バリアントにおいては、複合体が形成されないため優性阻害効果が起こらないはずにもかかわらず重度難聴を呈する症例や、劣性遺伝家系の報告といった従来の病態解釈では説明が困難な症例も存在する。我々はKCNQ4短縮型バリアントの病態メカニズムについて検討を行った。
基礎実験で病態の証明されていない3つのKCNQ4短縮型バリアントに着目し、HEK293T細胞由来の安定細胞株を構築した。東アジアで最も頻度の高いp.Q71fs、非典型的に出生初期から重度難聴を呈するp.W242X、唯一劣性遺伝形式とされるp.A349fsを標的バリアントとして選択。Sleeping beauty transposon systemを用い、ドキシサイクリン濃度依存的に目的タンパク質を発現させるようにした。
Whole cell patch clamp法では、対象となる短縮型バリアントは静止膜電位低下を起こさなかった。共免疫沈降法ではWTと短縮型バリアントは複合体を形成せず、優性阻害効果によるチャネル機能障害を起こさないことを示した。次にプレートリーダーを用いてリアルタイムに細胞死を計測、HEK293T細胞や野生型と比較し、短縮型バリアントではドキシサイクリンの濃度依存的な細胞死が観察された。細胞死の程度は難聴の程度と関連していた。また、先天性難聴とともに乳幼児突然死症候群の原因遺伝子であるKCNQ1の短縮型バリアントでも同様の細胞死を認めた。細胞死の経路として、小胞体ストレスを介したアポトーシスが起こっていることが示唆された。さらに薬物スクリーニングを行った結果、オートファジー誘導物質やアポトーシス阻害物質により細胞死の減衰を認めた。
KCNQ4短縮型バリアントによる難聴発症メカニズムは、従来考えられていた病態ではなく、直接的細胞毒性によってアポトーシスが誘導されていることである可能性がある。既知の病態が証明されているタンパク質であっても、直接的細胞死という未知のメカニズムにより疾患を発症している可能性を示した点で重要な研究といえる。治療薬による細胞死減衰が他の実験系でも再現できれば、これまで治療薬の存在しない先天性難聴や乳幼児突然死症候群の治療法が確立できるかもしれない。

受賞者のコメント
今回は特別賞をいただきまして、ありがとうございます。例年の受賞者をみると、高IF雑誌に掲載された論文が並ぶ中で選ばれる自信はまったくありませんでしたので、本当に嬉しいです。私は臨床医師としてのほぼ基礎研究の経験なく渡米してからの論文であったことを評価いただいたのかとおもっております。これからも細々続けていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。

審査員のコメント
牛島 健太郎 先生:
従来の解釈モデルで説明できない非症候群性感音難聴の、新たな病態メカニズム解明に取り組んだ研究である。変異型発現細胞を用いた実験により、KCNQ4短縮型バリアントでは直接細胞毒性誘発性アポトーシスを認めることを明らかにした。さらに筆者らは薬物スクリーニング試験も実施しており、今後は治療薬創出が期待される。

エピソード
私の場合、2020年3月からコロナウイルス蔓延のため、stay at home order 下で過ごしました。そのため、ラボへも基本的に行ってはいけないという環境の中で3ヶ月すごしました。ちょうどこの時妻の体調が悪く、炊事洗濯子育てを全てやりながら夜中起きて研究データいじりをしていたのは良い経験です。

1)研究者を目指したきっかけ
私は臨床医を目指して医師になりましたが、いつも患者さんをみているうちに、医学でわかってないことが沢山ある事、自分一人でできる事の限界を感じました。基礎研究であれば、普通に医師をやっているより多くの患者さんを救え、今までわかっていないことがわかるようになるかも、と思い研究に興味を持ちました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
耳鼻咽喉科は嗅覚、味覚、聴覚を扱う、感覚器が特徴の分野ですが、その中でも「聴覚」は視覚と並んで社会経済的な価値が高い感覚です。私はその中でも先天性難聴を専門として研究を行いました。先天性難聴は出生時1000人に1人で発症すると言われ、先天性障害の中では最も高頻度です。人工内耳は発達していますが、今のところ投薬による治療法は確立していません。私はこの社会に対する貢献度の高いと思われる感覚を扱う分野に進みたいと考え、耳鼻咽喉科を選びました。
3)この研究の将来性
私の研究は先天性難聴のうち、有毛細胞という音を感じる細胞内のカリウムイオン濃度を調整するタンパク質に着目しました。このタンパク質の遺伝子変異ではカリウムを排泄できなくなることで有毛細胞が機能を失うことがその病態と考えられていました。しかし、今回の研究では、一部の遺伝子変異では遺伝子変異で発生した異常なタンパク質が蓄積することで直接的に細胞死が起こることがその病態と示し、既存の薬剤の一部が治療薬になるかもしれない事を示しました。今回の研究は、既に機能がわかっているタンパク質の遺伝子変異であっても、全く異なる機構で病気を起こす可能性がある事、また、機構が異なれば治療法も異なる可能性がある事、そして先天性難聴の一部は既存の薬剤で治療できるかもしれない事を示しました。
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